Thank* you
着いたばかりの島で散策中、
「お嬢さん」
声をかけられた。
ナンパか?すわ誘拐かと警戒しながら振り返って。
鏡を見る。
「可愛い・・・・?」
「可愛いわァ、あたしの見立て通りだよ!ちょっとこのまま歩いて来て頂戴な!」
「はあ・・・」
何やらワインレッドの素敵なドレスを着せられて。
私は見送られた。
振り返ってみれば見知らぬおばちゃんで、
自分の店のドレスを着て街を歩いて欲しいと言う。
お店の宣伝をして欲しいそうだ。
物はいいし価格も悪くないはずなのに客が来ないから、と。
あんたの骨格にはうちのドレスが似合う!
謝礼は弾む!とごり押しされて今に至る。
まあドレス着て歩くだけなら、と。
承諾はしたけど。
・・・変な感じ。
いつもは気楽なパンツスタイルだしなぁ。
足がすーすーする。
てかこれじゃ食べ歩き出来ないな。
服汚せないもん。
・・・・でも何か、気分は悪くない。
ああでもこんなとこクルーの誰かに見られたら恥ずかしいかもしれない。
路地裏にでも隠れたいとこだけどそれじゃ宣伝にならないのよね。
そわそわしながら歩く。
ふと、
「なァ」
「え」
今度は知ってる声に呼び止められた。
「・・・・何してんだ?そのカッコ」
今1番会いたくない人だった。
「・・・人違いでは?」
「いやそんなんで胡麻化される訳ねェだろ。何してんだよ」
エースなら誤魔化されてくれると思ったのに!!
私の会いたくなかった人、エースは私を見て怪訝な顔。
「仕事中」
「仕事ぉ?」
「宣伝、服の」
「へぇ・・・」
まじまじと見つめられる。
少し恥ずかしい。
「動きづらそうだな」
「それはある」
間違いなくある。
でもさ、可愛い服の感想がそれ!?
似合ってるな、くらいの言葉欲しかったのに。
・・・エースじゃ無理か。
「・・・歩くだけか?」
「何が?」
「仕事」
「一応ね」
「いつまで」
「わかんない。適当」
何時までとかの契約はしてないしな。
「俺も一緒に歩く」
「へ」
「隣」
「うん」
「歩いていいか」
「・・・・・うん」
何だか真剣になったエースの瞳にドキドキしてしまった。
何この雰囲気は。
怒ってる、訳じゃないよね。
別に私がどんな服を着ようがエースには関係ないわけだし。
「・・エースは何しようとしてたの?お昼食べた?」
歩きながら話す。
「飯は食った」
「お金払った?」
「・・・お前俺を何だと思ってんだ」
「エース」
「・・・あのさ」
「うん」
「それ」
「どれ」
「・・・やっぱ何でもねェ」
・・・並んでは歩くけど。
エースはさっきから話しながらこちらの方を見ようとしない。
気がする。
え、やっぱ何か怒ってる?
裾の長いこの服にも少しだけ慣れてきたかもしれないけど。
・・・この雰囲気が、空気がいたたまれないんですけど。
だっていつも食い逃げするじゃんエース。
いやいつもじゃないか。
だから怒ってるの?
「・・・なんかさ」
「うん」
「腹減ったな」
「さっき食べたって言ってなかった?あ、そこにコロッケあるよ」
「お、美味そうじゃん、食おうぜ」
ってエースが誘ってくれたけど。
「私食べられない」
「は?なんでだよ」
「だってこの服だよ」
一応借り物だし。
「・・・何かまずいのか?」
「汚したらダメでしょ」
「汚さないで食えばいいんじゃねェ?」
「衣とかソースとか絶対汚す自信ある。エースだけ食べなよ」
「・・・つまんねェ」
「ごめんて。着替えたら存分に一緒に食べるからさ」
「・・・約束な」
「・・・うん」
・・・・ちょっと意外だった。
てっきりじゃあ早く着替えろよとか言われるのかと。
「あそこにチキンもあるぅ・・・」
「食えよ」
「たれる」
「たらすなよ」
「無理」
私にそんな上品な食べ方が出来ると思わないで欲しい。
「でもまァそのカッコでがっつりいくのもそれはそれで面白いんじゃねェ?」
「面白いとかいる?」
「話題になったら金もらえんだろ」
「それはそうかもだけど」
この服気に入ってはいるから汚したくないしなあ。
「汚したら買い取ればいいだろ」
「・・・いくらだろうこの服」
「知らないのかよ」
エースのツッコミに思わず考える。
記事と、飾りと、手間賃と。
「我慢する。・・・アイスならいけるかな?いや無理だわ」
溶けたら終わる。
「仕方ねェな。ちょっと待ってろ」
「え、うん」
エースは渋い顔でアイス屋さんへ歩いて行く。
そして1コのアイスを持って戻って来た。
うぐぅ、見せびらかしよって!!
