病んだドラスティアと兄妹ごっこを始めるだけ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
弟のことがフラッシュバックしてきて病んでるドラスティア
「あんな弟などもういらん。マスター、妹になってくれ」
「えっ…………!? まず種族違うよ……?」
「種族など関係ない……。絆こそがきょうだいの証だ」(キラキラ…)
「そんな顔初めて見た……。でもいくらなんでもドラスティアの妹にしては弱すぎるし……」
「妹は戦場に行かせん」
「あっそういう感じなんだ……」
「ということでとりあえず今日一日妹になるけど……何かやりたいことあるの?」
「そうだな……。
妹がいたことがないから、何をやればいいか分からん……。マスターは何かあるか? 兄がいたらやりたいことは」
「わかんない……一人っ子だから、きょうだいがいるって感覚自体知らないし……。とりあえず、いつもどんな感じでお兄ちゃんしてたの?」
「お兄ちゃん……その言葉を聞くのは久しぶりだ。昔はよく親に『お兄ちゃんだから』と言われたものだ。あいつに本格的に稽古をつけてやる前は何をしていた……? ああ、遊びに付き合ってやっていたな。遊ぶか?」
「あ、遊ぶって……。具体的に何してたの?」
「おいかけっことかだな」
「おいかけっこか〜……。もうそこまでシンプルな遊びで楽しめる歳じゃないな……。ちょっと待って、色んな人のお兄ちゃんの思い出を検索してみよう
ダメだ思ったより出てこない……」
「家族の思い出はあまりオープンな場で書かないだろうな」
「おっかしいな、場所によってはそういうのが集まったりするのに……。仕方ない、こうなったら物語の兄妹を参考にしよう!」
マスターのベッドに寝かされた私は、早朝という設定でロールプレイを始めることになった。あまり演技の類は得意ではないのだが、うまくやれるだろうか。そう思っていると、エプロンをしたマスターが、おたまを持って私の顔を覗き込んできた。
「お兄ちゃん! もう8時だよっ! おやすみだからってあんまりぐうたらしないの! おきなさい!」
言葉こそ叱責しているが、声色はどこか甘く、少し舌足らずだ。成程、私は自堕落という設定なのか。
「ん……おはよう」
ならばそれに合わせて、なんとなくだらしなく見えるよう体を起こしてみよう。
「もうちょっとで朝ごはんできるから、着替えたら先に顔洗ってて」
「……本当に顔を洗うのか?」
「どっちでもいいよ」
「着替えるのは……」
「うーん、一旦そのまんまで」
一応顔は洗ってこよう。没入感が増せば演技力が上がるかもしれない。
洗面所から戻ると、部屋には食欲をそそる香りが漂う。マスターは私が知らない歌を楽しげに歌いながら、小さい鍋をかき混ぜている。私は直感的に思った、これが妹の良さか。
「お兄ちゃんご飯よそっといてー」
言われるまま、炊飯器を開けて茶碗二つに白米をよそう。マスターがいつも食べる量はこのぐらいだったか? テーブルにそれらを並べる。
「先座ってていいよ」
手伝えることはないかと、マスターの周りをうろうろしていると、そう言われた。言葉に甘えて座らせてもらう。
マスターは味噌汁と、卵焼きと、ソーセージと、ほうれん草の炒めものを並べると、私の対面に座った。
「はい、じゃあ。いただきます」
「いただきます」
マスターがするように私も手を合わせる。相変わらず不思議な文化だ。
私はまず味噌汁の器を手に取り、少しばかり汁を飲んだ。
「お兄ちゃんどう? おいしい?」
「ああ。うまい」
深みのある香りとまろやかな塩気。異国の食事だというのに、どこか安心する味だ。
右手でなんとか箸を持ち、左手に茶碗を抱える。以前もマスターの手作り料理をいただいたことがあるため、一応箸の使い方は学んでいる。卵焼きを箸で一口分に切り、口に運ぶ。マスターの好みで甘めの味付けだ、うまい。
マスターの料理を褒めたい。思えばこの演技中で、どう呼べばいいんだ? 妹という家族である以上、『貴方』と呼ぶのはおかしいだろう。ならば愚弟にしていたように『お前』と言うのが適しているだろうか。そして妹ということは、いつもこの食事を作ってもらっているのだろう。
「お前の料理を毎日食べられて幸せだよ」
そう口にすると、自然と自分の顔が綻ぶのがわかった。
言われたマスターは顔を真っ赤にして、手をぶんぶん振りながら謙遜する。
「……っ!? やだっ、お兄ちゃんってば大袈裟だよ〜〜!」
マスターは演技がとても上手だ。私とは比べるべくもない。
料理をいただいた後、次の予定を考えた。
「お兄ちゃんといったらな〜……休日にはショッピングなんだけど……。妹に付き合わされて色んな店回って……」
「なら行くか?」
「でもあんまりドラスティアと会話してると不審だろうからなー……どうしようかな」
マスターが悩み出す。残念だが私に提案できることはない。
