pomegranate
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「イデアァ…………」
僕の部屋に入った***氏が、入口の暗がりでゆらりと顔を傾けて眼光を向けてきた。殺気に似たものを発するその姿はどう見ても尋常じゃない。右手に何か持ってるし。
「ヒッ……!? ど、どうしたの……?」
おかしいな、さっき休憩時間の教室移動中にすれ違った時にはいつも通りだったのに。
「な、何かあった……? 授業中に嫌なこととか……あっ勿論拙者に不満があるなら直すし、それとも今日の放課後のお部屋デート本当は嫌だった……?」
僕がそう言う間に、***氏は聞こえてるのか聞こえてないのか分からない感じで、体勢はそのまま一歩一歩床に座る僕に近付いてきた。そしてとうとうほぼゼロ距離になった。
「ヒッ」
***氏が急に右手を差し出したので勝手に口から悲鳴が出た。
「柘榴……?」
よく見るとその手に持っているものは柘榴の実だった。紫がかった赤をほんの少し橙に透かした色の皮が割れて、グロテスクさすら感じるみずみずしそうな中身が見えている。***氏は割れ目からさらに房をこじ開けると、その中から何粒も掴み取り、自分の口に放り込んだ。
そして、拙者が疑問を声にする前に、***氏が勢いよく唇を重ねてきた。
「っ…………???」
体温の高い唇が、捕食するように、互い違いに合わさっている。咄嗟のことだし抵抗する気なんて無いしで、力なく半開きになった僕の口腔に、***氏の舌と共に数粒の柘榴が運ばれてきた。***氏、ギザギザの歯に引っかからず舌挿し込んでくる技術すごいね。恥ずかしさを覆い隠すためか、そんな冷静っぽい分析が頭を駆けていく。目的を達成したのか、それで舌と唇は離れていった。
「??」
食べろってことなんだろう、きっと。僕を見下ろしながら口を動かす***氏を見つつ、僕もおずおずと口移しされた柘榴を噛む。歯に触れた瞬間、それは甘酸っぱいフレッシュな果汁を炸裂させた。僕と真逆の味だ。だけど心地良さもあった。もう少し味わっていたかったけど、尖った歯と歯にすり潰されて、あっという間に柘榴は種ごと嚥下された。
「ほ、本当にどうしたの……? 急にここ、こんなこと……」
さっきまでの***氏の唇と舌の熱さの余韻が、まだ僕の口には残っていた。
「ゴーストマリッジ」
「え?」
「情報来たじゃないか」
「……あ、あ~~あれね! やだな***氏そんなメタいこと言っちゃダメなんだよ? なになにやっぱり夢主らしく嫉妬してるんでござるか~~?」
「そうだよ、嫉妬してるよ」
***氏は毅然とそう言った。そしてしゃがみ込んで僕と視線を水平に合わせた。そこでようやく***氏の表情がよく見えた。『嫉妬』という言葉の印象から受ける黒々としたものは感じなかった。
「でっ、でも、イベストの最後ではどうせこの話ご破算になるし……」
「だろうね。だけど、たとえ一瞬でもイデアを他の誰かのものにさせる隙なんて与えたくない」
それはとてつもなく強欲な言葉だった。一人の人間を自分の所有物として扱うなんて。
「ご……強欲ですな***氏~……考えようによってはアズール氏も顔負けですぞ。そ、そーんなに拙者のことが、好きだ、なんて…………」
揶揄うために指した人差し指が、どんどん力を失っていく。代わりに自分の顔面が、どんどん熱を持っていく。
「ば、馬鹿じゃないの…………そんな重いこと言ったって、どうせ僕らの関係も長くて学生である期間の内だけなんだから、そういう永遠っぽいこと言わない方がいいよ……嘘になるだけだから……。ほら今だって僕はこうやって君の言うこと否定ばっかりして……嫌になったでしょ? 今なら撤回してもいいんだよ?」
──やってしまった。僕は喋りながら後悔する。本当は嬉しくてたまらないのに。たとえ今だけの気持ちでも、『自分のもの』と言ってくれたことが幸せなのに。だけど、同じ言ってくれるなら、それがずっと続いてほしいと思ってしまって……。強欲なのは、僕の方じゃないのか?
