喫茶店「童話の国」の店主、はじめは考え事をしていた。
　黒須星鳴は、本当にお金持ちのお嬢様なのか？　と。
　お嬢様の振りをしているとすれば、合点がいくことがいくつかあった。
　そして、更に思考を続けると、本当は貧しい家庭の娘ではないかという答えに行き着く。

「ご機嫌よう」
「いらっしゃい」

　件の人物、星鳴が来店した。
　席に着くと、すぐに注文をする。

「オムライスをお願いしますわ」
「はい」

　しばらくして、はじめが、ふわとろオムライスを星鳴の前に出した。

「どうぞ」
「ありがとうございますわ。いただきます」

　星鳴は、オムライスを美味しそうに食べる。
　そして、食べ終えた後に、きゅうと星鳴のお腹がなった。
　それを、はじめは聴き逃さない。

「星鳴ちゃん、おかわりしてもいいのよ？」
「まあ！　最近、お昼しか食べてなかったので助かりますわぁ」

　ぽろりと真実をこぼしてしまう星鳴。しまった！？　という表情をして、顔を青ざめさせる。

「星鳴ちゃん。違ったら謝るけれど、もしかして、お家に問題があるの？」
「わ、わたくしは…………」
「秘密にするから、話してくれないかしら？」

　はじめは、優しい声色で訊いた。

「……はい。あたし、ほんとはお嬢様じゃないんです。家は貧乏で、惨めで、恥ずかしい…………でも、両親が悪いワケじゃないんです。あたしが見栄っ張りなだけで……」
「……そう。話してくれて、ありがとうね」

　星鳴は、うつむいている。
　それから、はじめは星鳴に少し料理を多めに出したり、お土産を持たせるようになった。
　そして、ある日。

「わたくし、決めましたわ。こちらで働かせていただきます！　ご恩返ししますわ！　お皿洗いでも、お掃除でも、なんでもいたしますわ！」
「まあ、ありがとう、星鳴ちゃん」

　星鳴は、「童話の国」でアルバイトをすることにした。
　動きやすいゆめかわコーデに、お店のエプロンを着け、宣言通りに、はじめに言われた仕事をこなす。
　仕事に慣れてきた頃。星鳴は、ウェイトレスも任されるようになった。

「ご注文はお決まりですの？」

　お嬢様口調のままで接客をする星鳴。

「本日のオススメは、チーズスフレでしてよ」

　その様は、「童話の国」では、そこまで浮かないでいられた。

「少々お待ちくださいまし」

　それは、童話の中のお姫様のように。

「お待たせいたしましたわ」

　注文された品をサーブし、お客の前に並べる。

「ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

　会計の折。星鳴は、レジ打ちも出来るようになっていた。
「またのお越しをお待ちしておりますわ」と、一礼する。
　はじめは、そんな星鳴を暖かく見守った。
　後に、星鳴の接客がそれなりに話題になり、リピーターが増えることになる。
　黒須星鳴は、よき理解者のおかげで、幸福であった。