調香師のノート RecipeⅢ ルチル
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私は本を閉じた。
もう一度、あの水彩画に視線を向ける。寄り添いあった人形、いや、アビゲイルとテディベアはやさしく満ち足りた表情でこちらを見ている。きっと何人目かの持ち主が描いた絵なのだろう。慈しみと、幸福の色合い。そっと本を元の場所に戻し、図書室を出る。
街は、黄昏時の空の色に包まれていた。絵の具を溶かし混ぜ合ったような空の一番高いところに、まだ白い月の姿がぼんやりと浮かんでいる。満月だった。夜が近づけば、この月はより濃く色づくだろう。
私は、あの酒場へ続く道を歩く。あの紳士はきっと酒場で待っているだろう。
酒場に着いたら、あの店で一番良い酒を奢ってやろう。そして、長い夜にふさわしい物語を語ろう。やさしい賢者の魔法使いと、そのやさしさに掬い上げられた人形の不思議な物語を。