「あれの本質ってお兄ちゃんが振り回されることだから、自宅でファッションショーはどう?」
「ファッションショー?」
「このコーデどう? って訊いていくから。それに素直に感想言ってほしいな」
「分かった」
マスターがクローゼットに向かっていく。確かに女性は服装に対して評価を欲しがるイメージだ。
マスターはいつも動きやすさを重視した服を着ている。ファッションショー、と言うからには普段と異なるテイストも着るのだろうか? 私はクローゼットの中身を知らないため、普段着以外の姿を想像できない。
そう思っていると、一つ目の組み合わせでマスターが出てきた。
「じゃーん! どうかな?」
ワンピースだ。長めの丈で、少し袖などに装飾がしてある。
「似合っている」
「むー。嬉しいけど、もっとコメントないの?」
「コメントか……」
服に詳しくないため言葉に困る。
「ふわっと浮かんだ感想でいいから!」
「大人っぽくて……こう、素敵、だな」
「んふふ。まあよしとしようかな」
私の感想はなんとか合格ラインを超えたらしい。これは苦労しそうだ。
「次はこれ!」
ふわふわした上着をハイネックの上に着ている。下はいつも履いているようなズボンだ。かっこいいような印象を受けるが、女性の服にかっこいいと言うのはいいのか?
「に……似合っている」
「もう! またそれ! 似合っている禁止!」
「他に出せる褒め言葉がないのだが……」
「思ったことを言ってくれればいいんだって! どう思った?」
「こういうのは……かっこいい、と言っていいのか?」
「そうそうそれそれ! お兄ちゃん分かってるじゃん♪」
言ってよかったらしい。ファッションは奥深いな。
マスターはまたクローゼットに籠るが、今度はなかなか出てこない。よほど考えているのだろう。待っていると、マスターが顔だけ出して訊いてきた。
「……もう、次がラストになっちゃってもいい?」
「? いいが」
「ファッションショーって言ったのに思ったより服なくて……ごめん面白くないよね」
「いや、十分面白いぞ」
「それならよかった。……次のやつ、ずっとタンスのこやしにしてたから、全然似合わないかも」
「それでもいい。折角だから見せてくれ」
「わ、笑わないでね……」
マスターが意図してふざけるでもない限り、私が笑うことはない。そもそも詳しくない私に笑う資格はないだろう。
引っ込んでいったマスターは、どうやら準備に手間取っているようだ。物を動かす音が忙しなく聞こえる。それにしても、マスターがあんな服を持っているとは知らなかった。疎い私でも分かるぐらい、分野の幅が広い。その上で普段はデュエルしやすい服装を選んでいるとは、流石私のマスターだ。
しばらくして、クローゼットの扉がゆっくりと開く。そっ、とマスターが足を踏み出すと、スカートが重たげに揺れた。
「おお……」
出てきたマスターは、沢山の装飾……フリルと言うんだったか? がついたスカートとシャツで、顔を赤らめながら出てきた。
「ど……どう? つい勢いで買っちゃったけど、結局着ていく場所がなくて、ずっとしまってて……」
「いいじゃないか。マスターによく似合……いや、かわいいな。」
「っ〜〜〜〜!」
ますますマスターの顔が赤くなる。
「ほ、本当……?」
「少なくとも、私の目には可愛らしく見えている」
「そそ、そっか。お兄ちゃんがかわいいって思ってくれるなら、いいや……」
「こんなに似合うのだから、外に着ていってもいいんじゃないか?」
「は、恥ずかしいよ……けど……」
マスターの声がどんどん小さくなる。
「?」
「なっ、なんでもない!」
「そうか」
これもマスターの言う『物語の兄妹』によくあるやりとりなのだろう。私が素で発した言葉も上手く取り入れる手腕が素晴らしい。
「服を見せてくれてありがとう。お前はオシャレだな。かわいいよ」
気付けばそう言って、マスターの頭を撫でていた。彼女の小さい体格も相まって、本当に妹のような気がしてきた。
「こ、こっちこそ……。お、お兄ちゃんはオシャレに興味なさすぎだから……ちょっとは勉強してよね……」
「はは。それもそうだ」
「……と、いうわけで、兄妹っぽいことをやってみたけど……。どう? 妹って感じした……?」
「お陰でかなり妹というものが掴めてきた。マスターが妹になればああいう日常を送れるということだな」
「今日は演技だったから、ああなるかはわかんないけど……」
「逆にマスターはどうだ? 兄が欲しくなったか?」
「…………ちょっと」
「それはよかった。じゃあうちの両親に養子縁組を頼もう」
「それはまだやめよ!!」
兄妹ごっこが終わった後、***は一人風呂に浸かった。部屋の方ではドラスティアが妹の感覚を反芻している。
(タイミング逃したけど、『料理を毎日食べられて幸せ』って……。正確には『味噌汁を毎日飲みたい』だけど、この辺だとプロポーズの意味になるって、言った方がよかった……?)
