第一章
夢小説設定
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「(だめだ……いくら飲んでも喉が渇く)」
自室のベッドに腰掛けたまま、薄いプラスチックのボトルに入った水を飲み干すと空になった容器を力任せに握りつぶす
乾いた音をさせ変形したペットボトルは乱暴にごみ箱へと投げつけられ室内に異様な空気が流れた
「…はぁ………………くそっ!」
口の端から透明な水を少し零した彼は手の甲で乱暴に拭うと疲れたようにため息を吐き肩を落とした
「(このところ特に酷いな…薬を変えるべきだろうか)」
生気のない疲れた目元を指先でなぞり先の見えない苦痛と戦う彼はガラルのチャンピオンであるダンデという青年だった
誰に対しても偏見なく接する彼はチャンピオンという事もあり家族だけでなくガラル中から愛されている
表向きは全てを手に入れ満たされた生活をしているように見えるが、彼には満たされない苦痛がつきまとっていた
本能を満たす欲だ
アルファとして生まれた時から満たされる事のない渇きがつき纏い不快だった
ただの欲ならば一人で発散させれば問題ないが本能が欲しているのはただの発散ではない
番となる相手を食い尽くす程の激しい行為だ
「(仕方ない…副作用を我慢するか)」
ベッドサイドの引き出しから取り出した筒状の簡易的な注射器を右手で握ると左の腕へと勢いよく押しつけた
短く小さな針が肌に押し込まれると自動で薬が血液へと流れ込みダンデはじわじわと体の熱が落ち着いてくる感覚を感じられた
「…っ……はぁ……」
全て薬が流れ込むと使い終わった注射器もごみ箱へと投げ入れ、汗で額に張り付いた前髪を鬱陶しそうにかきあげながら腰を上げる
アルファ用の制御剤をこうして使うのは慣れている、後日襲ってくる副作用の倦怠感は苦手だが仕方がない
「………嫌になるぜ」
窓の外を見れば遠くにまどろみの森が広がっており彼は何気なくそちらをぼんやりと見つめた
「(いつになればこの苦痛から解放されるんだ…俺を満たしてくれる人はこの世界に本当にいるんだろうか)」
心の中で呟いた願いが空に届いたのだろうか
まだ明るい空に目をやると、ダンデに見てもらう為かのようにタイミングよく後ろに長い光の尾を引いて一つの星が降ってきた
キラキラと輝くその星はまどろみの森へと落ちていきダンデは驚きに金色の瞳を大きくさせた
「願い星?まさか………だが………」
願い星は強い願いを持つ者の元へ落ちてくるとガラルでは伝わっている
自身もまたジムチャレンジをする時に願い星を手に入れた
もし…今回も自分の願いを叶える為に星が落ちてきたのだとしたら?
じっとしていられず、ダンデは慌てて上着を掴み階段を駆け下りた
「ダンデ?どうしたの?」
母親が何事かと声をかけるが足は止まらない
「ちょっとリザードンと訓練してくるぜ!」
咄嗟に嘘をついてしまった
罪悪感を感じながらも上着に腕を乱暴に通しながらまどろみの森へと走る
すぐさま見えてきたまどろみの森への入り口
立ち入り禁止の柵に片手をかけヒラリと飛び越え、ダンデは深い深い森へと入っていった
霧がかかった森の中は獣道しかなく手入れがされていない伸びた木々が太陽の光を遮っている
野生のポケモン達は侵入者を薄暗い草陰から見つめ様子を伺っている
リザードンを呼び出す事もできるが今はそれさえ待てない、早く星を見つけたくて勘を信じて右へ左へと進み草や枝に肌を切られながら先を急いぐ
「はぁ…っ…ここは…」
霧の濃い森を進み奥へと辿り着くとそこは圧迫感のあった森とは違い開けた場所だった
湖のおかげか霧も薄くぼんやりと柔らかい太陽の光も入っている
ポケモンの泣き声さえしない静かな空間
ここだけ別世界のような錯覚を感じてしまいそうだった
「………こんな場所があったのか」
一歩…また一歩と進むと湖の中央へ向かう道に気がつく、苔にまみれ所々劣化している石の階段を登るとアーチ状の建造物の下には墓のような物があった
誰の墓か確かめようとした時だ
墓の後ろにキラキラと輝く光に気がついた
手にじんわりと汗が浮かび全身がうずうずし落ち着かない、まさか…という期待に喉を上下に揺らし恐る恐る覗き込むと
「………はっ……っ」
歓喜と驚きの混ざった吐息と震える声をのみ込みダンデは自分の口元を片手で押さえ込む
彼が見た先には探していた願い星と…
一人の少女が横たわっていた
人気のない場所に何故この少女はいたんだろう
故郷であるハロンタウンやよく立ち寄るブラッシータウンでは見たことがない
そのせいだろう
あり得ない事だと分かっていながら、つい馬鹿な想像をしてしまう
彼女は自分の為に降ってきた願い星だと
ダンデはゆっくりと彼女の元へと近寄り片膝を地面につけると、頰を隠した彼女の髪の毛を手の甲で退かしてやった
自分とは違う白い肌
長く黒い睫毛と形のいい唇
服装はTシャツに短パンとラフな姿だった
「(ホップくらいか?首輪はしていないようだが…僅かに甘い匂いがする)」
髪を退かした手で頰を撫で首筋を軽くなぞる
白く細い首筋を見ていると自然と彼の喉がきゅっと狭くなり唾を飲み込んだ
「…………俺の願い星」
じんわりと喜びが胸に広がり彼の口角は裂けそうな程つり上がっていた