ショートショート

 そこに座って、と三木を床に座らせて、自分は作業机を背に椅子に座って、神在月は引き出しに用意してあった箱を後ろ手で取り出す。
「ポッキーゲームリベエエエエエエンジ!」
 燦然と輝き——は、しないポッキーの箱。
 手に掴んだそれを目の前に突き出し掲げると、三木は「はあ」と気のない返事をした。
 む、と神在月は口を一度結んでバリバリとミシン目から箱を開け、中袋をパンと開け、一本のポッキーを取り出す。
 三木の顔に突きつけた。
「いざ尋常に、しょ——」
 言い切る前に、三木がパクッと先端をくわえた。
 先端と言っても、かなり深い。もう一方の端を咥えたら、すぐに頭がぶつかりそうだ。
「あ、わ、あのっ」
 神在月は思わず手を離してしまった。三木は落とすことなく、しっかりとくわえたままだ。
 ポキッと音が聞こえた。くわえた分を咀嚼する三木の口元がもごもごして、ポッキーが揺れる。目を奪われるゆらゆらした動きの向こうに、どうする?と聞くような視線。
 「あ、あうう」
——したい、する、でもまさかこんなウェルカムなんて
 ドッドッドッと心臓が高鳴り頭に血が上る。くたびれた貧弱三十五歳の顔が赤くなる。見えてなくてもわかる。今更こんなに赤面するなんて——
 と、そこで違和感に気付いた。
 見つめる三木のすました顔の両端。
 耳が、赤い。
 神在月は椅子から滑るようにおりて屈みこむと、三木の肩を掴んだ。
 気圧されたように、三木が軽く目を見張る。
 神在月はダンピールの牙が剥き出しになるほど大きく口を開けて、差し出された細長い菓子にガブリと齧り付いた。
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