***の苦悩はまだある。
(あんなに軽率にかわいいって言って……、なんであれでモテないの? いや理由は分かるけど……)
***は内側に渦巻く持って行き場のない感情のまま、鼻まで湯に浸かった。
(ドラスティア、お兄ちゃん……。)
***が風呂から上がると、ドラスティアがドライヤーをコンセントに挿した状態で待ち構えていた。それを見た瞬間、***の心臓が跳ねる。
「昼間はマスターに妹として色々してもらったからな。髪を乾かすぐらいやらせてくれ」
思いもよらない申し出に心臓が早鐘を打ち始めた。普段なら申し訳なさから断っただろう。だが今日、ドラスティアがどれほど兄として振る舞いたがっているか分かったため、それに甘えてもいい……否、甘えたい、と思った。
「じゃあ、おねがい……」
「膝の上においで。しかし言ったものの、他人の髪を乾かすのは初めてだ。熱かったら言ってくれ」
***がヘアオイルを塗ってドラスティアの膝に乗ると、後ろでスイッチの音が鳴り、風と共に轟音が響く。髪を靡かせ頭を撫でる手は大きく、頭全体が覆われる。彼の膝は装甲で硬いが、その感触も心地良い気がした。事前の申告通り、確かにドラスティアの手際は良いものではなかった。自分でやる時ほど感覚が分からないのだから当然だ。爪の長い装甲の指がしきりに髪をかきわけ、風を当てる。
髪を触られていると安心する。温かい風が思考をゆるませるのと相まって、つい気が抜けてしまう。彼の手は昔髪を乾かしてくれた親よりも大きいために、感じたことのないほど、巨大な安堵が体を包む心地がした。
「ここから……マスターは冷風を当てるんだっか?」
「うん」
一旦乾かし終わると、彼がドライヤーを止めて訊いてきた。今度は穏やかに涼しい風が撫でる。***は、髪のケアを単純なものに絞っておいてよかったと思った。
「終わったぞ。これでよかったか?」
「うん。……ありがとう」
もっと触っていてほしかった気がする。だけど今日は、これだけでいいと思った。
「今後もマスターに対して敬意は払うが、いつでも甘えてきてくれ。演技じゃなく、本心でな。貴方と今後も戦うためにも」
「うん、ありがとう……でもあんまりこういうの、よくないんじゃない……?」
「よくないか?」
「な、なんか、さあ……。血が繋がってないし、しかもデュエリストと精霊なのに、こういうことするの……」
「そんなことは気にするな。些細なことだ」
「些細……?」
「誰がどう思おうが関係ない。何か言われたら私に言え」
「いや誰がというより自分の気持ち的に……」
「ほら、まずはもう一度呼んでみよう。お兄ちゃんと」
「お、お兄、ちゃん……」
「そうだ。その調子だ」
「う、いや、やっぱりダメだって……」
「まだ照れがあるのか。急に兄ができたのだから無理もない。ゆっくり慣れていこう。私のかわいい妹……」
ドラスティアは***を抱き締める。座った状態で頭一つ違う体格差によって、自然とぬいぐるみに対してするかのような手つきになる。そして左手を頭に乗せると、そのままじっとりと撫でた。
(あああああああああ!)