目頭が熱くなる。だけどその人は──***氏は。
「撤回しない。それに、イデアがそれでいいなら……ずっとずっと一緒にいてほしい。」
そう言う目は脳の奥まで射抜くような、どこまでもまっすぐなものだった。
「そしてこうやって抱き締めて、好きだよって、いつでも言わせてほしい。」
***氏が僕の胴体を両腕でぎゅっとして、体を最大限くっつけて、心臓の鼓動が届きそうなぐらい密着した。もしかしたら早鐘を打つ僕の鼓動は、服と肌を通して伝わっているかもしれない。
「***氏…………」
洪水のように感情が溢れ出す。なんとかそれを言葉にして、一つずつ発していく。
「そんな、そんなギャルゲーでもなかなか聞けないぐらいの王道かつ破壊力抜群の口説き台詞……一体どこで覚えてくるの……? 怖…………もう……本当に……」
いつまで経ってもどきどきが収まらない。攻略される側の気持ちってこんななんだなあ、なんて。
「……それで、返事としてはどっちなのかな? イデアくん!」
拙者の胸元の***氏が、懐こい犬みたいな目で見上げてくる。
「そりゃあもう……。こ、こんな僕でよければ……こちらこそ。ずっと一緒にいてください。」
僕は***氏を抱き締め返した。
「苗字いる?」
「苗字……? あ、ああ。そういう……。確かに***氏の苗字になれたらいいな……。僕の家の方がなんて言うか分からないけど……」
……現実的には難しいだろうな。だけどそんな障害さえ霞ませるほど、今この瞬間に感じる***氏の体温は底抜けに快かった。
ふと、あることに気付いた。
「結局、柘榴はなんだったの……?」
「イグニハイド寮寮長は勿論ご存知だろうけど、死者の国の王とペルセポネの話からだよ」
「う、薄々そうじゃないかとは思ったけど本当にそうだとは……。というかそれ僕が拒否すること想定してなくない?」
「そうだよ。あはは」
「本当に***氏はさぁ……」
この日は夜通しゲームして遊んだ。
次の日、ボドゲ部にて。部室に来るなりアズール氏が言った。
「イデアさん。昨日、***さんが自分の部屋に帰らなかったという噂を耳にしたのですが」
「ああ、そうだよ。昨日は協力プレイのやつ一気にクリアしたんだよね。時間が遅かったから泊まってもらったんだけど、やはり深夜に一緒に食べるジャンクフードの味は格別ですなwwww」
「……手は、出さなかったんですか?」
「え?」
「普通泊まるとなればそういった雰囲気にぐらいなるでしょう!! 本当に何もなかったんですか……?」
「し、したよ……キスは……」
「キス!?」
「き、キスって言ってもでぃ、ディープの方だから!!!!」
するとアズール氏はハァーとため息をついた。
「あなた……それでも健全な思春期の男子ですか?」
「だ、だって……正式に結婚するまでそういうことはしたらいけないから……」
僕の言葉を聞くと、アズール氏は度肝を抜かれた顔をした。いや分かってるんだよ、普通とは違う感覚だってことは。でもそうやって教えられてきて身に染み付いてるんだよ。
「まさか……あなたがそんな厳格な貞操観念をお持ちだったなんて……ん? 『正式に』……?」
「あっ」
しまった。
「『正式に』ということは……正式ではない方法では既に結婚しているも同然であると……? なるほど……」
アズール氏が悪い顔をしている。これは商売になるものを見つけた時の顔だ……。
「な、何を対価に強請る気」
「まあこれは同じ部のよしみとして、無料で黙っておいてあげましょう。ね」
僕はそれを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。
「アズール氏にも人の心があったんでござるね~」
「失礼な。僕はいつだって慈悲に溢れてますよ」
「……結婚式、本当にすることになったらアズール氏も呼ぶからね」
「ええ、楽しみにしています」