と思ったら。
「ん」
「え」
スプーンで掬ったアイスを私の口元へ。
「早く食えよ。溶けるだろ」
「あ、あ」
慌てて口を開けばすぐに冷たくて甘い食感。
「ん、おいひい」
「こうすれば服は無事だろ」
「・・・・ありがとう。美味しい」
「まあ俺も食うけどな」
言いながらアイスをぱくり。
そしてそのまま、その食べかけを掬って。
「ん」
まっ、これって!!
これって関節キスってやつじゃん!?
エースは気にしてない!?
私が気にしすぎ!?
いやエース気にしろ!?
と思いながらも素直に口を開けてしまう私。
「ん-美味・・・」
アイスの魅力に抗えない。
「美味いな」
「美味しい」
特にエースが食べ物を分け与えてくれたから余計に美味しい。
関節キスとかはもう置いておくことにして。
もう純粋にアイスを楽しもう。
「チキンは?」
「流石に怖い」
「せんべい」
「いけそう」
せんべいの食べかすなら払えばいいだけだし。
「よし、待ってろ」
そう言ってエースは焼きたてのお煎餅を買って来てくれる。
・・・・なんだか。
こんな格好してるせいもあって。
お姫様みたい、なんて。
エースに言ったら笑われそうだけど。
「ん。焼きたて熱々だから気をつけろよ」
1枚のお煎餅を私にくれるエース。
「わ、あっつ。・・・ありがと、いただきます」
熱々のお煎餅危うく落とすところだった。
「んめェ」
「・・・美味しい、ね」
ぱりんと割れて口の中に。
しょっぱくて、あったかくて。
・・・・何よりエースとこうして食べられてるのが幸せかもしれない。
「喉乾かねェ?」
「乾いた」
「んじゃ零してもいいように水だな」
い・・・・至れり尽くせり・・・・!
「どっかカフェ入っても・・・」
「何か食いたくなるだろ」
「それはそう」
「その服汚せないんだろ」
「それもそう」
「買ってくるから大人しく待ってろ」
「・・・・はい」
こつん、と額を小突かれて。
・・・・やばいな私今顔真っ赤かもしれない。
エースの熱が移ったのかなあ。
なんて考えてたら、
「君可愛いねえ。1人?」
「え、いえ」
知らない男に絡まれた。
1人じゃないって言ってんのに、
「もしかして男待ち?俺待ち?」
何だこの人。馬鹿なのかな。
「水待ちです。あと可愛いのは服です」
「いやいや君も可愛いよ」
「可愛いんですよこの服。〇〇□ってお店にありますから是非!」
「いや可愛いのは君が」
「個人的にこのボタンがお洒落なのがポイントだと思うんですよね」
「・・・・はあ」
とりあえず今はお仕事中ですのでね、私。
「何してんだ、お前」
「あ、おかえりエース」
懸命に説明してたらエースが水持って立ってた。
「お、男居たのかよ!?」
「だから1人じゃないって」
言ったのに!!
ナンパ男は慌てて去って行った。
・・・・お店行ってくれてたらいいなあ。
期待はしないけど。
「ナンパじゃねェの今の」
「知らないけどそうなんじゃない?でもほら私今お仕事中だからさ」
ちゃんとお店の宣伝しておいた!
どやァと胸を張れば、
「ははっ、そりゃあ最高!」
「可愛いって言われたからお店の宣伝しておいた。他に可愛い服ありますよって」
「・・・・可愛いってそりゃお前」
「何?」
エースが少し呆れたような顔で私を見るから。
エースに馬鹿にされる覚えはないんだけど、と首を傾げる。
「服じゃねェだろ」
「こんな可愛いのに!?」
「お前だよ」
「え」
「可愛いの」
・・・・・見れば顔を真っ赤にしたエース。
「・・・エースも、そう思ってくれてる?」
「・・・・思ってない、ことも、ない」
歯切れの悪い答えだけど満足。
「・・・ありがと」
「・・・その服買い取るか」
「え、なんで」
「似合ってるから」
モビーでも着ればいいだろ、とエース。
「でも高そう」
布いっぱい使ってるし。
「俺が買ってやるよ」
「え、いいの?」
「その代わり俺が居ない時は着るなよ」
「なんで」
「・・・・絶対言わねェ」
理由はよくわからなかったけど、
お店に行ったらめっちゃ大繁盛してて。
服はサービスでくれました。
ナンパ男に言った時に皆お店の名前聞いていたみたい。
「いつもの服になったら付き合えよな、デート」
「・・・・うん」
今度はいつもの服で食べ歩き。
でもたまには可愛い服着て。
エースの隣を歩きたいな、なんてね。