恐怖と歓喜で、***は内心絶叫した。
「あんな弟などもういらん。マスター、妹になってくれ」
「えっ…………!? まず種族違うよ……?」
「種族など関係ない……。絆こそがきょうだいの証だ」(キラキラ…)
「そんな顔初めて見た……。でもいくらなんでもドラスティアの妹にしては弱すぎるし……」
「妹は戦場に行かせん」
「あっそういう感じなんだ……」
「ということでとりあえず今日一日妹になるけど……何かやりたいことあるの?」
「そうだな……。
妹がいたことがないから、何をやればいいか分からん……。マスターは何かあるか? 兄がいたらやりたいことは」
「わかんない……一人っ子だから、きょうだいがいるって感覚自体知らないし……。とりあえず、いつもどんな感じでお兄ちゃんしてたの?」
「お兄ちゃん……その言葉を聞くのは久しぶりだ。昔はよく親に『お兄ちゃんだから』と言われたものだ。あいつに本格的に稽古をつけてやる前は何をしていた……? ああ、遊びに付き合ってやっていたな。遊ぶか?」
「あ、遊ぶって……。具体的に何してたの?」
「おいかけっことかだな」
「おいかけっこか〜……。もうそこまでシンプルな遊びで楽しめる歳じゃないな……。ちょっと待って、色んな人のお兄ちゃんの思い出を検索してみよう
ダメだ思ったより出てこない……」
「家族の思い出はあまりオープンな場で書かないだろうな」
「おっかしいな、場所によってはそういうのが集まったりするのに……。仕方ない、こうなったら物語の兄妹を参考にしよう!」
マスターのベッドに寝かされた私は、早朝という設定でロールプレイを始めることになった。あまり演技の類は得意ではないのだが、うまくやれるだろうか。そう思っていると、エプロンをしたマスターが、おたまを持って私の顔を覗き込んできた。
「お兄ちゃん! もう8時だよっ! おやすみだからってあんまりぐうたらしないの! おきなさい!」
言葉こそ叱責しているが、声色はどこか甘く、少し舌足らずだ。成程、私は自堕落という設定なのか。
「ん……おはよう」
ならばそれに合わせて、なんとなくだらしなく見えるよう体を起こしてみよう。
「もうちょっとで朝ごはんできるから、着替えたら先に顔洗ってて」
「……本当に顔を洗うのか?」
「どっちでもいいよ」
「着替えるのは……」
「うーん、一旦そのまんまで」
一応顔は洗ってこよう。没入感が増せば演技力が上がるかもしれない。
洗面所から戻ると、部屋には食欲をそそる香りが漂う。マスターは私が知らない歌を楽しげに歌いながら、小さい鍋をかき混ぜている。私は直感的に思った、これが妹の良さか。
「お兄ちゃんご飯よそっといてー」
言われるまま、炊飯器を開けて茶碗二つに白米をよそう。マスターがいつも食べる量はこのぐらいだったか? テーブルにそれらを並べる。
「先座ってていいよ」
手伝えることはないかと、マスターの周りをうろうろしていると、そう言われた。言葉に甘えて座らせてもらう。
マスターは味噌汁と、卵焼きと、ソーセージと、ほうれん草の炒めものを並べると、私の対面に座った。
「はい、じゃあ。いただきます」
「いただきます」
マスターがするように私も手を合わせる。相変わらず不思議な文化だ。
私はまず味噌汁の器を手に取り、少しばかり汁を飲んだ。
「お兄ちゃんどう? おいしい?」
「ああ。うまい」
深みのある香りとまろやかな塩気。異国の食事だというのに、どこか安心する味だ。
右手でなんとか箸を持ち、左手に茶碗を抱える。以前もマスターの手作り料理をいただいたことがあるため、一応箸の使い方は学んでいる。卵焼きを箸で一口分に切り、口に運ぶ。マスターの好みで甘めの味付けだ、うまい。
マスターの料理を褒めたい。思えばこの演技中で、どう呼べばいいんだ? 妹という家族である以上、『貴方』と呼ぶのはおかしいだろう。ならば愚弟にしていたように『お前』と言うのが適しているだろうか。そして妹ということは、いつもこの食事を作ってもらっているのだろう。
「お前の料理を毎日食べられて幸せだよ」
そう口にすると、自然と自分の顔が綻ぶのがわかった。
言われたマスターは顔を真っ赤にして、手をぶんぶん振りながら謙遜する。
「……っ!? やだっ、お兄ちゃんってば大袈裟だよ〜〜!」
マスターは演技がとても上手だ。私とは比べるべくもない。
料理をいただいた後、次の予定を考えた。
「お兄ちゃんといったらな〜……休日にはショッピングなんだけど……。妹に付き合わされて色んな店回って……」
「なら行くか?」
「でもあんまりドラスティアと会話してると不審だろうからなー……どうしようかな」
マスターが悩み出す。残念だが私に提案できることはない。
「あれの本質ってお兄ちゃんが振り回されることだから、自宅でファッションショーはどう?」
