小ネタ(刻)
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勝手に涙が流れていく。恐怖と不安で頭が黒く塗り潰され、視野狭窄し目は見えても前が見えなくなる。
すると、いつも隣に立つ機械人竜の人外が、手持ちのそれ を渡してきた。
「使え」
これは彼の魂とも言うべきものである。快悦の発生装置であり強烈なる武器。この日常の、この世界において、場違いにして筋違い。素材も形も存在しないはずのもの。
それを受け取らない選択肢は既になかった。この場において自分はもう、『手を汚さない』という権利を奪われている。少なくともそう、自認している。
受け取る。重い。普通の武器とはあからさまに違う。まさか躊躇うことや外すことなど想定していない。撃って撃ち続けることを規範として強制してくる。構えた、なんとか。今まで銃など持ったことはない。思ったより先が重い。力のない手は引き金に添えた人差し指を支点に、銃を回してしまいそうになる。
ふと、左右の肩に両手が触れた。
「反動は『俺』が支える。脇を締めて強く握れ。引き金は重い」
触れているのは肩だというのに背中全体を支えられているような感覚。彼は普段思う通りに撃っているにも関わらず、そう、的確に事実を教える。新人の指導も行っているのだろうか。
それでも手が震える。ガタガタと内部の空洞で響く。力の入らない手に、気が付けばそっと、大きな硬い手が添えられた。
「…………!」
パーツ分けされた指の節の感覚。血の通 った金属の、生物でありながら生物でないような不可思議さ。駆動に問題がないように内側から発せられている、体熱の温かみ。背には代わりに彼の胴が寄り添う。どちらも少し押してくる。それを感じてひどく安心した。今から引き金を引くというのに。
今自分を安らぎに導いているのは存在しないはずの幻想。自分を負の坩堝に陥れているのは人間の現実。これではどちらが真実だか。
音が鳴った。普段は大して大騒ぎするものでない音が、自分の責となったばかりに、強く響く。実体を持たない光線は対象を貫き確実に仕留めた。人間が、破裂する。こんなにもあっさりと内側に留められていたものが出るのだと思うほど、簡単に血液が噴き出している。既に鼓動は止まっているというのに心臓の動きに合わせたかのように、リズミカルに。
肉が焼けた匂いがする。焼肉の匂いだ。
……見上げると、彼が、上官の顔から徐々に趣味を隠しきれなくなり、自ら手にかけた時ほどとは言わずとも、口の端が裂けるように口角を上げ、目元はまだ冷静を保ったまま、白く鋭い牙を見せる。狂性の象徴。
「……は、ははは」
そんな彼の顔を見ていると、目の前に起こったことが普段の延長線に思え、自らの残虐性が手元から染み込みながら、いつものように彼と心が重なり合ったような気がした。あのケミカルグリーンの胸のコアの光が、自分の心臓にも灯ったような感覚がある。今、ヒトでなくなったのだ。私達の間にある理はこの世界のものではなくなってしまった。
勝手に、口をついて出た。
「……どれだけ親しい間柄であっても、殺さなきゃいけない時はある。そうだろ?」
「ああ、その通りだ」
珍しく穏やかな顔をした彼が、そっと頷いた。
広がる血の匂い。焦げた匂い。すぐそばにある彼の、鉄に似た匂い。耳には銃声と彼の声の残響。まだ背には彼のぬくもりがある。瞳を閉じると、不安と恐怖が埋めていた黒い心の隙間に、残虐と狂気を以て運ばれた、赤に似た安らぎが目に見えるようだ。ずっとここにいたいと思った。やっと本当の意味で同属になれた。
すると、いつも隣に立つ機械人竜の人外が、手持ちの
「使え」
これは彼の魂とも言うべきものである。快悦の発生装置であり強烈なる武器。この日常の、この世界において、場違いにして筋違い。素材も形も存在しないはずのもの。
それを受け取らない選択肢は既になかった。この場において自分はもう、『手を汚さない』という権利を奪われている。少なくともそう、自認している。
受け取る。重い。普通の武器とはあからさまに違う。まさか躊躇うことや外すことなど想定していない。撃って撃ち続けることを規範として強制してくる。構えた、なんとか。今まで銃など持ったことはない。思ったより先が重い。力のない手は引き金に添えた人差し指を支点に、銃を回してしまいそうになる。
ふと、左右の肩に両手が触れた。
「反動は『俺』が支える。脇を締めて強く握れ。引き金は重い」
触れているのは肩だというのに背中全体を支えられているような感覚。彼は普段思う通りに撃っているにも関わらず、そう、的確に事実を教える。新人の指導も行っているのだろうか。
それでも手が震える。ガタガタと内部の空洞で響く。力の入らない手に、気が付けばそっと、大きな硬い手が添えられた。
「…………!」
パーツ分けされた指の節の感覚。血の
今自分を安らぎに導いているのは存在しないはずの幻想。自分を負の坩堝に陥れているのは人間の現実。これではどちらが真実だか。
音が鳴った。普段は大して大騒ぎするものでない音が、自分の責となったばかりに、強く響く。実体を持たない光線は対象を貫き確実に仕留めた。人間が、破裂する。こんなにもあっさりと内側に留められていたものが出るのだと思うほど、簡単に血液が噴き出している。既に鼓動は止まっているというのに心臓の動きに合わせたかのように、リズミカルに。
肉が焼けた匂いがする。焼肉の匂いだ。
……見上げると、彼が、上官の顔から徐々に趣味を隠しきれなくなり、自ら手にかけた時ほどとは言わずとも、口の端が裂けるように口角を上げ、目元はまだ冷静を保ったまま、白く鋭い牙を見せる。狂性の象徴。
「……は、ははは」
そんな彼の顔を見ていると、目の前に起こったことが普段の延長線に思え、自らの残虐性が手元から染み込みながら、いつものように彼と心が重なり合ったような気がした。あのケミカルグリーンの胸のコアの光が、自分の心臓にも灯ったような感覚がある。今、ヒトでなくなったのだ。私達の間にある理はこの世界のものではなくなってしまった。
勝手に、口をついて出た。
「……どれだけ親しい間柄であっても、殺さなきゃいけない時はある。そうだろ?」
「ああ、その通りだ」
珍しく穏やかな顔をした彼が、そっと頷いた。
広がる血の匂い。焦げた匂い。すぐそばにある彼の、鉄に似た匂い。耳には銃声と彼の声の残響。まだ背には彼のぬくもりがある。瞳を閉じると、不安と恐怖が埋めていた黒い心の隙間に、残虐と狂気を以て運ばれた、赤に似た安らぎが目に見えるようだ。ずっとここにいたいと思った。やっと本当の意味で同属になれた。