ミキ誕2026

 親友三木の友人は、とにかくよく食べるのだという。

「大人ってさ、金銭とか体質とか制限はあっても、子供よりは格段に食の選択が自由じゃん」
「たしかに」
「これを一人で食べて良いんだとか、これだけを食べるのありなんだとか」
「うん」
 量については逆の話だが、神在月にも覚えはある。
 実家ではあれを食べろこれを食べろと、それなりに栄養を考えた食事を出してもらっていた。おかげでひょろ細くはあるが、縦には長く育った。それが今では止める者もいないのでヨーグルト三昧だ。いや、ちゃんと(ちゃんと?)カレーとかも食べますよと、誰も聞いてない心の中で言い訳をする。

「先日のクラさんの誕生日に、吉田さんと二人でケーキを作ってお祝いしたんだが」
 件の彼ともう一人の友人、マンションのお隣同士の仲良いおつきあいエピソードが出てきた。
「クラさんの分は大きいホールケーキで、相伴の吉田さんと俺の分は、サイズはショートケーキだけど、切り分けじゃなくてホールのミニチュア版みたいなやつで別に作って」
 三木は手でおおまかなサイズを示した。主役のホールケーキがとにかくでかい。卓上サイズで食べきるタイプのウェディングケーキかな、と神在月は思った。
「食べていいという根本的な意識はあるし、食べてもらうために作ったので嬉しかったんだが、食べきったのを見て改めて『あ、食べていいんだ』という認識ができた」
「・・・いっぺんに食べきったんだ」
「そう、ぺろりと」

 大変失礼ながら、神在月は思わず自分の口元を押さえた。想像だけで神在月の胃が容量オーバーの警告を発している。三木はその様子を見て、やわらかく笑った。
「普段、一緒に食事するときは、量の配分だけ変えてシェアなんだ。ホールで提供したことでちょっとした感覚の違いがあったなって」

 そもそもの話の起こりは、アイジャのネタを練るのに食の基本に立ち返ろうとしたことだった。食べることの楽しさとは、どういうものがあるのか。哲学的な問いをあれもあるこれもあると考えながら、三木にも話し相手として付き合ってもらっていたのだ。
 自分で選択して、自分だけで食べられる喜び。
 食事に限ったことではないが、そのアプローチはたしかに神在月の視点では薄かった。
 性格と経験値の違いはあるのだろうか。三木には年子の弟がいる。過保護なほど構っていた時期もあったと、なんとなく聞いてはいる。三木にとっては、弟と分け合うことが基本だったのだろう。
 高校の頃、三木と一緒に帰った折り、神在月が肉まんを一つ食べるかどうか迷っていたところに、シェアを提案してくれた。三木には半分では小腹にも足りなかっただろうに。

 それからしばらく話を続け、礼を言って通話を終えた。



 季節は巡り巡って春の終わり。
 四月の末日。明日は三木の誕生日だ。隣人の吸血鬼とスケジュールを合わせるのに、日付をまたぐように今夜からパーティーだと言っていた。真夜中のケーキだよと、苦笑しながらも嬉しそうだったのが記憶に新しい。 今頃は楽しく過ごしているだろう、と一日になったところでお祝いメッセージを送り、お礼の返信を受けてから神在月は自分の日常に戻った。

 朝になって起き出してから、三木からのメッセージが増えていることに気付いた。
 画像だ。
 パーティーの三角帽をかぶり、本日の主役のたすきをかけ、立派なホールケーキを前に掲げた三木。
 もう一枚は、三木はほぼ同じ体勢だが、両脇にお隣さんたちが入っている。写るために力を込めている吸血鬼も含め、三人とも楽しそうなのは表情からよく伝わってきた。
 更にもう一枚。
 カットされたケーキの画像。あのホールケーキからのカットだとわかる。
 サイズは元の六分の一くらいだろうか。もう少し大きいかもしれない。
 誕生日メッセージのチョコプレートや、メレンゲなのかマジパンなのかの花飾りや、まだ火のついている花火まで、バランスがおかしくなるほどもりもりに盛り直されている。
 テキストが続いていた。
『俺、やっぱりこっちの方が嬉しいみたいだ』
 
 神在月は自然に微笑みを浮かべていた。
 相手に何か尽くさないと幸せを受け止めきれない三木カナエ
 これはもう、三木に根付いた優しさなのだ。

 軽く部屋を片付けていると、ドアチャイムが鳴った。
 返事をしながら玄関を開けると、三木が立っていた。
「誕生日おめでとう」
 出迎えより先に祝福を伝えると、照れたように口元が歪んでから「ありがとう」と返ってきた。
 部屋に入ると、持ってきた紙の手提げから、なにか容器が取り出される。ジップロックを逆さにしてあり、なにかぼんやり透けている。
 ケーキだ。
「作ったの、ゆうべだから、お前にも食べてもらいたくて」

 大事な人にシェアすることが三木の喜び。

「うん、ありがとう、大好き」
 相手の誕生日だけど神在月は礼を述べ、溢れる思いを付け加えると、三木はまた口を歪ませて首まで真っ赤になったのだった。
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