「ファッションショー?」
「このコーデどう? って訊いていくから。それに素直に感想言ってほしいな」
「分かった」
マスターがクローゼットに向かっていく。確かに女性は服装に対して評価を欲しがるイメージだ。
マスターはいつも動きやすさを重視した服を着ている。ファッションショー、と言うからには普段と異なるテイストも着るのだろうか? 私はクローゼットの中身を知らないため、普段着以外の姿を想像できない。
そう思っていると、一つ目の組み合わせでマスターが出てきた。
「じゃーん! どうかな?」
ワンピースだ。長めの丈で、少し袖などに装飾がしてある。
「似合っている」
「むー。嬉しいけど、もっとコメントないの?」
「コメントか……」
服に詳しくないため言葉に困る。
「ふわっと浮かんだ感想でいいから!」
「大人っぽくて……こう、素敵、だな」
「んふふ。まあよしとしようかな」
私の感想はなんとか合格ラインを超えたらしい。これは苦労しそうだ。
「次はこれ!」
ふわふわした上着をハイネックの上に着ている。下はいつも履いているようなズボンだ。かっこいいような印象を受けるが、女性の服にかっこいいと言うのはいいのか?
「に……似合っている」
「もう! またそれ! 似合っている禁止!」
「他に出せる褒め言葉がないのだが……」
「思ったことを言ってくれればいいんだって! どう思った?」
「こういうのは……かっこいい、と言っていいのか?」
「そうそうそれそれ! お兄ちゃん分かってるじゃん♪」
言ってよかったらしい。ファッションは奥深いな。
マスターはまたクローゼットに籠るが、今度はなかなか出てこない。よほど考えているのだろう。待っていると、マスターが顔だけ出して訊いてきた。
「……もう、次がラストになっちゃってもいい?」
「? いいが」
「ファッションショーって言ったのに思ったより服なくて……ごめん面白くないよね」
「いや、十分面白いぞ」
「それならよかった。……次のやつ、ずっとタンスのこやしにしてたから、全然似合わないかも」
「それでもいい。折角だから見せてくれ」
「わ、笑わないでね……」
マスターが意図してふざけるでもない限り、私が笑うことはない。そもそも詳しくない私に笑う資格はないだろう。
引っ込んでいったマスターは、どうやら準備に手間取っているようだ。物を動かす音が忙しなく聞こえる。それにしても、マスターがあんな服を持っているとは知らなかった。疎い私でも分かるぐらい、分野の幅が広い。その上で普段はデュエルしやすい服装を選んでいるとは、流石私のマスターだ。
しばらくして、クローゼットの扉がゆっくりと開く。そっ、とマスターが足を踏み出すと、スカートが重たげに揺れた。
「おお……」
出てきたマスターは、沢山の装飾……フリルと言うんだったか? がついたスカートとシャツで、顔を赤らめながら出てきた。
「ど……どう? つい勢いで買っちゃったけど、結局着ていく場所がなくて、ずっとしまってて……」
「いいじゃないか。マスターによく似合……いや、かわいいな。」
「っ〜〜〜〜!」
ますますマスターの顔が赤くなる。
「ほ、本当……?」
「少なくとも、私の目には可愛らしく見えている」
「そそ、そっか。お兄ちゃんがかわいいって思ってくれるなら、いいや……」
「こんなに似合うのだから、外に着ていってもいいんじゃないか?」
「は、恥ずかしいよ……けど……」
マスターの声がどんどん小さくなる。
「?」
「なっ、なんでもない!」
「そうか」
これもマスターの言う『物語の兄妹』によくあるやりとりなのだろう。私が素で発した言葉も上手く取り入れる手腕が素晴らしい。
「服を見せてくれてありがとう。お前はオシャレだな。かわいいよ」
気付けばそう言って、マスターの頭を撫でていた。彼女の小さい体格も相まって、本当に妹のような気がしてきた。
「こ、こっちこそ……。お、お兄ちゃんはオシャレに興味なさすぎだから……ちょっとは勉強してよね……」
「はは。それもそうだ」
「……と、いうわけで、兄妹っぽいことをやってみたけど……。どう? 妹って感じした……?」
「お陰でかなり妹というものが掴めてきた。マスターが妹になればああいう日常を送れるということだな」
「今日は演技だったから、ああなるかはわかんないけど……」
「逆にマスターはどうだ? 兄が欲しくなったか?」
「…………ちょっと」
「それはよかった。じゃあうちの両親に養子縁組を頼もう」
「それはまだやめよ!!」
兄妹ごっこが終わった後、***は一人風呂に浸かった。部屋の方ではドラスティアが妹の感覚を反芻している。
(タイミング逃したけど、『料理を毎日食べられて幸せ』って……。正確には『味噌汁を毎日飲みたい』だけど、この辺だとプロポーズの意味になるって、言った方がよかった……?)
