ショートショート

 ドアチャイムが鳴った。
「はーい」
 返事をして、神在月は玄関に向かう。一昨日、母からメッセージが入っていた。米を送ったと。今日の指定にしてあるから、きっとその配達だろう。
 印鑑片手にドアスコープで覗いて、大きな箱を抱えた配達人を確認して、神在月は目を見開いた。勢いよくドアを開く。
「お届け物です。こちらお名前間違いありませんか」
「あ、え、はい」
 穏やかに淡々と確認されて、伝票に目を落とす。差出人・母。宛先・自分。品物・食品。指定日・十月十日。
 受取に印鑑を押す。
「重いのでお気を付けください。玄関中まで運びます?」
「いや、大丈夫、です」
 渡されたずしりとした箱を抱えて、神在月は後退る。配達人が玄関のドアを支えてくれた。神在月の体が中に入るとそのまま閉めようとするので、思わず「待って」と声をかけてしまう。
 上がり口に箱を下ろして、だが神在月から言うべきことは特になかった。
「お疲れ様です」
 ただ挨拶すると、配達人は帽子に手をやり応じた。
 その目元に表情が宿る。配達人は、束の間、プライベートの三木カナエに切り替わった。
「後で来ていいか」
「うん、待ってる。お仕事頑張って」
 三木は頷いて、ドアを閉めようとして、一旦止まった。
「誕生日おめでとう」
 閉めかけて、また軽く開けて
「鍵掛けろよ」
 そこでパタンと閉まったドアに、神在月は言われた通りに鍵をかけた。振り返って部屋に上がろうとして、自分が置いたばかりの箱に躓きそうになる。どうにか転ぶのは回避して、箱の横に座り込んだ。
 神在月は頬を緩ませ、しばらくそこに座っていた。
8/10ページ