僕の部屋に入った***氏が、入口の暗がりでゆらりと顔を傾けて眼光を向けてきた。殺気に似たものを発するその姿はどう見ても尋常じゃない。右手に何か持ってるし。
「ヒッ……!? ど、どうしたの……?」
おかしいな、さっき休憩時間の教室移動中にすれ違った時にはいつも通りだったのに。
「な、何かあった……? 授業中に嫌なこととか……あっ勿論拙者に不満があるなら直すし、それとも今日の放課後のお部屋デート本当は嫌だった……?」
僕がそう言う間に、***氏は聞こえてるのか聞こえてないのか分からない感じで、体勢はそのまま一歩一歩床に座る僕に近付いてきた。そしてとうとうほぼゼロ距離になった。
「ヒッ」
***氏が急に右手を差し出したので勝手に口から悲鳴が出た。
「柘榴……?」
よく見るとその手に持っているものは柘榴の実だった。紫がかった赤をほんの少し橙に透かした色の皮が割れて、グロテスクさすら感じるみずみずしそうな中身が見えている。***氏は割れ目からさらに房をこじ開けると、その中から何粒も掴み取り、自分の口に放り込んだ。
そして、拙者が疑問を声にする前に、***氏が勢いよく唇を重ねてきた。
「っ…………???」
体温の高い唇が、捕食するように、互い違いに合わさっている。咄嗟のことだし抵抗する気なんて無いしで、力なく半開きになった僕の口腔に、***氏の舌と共に数粒の柘榴が運ばれてきた。***氏、ギザギザの歯に引っかからず舌挿し込んでくる技術すごいね。恥ずかしさを覆い隠すためか、そんな冷静っぽい分析が頭を駆けていく。目的を達成したのか、それで舌と唇は離れていった。
「??」
食べろってことなんだろう、きっと。僕を見下ろしながら口を動かす***氏を見つつ、僕もおずおずと口移しされた柘榴を噛む。歯に触れた瞬間、それは甘酸っぱいフレッシュな果汁を炸裂させた。僕と真逆の味だ。だけど心地良さもあった。もう少し味わっていたかったけど、尖った歯と歯にすり潰されて、あっという間に柘榴は種ごと嚥下された。
「ほ、本当にどうしたの……? 急にここ、こんなこと……」
さっきまでの***氏の唇と舌の熱さの余韻が、まだ僕の口には残っていた。
「ゴーストマリッジ」
「え?」
「情報来たじゃないか」
「……あ、あ~~あれね! やだな***氏そんなメタいこと言っちゃダメなんだよ? なになにやっぱり夢主らしく嫉妬してるんでござるか~~?」
「そうだよ、嫉妬してるよ」
***氏は毅然とそう言った。そしてしゃがみ込んで僕と視線を水平に合わせた。そこでようやく***氏の表情がよく見えた。『嫉妬』という言葉の印象から受ける黒々としたものは感じなかった。
「でっ、でも、イベストの最後ではどうせこの話ご破算になるし……」
「だろうね。だけど、たとえ一瞬でもイデアを他の誰かのものにさせる隙なんて与えたくない」
それはとてつもなく強欲な言葉だった。一人の人間を自分の所有物として扱うなんて。
「ご……強欲ですな***氏~……考えようによってはアズール氏も顔負けですぞ。そ、そーんなに拙者のことが、好きだ、なんて…………」
揶揄うために指した人差し指が、どんどん力を失っていく。代わりに自分の顔面が、どんどん熱を持っていく。
「ば、馬鹿じゃないの…………そんな重いこと言ったって、どうせ僕らの関係も長くて学生である期間の内だけなんだから、そういう永遠っぽいこと言わない方がいいよ……嘘になるだけだから……。ほら今だって僕はこうやって君の言うこと否定ばっかりして……嫌になったでしょ? 今なら撤回してもいいんだよ?」
──やってしまった。僕は喋りながら後悔する。本当は嬉しくてたまらないのに。たとえ今だけの気持ちでも、『自分のもの』と言ってくれたことが幸せなのに。だけど、同じ言ってくれるなら、それがずっと続いてほしいと思ってしまって……。強欲なのは、僕の方じゃないのか?
