Thank* you



こういうの、何て言うんだっけ。

スランプって言うんだったかな。

うまくいかない。

私には料理しかないのに。

「・・・・・どう?」

今日はエースに試作品を試食してもらってる。

・・・・けど、正直自信はない。

エースは一口食べて、

「・・・・普通にうめェけどな?」

とのこと。

違う。

私が欲しいのはこんなんじゃない、

もっと笑顔の、エースの美味しいが聞きたいのに。

普通に美味しい、じゃ駄目なのに。

「・・・・有難う」

「何で落ち込むんだよ」

「私料理人向いてないのかなあって」

指は絆創膏まみれ。

頑張って作っても美味しいものは作れない。

「何か辛いのか?」

「・・・・役に立てないのは、辛い。かもしれない」

「たってんだろ?」

「でも」

「俺はつまみ食いせずに堂々と美味いモンが食える。だから説教されなくてすむ」

「でももっと美味しく出来たかもしれない」

私が料理したばかりに。

・・・食材が、悲鳴をあげているかもしれない、のに。

「気持ちはわからないでもないけどよ、俺は美味かったって思ったんだぜ?」

「・・・・それは、嬉しい、けど」

「嘘じゃねェからな。おべっかでもねェ」

「うん」

エースの嘘はわかりやすいし、

おべっかを言えるような人じゃないことは知ってる。

・・・私に向けてくれる真剣なな眼差しからも、伝わってくる。

「何に悩んでんのかは知らねェけど、俺は好きだからな」

「・・・・うん」

「料理辞めるとか言うなよ」

「ありがとね、エース」

「・・・・おう」

励ましてくれるエースは本当に嬉しい。

でもだからこそ、今のこの状況が辛い。

もっと頑張らないと。





「頑張りすぎじゃないの?」

とサッチさんは言う。

「むしろ足りないくらいだと思ってます」

「真面目だねえ」

何て話しながらサッチさんと夕飯の下ごしらえをしていたら、

案の定。

「いっ、た・・・」

「ありゃ、やった?」

「・・・・すみません」

指を少し切った。

「いーよいーよ、今日は休みな」

「でもこれくらい」

「もっと大きい怪我する前に休んどきなって」

「・・・・はい、すみません」

ここは大人しく従っておこう。



甲板に出て頭を冷やす。

はあ、とため息。

「まぁた落ち込んでんな?」

と声をかけてきたのはエース。

「・・・・指、切った」

「マジかよ。ナースんとこは?」

「そこまでじゃないし」

「そんで追い出された、ってとこか」

「・・・・そんなとこ」

またエースに心配をかけてしまった。

私は本当に、

「ダメな人間だ、って思ってるに1票」

「へ」

「当たりだろ」

にんまりとエースが笑う。

「・・・思うよ。実際そうだもの」

「調子が悪い時なんて誰にでもあるだろ」

「それは・・・・そうかもしれないけど」

「な、明日島に着くだろ」

「そうみたいね」

「一緒に見て回ろうぜ」

「・・・・勿論、いいけど」

「楽しみだな!」

「・・・・うん」




エースが何を考えてるのかわからないまま、

モビーは無事に島に着いた。



「賑やかだね・・・」

これは買い出しにも期待が出来そう。

珍しい食材とかあるかな。

「言っとくけど今日は買い出しじゃねェからな」

私の心を読んだかのようにエースがツッコむ。

「わかってるよ・・・」

「今日は俺のことだけ考えてろよ?」

「え」

何ソレ。

「ほら、まず飯食おうぜ。あそこいい匂いがする!」

「あ、うん」

嬉しそうなエースに手を引かれるがまま。

エースが選んでくれたお店の料理は美味しくて、

でも私にも作れないかなあなんてやっぱり考えてしまう。

「ねえ、えー・・・・・・・す」

料理について聞こうと思ったらエースはすでに夢の中。

・・・心配してくれてるエースの為にも今日は楽しもう。

心に決めた。



食事の後に寄った雑貨のお店で、

「この食器いいなあ・・・パスタ盛り付けたら美味しそう」

「ブートジョロキアペペロンチーノ食いてェな」

「いいね!エース気に入ったお皿あったらそれに作ってあげる」

「ほんとか?じゃあどれにすっかな・・・」

エースが選んだお皿を見て盛り上がったり、

「このグラス可愛いなぁ」

波の柄のグラスを見たり。

久しぶりに楽しいと思えた。

「買うならこっちにしとけよ」

エースが炎の柄のグラスを持ってきた。

「あら素敵」

「だろ」

その炎はエースを彷彿とさせるから。

何だか愛おしくなって、

「決めた。これ買う」

「んじゃ俺が買ってくる」

「え、いいよ」

「いーって」

金は後で徴収すっから心配すんな、とエースが笑ってお会計。

「あと何かねェの?」

「何かって?」

「欲しいモン」

言われて考える。

・・・・珍しい調味料とか?