***の苦悩はまだある。
(あんなに軽率にかわいいって言って……、なんであれでモテないの? いや理由は分かるけど……)
***は内側に渦巻く持って行き場のない感情のまま、鼻まで湯に浸かった。
(ドラスティア、お兄ちゃん……。)
***が風呂から上がると、ドラスティアがドライヤーをコンセントに挿した状態で待ち構えていた。それを見た瞬間、***の心臓が跳ねる。
「昼間はマスターに妹として色々してもらったからな。髪を乾かすぐらいやらせてくれ」
思いもよらない申し出に心臓が早鐘を打ち始めた。普段なら申し訳なさから断っただろう。だが今日、ドラスティアがどれほど兄として振る舞いたがっているか分かったため、それに甘えてもいい……否、甘えたい、と思った。
「じゃあ、おねがい……」
「膝の上においで。しかし言ったものの、他人の髪を乾かすのは初めてだ。熱かったら言ってくれ」
***がヘアオイルを塗ってドラスティアの膝に乗ると、後ろでスイッチの音が鳴り、風と共に轟音が響く。髪を靡かせ頭を撫でる手は大きく、頭全体が覆われる。彼の膝は装甲で硬いが、その感触も心地良い気がした。事前の申告通り、確かにドラスティアの手際は良いものではなかった。自分でやる時ほど感覚が分からないのだから当然だ。爪の長い装甲の指がしきりに髪をかきわけ、風を当てる。
髪を触られていると安心する。温かい風が思考をゆるませるのと相まって、つい気が抜けてしまう。彼の手は昔髪を乾かしてくれた親よりも大きいために、感じたことのないほど、巨大な安堵が体を包む心地がした。
「ここから……マスターは冷風を当てるんだっか?」
「うん」
一旦乾かし終わると、彼がドライヤーを止めて訊いてきた。今度は穏やかに涼しい風が撫でる。***は、髪のケアを単純なものに絞っておいてよかったと思った。
「終わったぞ。これでよかったか?」
「うん。……ありがとう」
もっと触っていてほしかった気がする。だけど今日は、これだけでいいと思った。
「今後もマスターに対して敬意は払うが、いつでも甘えてきてくれ。演技じゃなく、本心でな。貴方と今後も戦うためにも」
「うん、ありがとう……でもあんまりこういうの、よくないんじゃない……?」
「よくないか?」
「な、なんか、さあ……。血が繋がってないし、しかもデュエリストと精霊なのに、こういうことするの……」
「そんなことは気にするな。些細なことだ」
「些細……?」
「誰がどう思おうが関係ない。何か言われたら私に言え」
「いや誰がというより自分の気持ち的に……」
「ほら、まずはもう一度呼んでみよう。お兄ちゃんと」
「お、お兄、ちゃん……」
「そうだ。その調子だ」
「う、いや、やっぱりダメだって……」
「まだ照れがあるのか。急に兄ができたのだから無理もない。ゆっくり慣れていこう。私のかわいい妹……」
ドラスティアは***を抱き締める。座った状態で頭一つ違う体格差によって、自然とぬいぐるみに対してするかのような手つきになる。そして左手を頭に乗せると、そのままじっとりと撫でた。
(あああああああああ!)
恐怖と歓喜で、***は内心絶叫した。