小ネタ(終)12
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「あ、今日ちょっと他のサーヴァントと用があるから」
ある日の終業後、***がそう言って部屋に戻らずどこかへ向かった。ここしばらくの***の行動は全て把握しているが、予定を組むようなことはなかった。
ただ、昨夜は資料を読んでいた。俺も以前に読んだ、クッキーの作り方を。
こっそり後をつければ、予想通り***はキッチンを目指しているようだ。この時間ならエミヤがいるだろう。あいつはまあ、信頼を置けると言っていい。
***が“自分の力だけで作りたいから完成までキッチンから離れてほしい”と言っている。ボヤ騒ぎになるような工程がないから問題ないだろう。あいつも同じ考えなのか、“わかった、なら君がやりたいようにやるといい”と返した。恐らく、この言葉の裏には、『失敗してもいいから経験を積んでほしい』という意味が込められている。
早速***が材料を全て用意している。昔のことだが、母親の菓子作りの手伝いをしたことがあると言っていた。それ故か、手際は良さそうに見える。
……材料の混ぜ合わせで失敗した。初歩的なミスだ。
だが焦りながらも、咄嗟にここから持ち直す方法を探しに資料室へ走った。***から(材料を無駄にしたくない)という意思が視えた。
なんとか形になった。焼いた。出来上がりをエミヤに報告し、焼けたものを試食し始めた。
「綺麗に焼けているじゃないか」
「でも、途中で失敗したのに……」
「それは君のリカバリーが上手かったということだ」
そう言われても、***は浮かない顔をしている。納得がいっていないに違いない。
(オベロンに渡すものなのに、練習とはいえ完璧にできなかった)
──胸の辺りから締め付けるような、熱されたような感覚がこみ上げてくる。それが喉元からさらに上がって、頭に辿り着く頃には、粉砂糖が液体に溶けるように柔らかく広がる。声をかけられない状況だからこそ、一切捻じ曲がることもなく、感情が余韻を残してゆっくりと自分の中に沁み渡る。
『残りは私が責任持って食べるから、誰かが欲しがってもあげないでね』とエミヤに言い残し、***は再び資料室へと向かった。
彼はひとり取り残され、キッチンには静寂が流れる。──不意に、口を開いた。
「いるんだろう、オベロン。この状況で、君が見ていないとは思えない」
名前を呼ばれたその人物は────霊体化を解いて、大の字になり仰向けの形で、天井に張り付いている姿を現した。
「忍者か君は……。」
「浮く力を利用してるだけだよ」
天井から離れたオベロンがふわりと着地する。色合いは真逆だが、どこか雰囲気の似たふたりが、相対する。
「で、俺が見てたから何? ***に言ったって無駄なのはわかってるだろ?」
「ああ、勿論だ。なに、君と取引をしたくてね」
「取引?」
「このクッキー。マスターが初めて焼いたものだ。君は、喉から手が出るほど欲しいんじゃないのか?」
オベロンの目つきが、鋭くなる。
「……何が望みだ」
「そう身構えなくていい。簡単なことだ。たまには私のような、古参のサーヴァントをクエストに連れて行くよう、彼女に言ってくれないか。元々ヘラクレスという無比のサーヴァントがいるというのに、君が来てからは余計に出番がない。腕が鈍らないよう、たまには実際の戦場に立たせてほしいという要望だ。」
「わかった、伝えておくよ」
すんなりと要求を呑んだ──ように見える──オベロンに、エミヤはふっ、と困ったように笑む。
「頼んだぞ」
「ああ」
オベロンは自分の欲求を肯定も否定もしないまま、エミヤが手渡したクッキーの入った容器を受け取り、自分の部屋へと戻った。
ある日の終業後、***がそう言って部屋に戻らずどこかへ向かった。ここしばらくの***の行動は全て把握しているが、予定を組むようなことはなかった。
ただ、昨夜は資料を読んでいた。俺も以前に読んだ、クッキーの作り方を。
こっそり後をつければ、予想通り***はキッチンを目指しているようだ。この時間ならエミヤがいるだろう。あいつはまあ、信頼を置けると言っていい。
***が“自分の力だけで作りたいから完成までキッチンから離れてほしい”と言っている。ボヤ騒ぎになるような工程がないから問題ないだろう。あいつも同じ考えなのか、“わかった、なら君がやりたいようにやるといい”と返した。恐らく、この言葉の裏には、『失敗してもいいから経験を積んでほしい』という意味が込められている。
早速***が材料を全て用意している。昔のことだが、母親の菓子作りの手伝いをしたことがあると言っていた。それ故か、手際は良さそうに見える。
……材料の混ぜ合わせで失敗した。初歩的なミスだ。
だが焦りながらも、咄嗟にここから持ち直す方法を探しに資料室へ走った。***から(材料を無駄にしたくない)という意思が視えた。
なんとか形になった。焼いた。出来上がりをエミヤに報告し、焼けたものを試食し始めた。
「綺麗に焼けているじゃないか」
「でも、途中で失敗したのに……」
「それは君のリカバリーが上手かったということだ」
そう言われても、***は浮かない顔をしている。納得がいっていないに違いない。
(オベロンに渡すものなのに、練習とはいえ完璧にできなかった)
──胸の辺りから締め付けるような、熱されたような感覚がこみ上げてくる。それが喉元からさらに上がって、頭に辿り着く頃には、粉砂糖が液体に溶けるように柔らかく広がる。声をかけられない状況だからこそ、一切捻じ曲がることもなく、感情が余韻を残してゆっくりと自分の中に沁み渡る。
『残りは私が責任持って食べるから、誰かが欲しがってもあげないでね』とエミヤに言い残し、***は再び資料室へと向かった。
彼はひとり取り残され、キッチンには静寂が流れる。──不意に、口を開いた。
「いるんだろう、オベロン。この状況で、君が見ていないとは思えない」
名前を呼ばれたその人物は────霊体化を解いて、大の字になり仰向けの形で、天井に張り付いている姿を現した。
「忍者か君は……。」
「浮く力を利用してるだけだよ」
天井から離れたオベロンがふわりと着地する。色合いは真逆だが、どこか雰囲気の似たふたりが、相対する。
「で、俺が見てたから何? ***に言ったって無駄なのはわかってるだろ?」
「ああ、勿論だ。なに、君と取引をしたくてね」
「取引?」
「このクッキー。マスターが初めて焼いたものだ。君は、喉から手が出るほど欲しいんじゃないのか?」
オベロンの目つきが、鋭くなる。
「……何が望みだ」
「そう身構えなくていい。簡単なことだ。たまには私のような、古参のサーヴァントをクエストに連れて行くよう、彼女に言ってくれないか。元々ヘラクレスという無比のサーヴァントがいるというのに、君が来てからは余計に出番がない。腕が鈍らないよう、たまには実際の戦場に立たせてほしいという要望だ。」
「わかった、伝えておくよ」
すんなりと要求を呑んだ──ように見える──オベロンに、エミヤはふっ、と困ったように笑む。
「頼んだぞ」
「ああ」
オベロンは自分の欲求を肯定も否定もしないまま、エミヤが手渡したクッキーの入った容器を受け取り、自分の部屋へと戻った。