「使い勝手のいい調理器具とか・・・?」

「そういうんじゃなくてよ」

「・・・・じゃなくて?」

「あーなんだ、その・・・アクセサリー、とか」

少し顔の赤いエースがぽつりと呟く。

「って言っても料理の時に邪魔になるものはいらないかなあ」

「・・・・あ、そ」

「あ、前髪」

「前髪?」

「最近伸びて来て邪魔だからヘアピン欲しいんだった」

忘れてた。

「ヘアピンだな!任せとけ!」

急にエースがやる気に。

「ヘアピンならあっちの方・・・」

「いや、こっちだ」

目を輝かせたエースが私の手を引く。

「これ!こんなんどうだ!?」

エースが勢いよく手に取ったのは、
お花を模ったものがついてる可愛いヘアピン。

「あ、可愛い・・・」

「だろ!?」

「うん、可愛い」

「絶対似合うと思って目ェつけてたんだぜ」

「あ・・・・ありがと・・・」

嬉しい半分、驚き半分。

「これでいいよな?買ってくる!」

さっきのお金も払ってないというのにエースはいそいそとお会計へ。

・・・・・ふふ、なんか楽しい。

「ん」

速攻で戻ってきてくれたエースは満面の笑みで私に買ったばかりのヘアピンを渡してくれた。

「ありがとね、エース。ついでにお願いがあるの」

「お願い?」

「食材買うの手伝って!あと試したいレシピが出来たの、試食して!」

「おう、いいぜ!」


モビーに戻りサッチさんにキッチンの許可をもらって。

エースにもらったヘアピンをつけて、気合入れて。

早速取り掛かる。

これを使って、それから組み合わせはこう。

・・・うん、いい感じ。

何より楽しい。

盛り付けをして、辛いかもしれないから飲み物を、と買ったばかりのグラスの袋を見て驚いた。

「・・・・エース、これ」

同じものが2つある。

思わずエースに聞いてみればエースはにしし、と笑った。

「いいだろ。お揃いだぜ?」

「こっそり同じの買ってたの!?」

「まァな」

「あ、待って私お金払ってない」

今思い出した。

「いらねェよ、俺からプレゼント」

「でも」

「んなことより試作品出来たんだろ?食わせてくれよ」

エースの言葉にこみあげてくるものを抑え、
2つ並んだグラスにお水を注いで、

盛り付けをして。

「はい、お待たせ」

「パスタ・・・ナポリタンか?」

「ちょっと違うかな。召し上がれ」

「いただきます!」

目を輝かせたエースがパスタを頬張る。

「・・・・・ん!んめェ何だこれ!?」

「美味しい?」

「辛くて俺好みだ。すげェ美味い」

「トマトとガーリックソースのパスタ。唐辛子も入ってるから辛いでしょ」

「もっと辛くてもイケるぜ俺は」

「じゃあ今度はもっと増やしてみる」

欲しかった言葉、欲しかった笑顔。

ああやっぱり料理って楽しい。

「スランプ脱出だな!」

「エースのおかげだよ、有難う」

「俺も楽しかったし気にすんなって。良かったな!」

今日は本当に楽しかった。

「ねえエース、また一緒に出掛けてね」

「当たり前だろ?俺お前のこと」

ばたり。

エースがテーブルに顔を伏せた。

聞こえてきたのは言葉の続きではなく気持ちよさそうな寝息。

・・・・・嘘でしょ。

あんな気になること言っておいて寝るの!?

・・・まあ、今回心配してくれたし。

グラスもヘアピンもプレゼントしてくれたし、いっか。

でも起きたらすぐに聞こう。

グラスをお揃いにした理由と、

さっきの言葉の続きを。























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