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一線の先

パン。

ここ数年で、聞き慣れた銃声が背後からした。
熱をじわじわと帯びて行く身体。
回らない思考。

数秒後、思考がやっと回ってきたと思えば、口角が上がる。何故か笑みが出てきた。そして

「____やらかしちゃった」

そう小さく呟くと、身体は一気に傾いて行く。
固く、冷たい地面に倒れる寸前、

誰かが俺を支えて叫んだ。

「小牧‼」

悲しそうな、不安そうな、同期の顔が、視界いっぱいに映る。
今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「小牧教官被弾ッ‼至急、救護班お願いします‼」

笠原さんの声が、遠くに聴こえた。
ズキズキと痛む現実から逃げるように、笠原さんって、教官呼び、抜けないよなぁ。なんて軽く現実逃避をする。

でも、そうでもしないといけないくらい、痛いのだ。
まぁ、そりゃ撃たれたから、そうなんだけど。
なんて自分でセルフツッコミを入れた。

騒がしい声がする中で、自分の胸に手を当てて、生暖かい、鮮血に触れた。不思議とまた、笑みが零れた。

きっと、安堵したんだ。

可愛い部下じゃ無くて。

大切な、同期バディじゃ無くて。


「____ど…じょ…」

小さく呟いた言葉は、遠くでする、指示をする声や良化隊の銃声、図書隊の銃声で掻き消されてしまう。

それでも堂上は、小さな小さな音声を拾って、ちゃんと、気付いてくれた。

「喋るな阿呆‼」

珍しく焦っている同期の顔。何時もは冷静な癖に、今じゃ冷静の欠けらも無い。
ふと堂上の後ろに視線を向けると、堂上より遥かに高い所に、彼女がいた。

綺麗な瞳には、透明の滴を貯めて、今にもこぼれ落ちてしまいそうだった。

あぁ、2人が心配してる。「大丈夫だよ」って言えたら、どれだけいいだろう。
意識を離しては駄目だと分かっていても、まるで仕事で疲れた後のように、睡魔のような、終わりが近付いてくる。

「…ど、…ぅ」

「黙れ」

『堂上』。そう呼ぼうとして絞り出した言葉は、簡単に切られてしまった。
そんな怖い顔するなよ、最期かもしれないじゃない。

「今…まで…ありがと…」

かすれかすれに言った声。その言葉に堂上は、更に怖い顔をした。

「そんなこと言うな‼」

堂上の声が、周りの空気を揺らして響く。
俺は、一応、ね?と笑った。
笑えただろうか。
もしかしたら、笑えなかったかもしれない。

堂上は温かい手で、俺の手を包んで、また、叫んだ。

「まだ____まだ、居てくれ、小牧…‼」

苦しそうに言った。

ごめん堂上。それは無理だ。
すごく眠くて、瞼が鉛のように重い。
ごめん笠原さん
ごめん手塚

もしまた会えたなら

こんな俺がまだ生きていていいのなら。

幾らでも殴っていいし、叱ったって構わないから。

だから、サヨナラだけは、言わせて欲しい。

瞼が閉まる寸前

暖かいものが、顔に降ってきた。

その正体を確認する前に、意識はぶつりと切れた。
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