目頭が熱くなる。だけどその人は──***氏は。
「撤回しない。それに、イデアがそれでいいなら……ずっとずっと一緒にいてほしい。」
そう言う目は脳の奥まで射抜くような、どこまでもまっすぐなものだった。
「そしてこうやって抱き締めて、好きだよって、いつでも言わせてほしい。」
***氏が僕の胴体を両腕でぎゅっとして、体を最大限くっつけて、心臓の鼓動が届きそうなぐらい密着した。もしかしたら早鐘を打つ僕の鼓動は、服と肌を通して伝わっているかもしれない。
「***氏…………」
洪水のように感情が溢れ出す。なんとかそれを言葉にして、一つずつ発していく。
「そんな、そんなギャルゲーでもなかなか聞けないぐらいの王道かつ破壊力抜群の口説き台詞……一体どこで覚えてくるの……? 怖…………もう……本当に……」
いつまで経ってもどきどきが収まらない。攻略される側の気持ちってこんななんだなあ、なんて。
「……それで、返事としてはどっちなのかな? イデアくん!」
拙者の胸元の***氏が、懐こい犬みたいな目で見上げてくる。
「そりゃあもう……。こ、こんな僕でよければ……こちらこそ。ずっと一緒にいてください。」
僕は***氏を抱き締め返した。
「苗字いる?」
「苗字……? あ、ああ。そういう……。確かに***氏の苗字になれたらいいな……。僕の家の方がなんて言うか分からないけど……」
……現実的には難しいだろうな。だけどそんな障害さえ霞ませるほど、今この瞬間に感じる***氏の体温は底抜けに快かった。
ふと、あることに気付いた。
「結局、柘榴はなんだったの……?」
「イグニハイド寮寮長は勿論ご存知だろうけど、死者の国の王とペルセポネの話からだよ」
「う、薄々そうじゃないかとは思ったけど本当にそうだとは……。というかそれ僕が拒否すること想定してなくない?」
「そうだよ。あはは」
「本当に***氏はさぁ……」
この日は夜通しゲームして遊んだ。
次の日、ボドゲ部にて。部室に来るなりアズール氏が言った。
「イデアさん。昨日、***さんが自分の部屋に帰らなかったという噂を耳にしたのですが」
「ああ、そうだよ。昨日は協力プレイのやつ一気にクリアしたんだよね。時間が遅かったから泊まってもらったんだけど、やはり深夜に一緒に食べるジャンクフードの味は格別ですなwwww」
「……手は、出さなかったんですか?」
「え?」
「普通泊まるとなればそういった雰囲気にぐらいなるでしょう!! 本当に何もなかったんですか……?」
「し、したよ……キスは……」
「キス!?」
「き、キスって言ってもでぃ、ディープの方だから!!!!」
するとアズール氏はハァーとため息をついた。
「あなた……それでも健全な思春期の男子ですか?」
「だ、だって……正式に結婚するまでそういうことはしたらいけないから……」
僕の言葉を聞くと、アズール氏は度肝を抜かれた顔をした。いや分かってるんだよ、普通とは違う感覚だってことは。でもそうやって教えられてきて身に染み付いてるんだよ。
「まさか……あなたがそんな厳格な貞操観念をお持ちだったなんて……ん? 『正式に』……?」
「あっ」
しまった。
「『正式に』ということは……正式ではない方法では既に結婚しているも同然であると……? なるほど……」
アズール氏が悪い顔をしている。これは商売になるものを見つけた時の顔だ……。
「な、何を対価に強請る気」
「まあこれは同じ部のよしみとして、無料で黙っておいてあげましょう。ね」
僕はそれを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。
「アズール氏にも人の心があったんでござるね~」
「失礼な。僕はいつだって慈悲に溢れてますよ」
「……結婚式、本当にすることになったらアズール氏も呼ぶからね」
「ええ、楽しみにしています」