冬の人魚
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アズールはかわいい。
オレのことを好きなアズールはかわいそうでかわいい。
ヒトの世界では、海といえば夏を連想するらしい。
ウィンドウの水着のディスプレイ、貝殻やヨットをモチーフにした雑貨、夏休みの図書館で稚魚に向けて朗読されるバカみたいな人魚の物語。
でもオレにとって、海で連想する季節は冬。
漆黒の空でまたたく星のような銀の髪、しんしんと降り積もる雪のように白い肌、肌を刺す冷たい北風に見上げた空の色の瞳。アズールは、冬の色をしている人魚。
冬は繊細だと思う。夜の闇も、風の音も、空の色も、自然のにおいも。慎重に、丁寧に、そして敬意を持って触れないと、ほろほろと崩れて消えてしまうような気がする。そんな繊細さを、つめたいつめたい空気を盾にして隠している。
アズールは、静かで、ひそやかで、柔らかさと脆さを凛と澄みとおった膜で覆った壊れやすい、オレの冬。そんなアズールを、時々透明なガラスの箱かなにかに閉じ込めたくなってしまう。
繊細な心も、矜持と努力でつくられた盾も、だれにも触れさせたくなくて。ずっとその綺麗なところをオレだけが見ていたくて。
もちろん、アズールはオレのそんな心を知らないから。
振り返って微笑む。
「ヒトの世界の夏は暑いな」
そう言ってハンカチで額の汗を拭う。汗も、冬の透明な色。
真夏の盛りの賢者の島は、バカみたいにウソみたいに暑い。太陽は容赦なく照りつけて、景色が蜃気楼みたいに揺らいで見える。
─じりじりと肌を焼くのは太陽じゃなくて、オレの心の中の想いなのかもしれない。
昔、太陽神に恋した水の精は彼に焦がれ続けてそのまま枯れるように死んだ。
冬の色の人魚に恋したオレは、心の中で太陽のような爛れた想いにやがて焼き尽くされて死ぬんだろうか。
夏の景色の中で、冬色の人魚が笑う。
オレも応えて微笑んで。
どうかオレが、オレのこの想いが。彼を壊してしまいませんようにと祈るように。冷たい手に指を絡める。
「暑い」
眉を寄せて言いながらも、払われなかったからそのままにする。
ちいさくて細い指は、やっぱり冬の温度をしてる。
いまオレがペンを握って攻撃魔法を仕掛けたら、どうなるだろう。
驚いて、怒りながら、でも卒なく応戦してくる。アズールはそういうヤツ。
一回本気でやり合ってみたい。
きれいなつめたい氷の箱に閉じ込めてやりたい。
でも多分、本気のアズールにオレは勝てない。
オレの氷をつめたい炎で溶かして、蔑んだ目で見下される。
こてんぱんにやり込められて、オレはもっとアズールを好きになる。
こんなオレに愛されてるアズールは、かわいそうでかわいい。
オレのことを好きなアズールはかわいそうでかわいい。
ヒトの世界では、海といえば夏を連想するらしい。
ウィンドウの水着のディスプレイ、貝殻やヨットをモチーフにした雑貨、夏休みの図書館で稚魚に向けて朗読されるバカみたいな人魚の物語。
でもオレにとって、海で連想する季節は冬。
漆黒の空でまたたく星のような銀の髪、しんしんと降り積もる雪のように白い肌、肌を刺す冷たい北風に見上げた空の色の瞳。アズールは、冬の色をしている人魚。
冬は繊細だと思う。夜の闇も、風の音も、空の色も、自然のにおいも。慎重に、丁寧に、そして敬意を持って触れないと、ほろほろと崩れて消えてしまうような気がする。そんな繊細さを、つめたいつめたい空気を盾にして隠している。
アズールは、静かで、ひそやかで、柔らかさと脆さを凛と澄みとおった膜で覆った壊れやすい、オレの冬。そんなアズールを、時々透明なガラスの箱かなにかに閉じ込めたくなってしまう。
繊細な心も、矜持と努力でつくられた盾も、だれにも触れさせたくなくて。ずっとその綺麗なところをオレだけが見ていたくて。
もちろん、アズールはオレのそんな心を知らないから。
振り返って微笑む。
「ヒトの世界の夏は暑いな」
そう言ってハンカチで額の汗を拭う。汗も、冬の透明な色。
真夏の盛りの賢者の島は、バカみたいにウソみたいに暑い。太陽は容赦なく照りつけて、景色が蜃気楼みたいに揺らいで見える。
─じりじりと肌を焼くのは太陽じゃなくて、オレの心の中の想いなのかもしれない。
昔、太陽神に恋した水の精は彼に焦がれ続けてそのまま枯れるように死んだ。
冬の色の人魚に恋したオレは、心の中で太陽のような爛れた想いにやがて焼き尽くされて死ぬんだろうか。
夏の景色の中で、冬色の人魚が笑う。
オレも応えて微笑んで。
どうかオレが、オレのこの想いが。彼を壊してしまいませんようにと祈るように。冷たい手に指を絡める。
「暑い」
眉を寄せて言いながらも、払われなかったからそのままにする。
ちいさくて細い指は、やっぱり冬の温度をしてる。
いまオレがペンを握って攻撃魔法を仕掛けたら、どうなるだろう。
驚いて、怒りながら、でも卒なく応戦してくる。アズールはそういうヤツ。
一回本気でやり合ってみたい。
きれいなつめたい氷の箱に閉じ込めてやりたい。
でも多分、本気のアズールにオレは勝てない。
オレの氷をつめたい炎で溶かして、蔑んだ目で見下される。
こてんぱんにやり込められて、オレはもっとアズールを好きになる。
こんなオレに愛されてるアズールは、かわいそうでかわいい。
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