7章 標的の女
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(デフォルト名:みょうじ なまえ)長編、短編固定です。
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童実野町の夜空を支配していた静寂は、その瞬間、物理的な断絶へと叩き落とされた。
それは海馬コーポレーションが軍事の鉄錆を脱ぎ捨て、エンターテインメントの頂点へと昇り詰めようとする過渡期、その光り輝く未来の裏側に潜んでいた、現実の逆襲だった。
敵対勢力、多国籍軍事複合体アイギス。
首謀者サイラスは、瀬人が切り捨てた旧時代の兵器市場で肥え太り、今まさに「瀬人という名の秩序」に市場を喰い荒らされている男だった。
「……海馬瀬人。貴様がカードの幻影で世界を塗り替えようとするなら、俺は貴様の心臓を止めることで、その夢を瓦解させてやる」
その男は、KCの通信衛星が更新されるわずか15秒の空白を突いた。
ドミノ・ブリッジ。
なまえは、重厚な防弾リムジンの後部座席で、無機質な青光を放つタブレットに視線を落としていた。
取締役会に向けた、人員配置の最終調整。
それが彼女の日常であり、彼女が瀬人と共に歩むための戦いだった。
「……瀬人くん、またこんな無茶な予算を……。明日、少しは黙らせないと」
薄く笑みを浮かべた、その瞬間だった。
独白は、物理的な衝撃によって断ち切られる。
高周波の耳鳴りと共に、車内の照明、タブレット、そしてエンジンの鼓動が消失した。
慣性で滑走したリムジンが橋の欄干に激突し、世界からすべての電子音が消え去った。
「……っ、何……!? 電源が……全部落ちてる?」
街の灯さえも死に絶え、不気味な月光だけが橋を青白く照らし出す。
闇の中から現れたのは、暗視ゴーグルを装着した武装集団。
一瞬、鈍く重い衝撃音が四方から同時に響く。
複数の硬質な鈍器による暴力的な一撃が、リムジンの全てのガラスを強引に粉砕した。
鋭利な破片がなまえの足元に降り注ぐと同時に、容赦のない一撃がドライバーの側頭部を捉える。
ハンドルへと力なく突っ伏す、鈍い肉の衝撃音。車内に残されていた唯一の味方の気配すら、無残に途絶えた。
「降りてもらおうか、みょうじなまえ。……お前という不確定要素が、海馬瀬人の唯一の脆弱性だということを証明しに来た」
無理やりドアを開けられ、アスファルトの上へと引きずり出される。
「……っ、……!」
アスファルトに叩きつけられた衝撃と鋭い痛みに顔をしかめながらも、自身を拘束する男を睨みつけた。
暴力的、冷徹なまでの実務家の瞳。
プロの兵士特有の殺気がそこにはあった。
なまえの記憶のどのページを捲っても、この男の顔は存在しない。
海馬コーポレーションがこれまでに関わった主要な取引先、および政財界の要人のリスト。
そのすべてを記憶しているはずの彼女の脳が、未知の脅威を前に警報を鳴らしていた。
「……誰よ、貴方。海馬コーポレーションの人事部長を誘拐して、無事で済むと思っているのかしら」
なまえは膝をつきながらも、声だけは「鉄の女」の鋭さを失っていなかった。
恐怖を押し殺し、冷然と言い放つ。
「フン、その虚勢。なるほど、あの傲慢な王が傍に置きたがるわけだ」
「俺が何者であるかなど、お前が知る必要はない。お前というコストによって再編される、軍事市場の再来もな。」
男はなまえの問いを鼻で笑うことさえせず、ただ無造作にライフルの銃口を彼女の頭に突き立てる。
その瞳にあるのは、邪魔な障害物を排除しようとするだけの、乾いた湿度だった。
「海馬瀬人の隣で、奴の描く非合理な未来を現実という形に整え続けている、唯一無二の共犯者……みょうじなまえ」
男は、なまえの髪を乱暴に掴み上げ、その顔を月光の下へと晒した。
「海馬瀬人が築こうとしている娯楽の城が、どれほど脆い砂上の楼閣であったかを思い知らせてやる。お前の死こそが、停滞したこの世界を再び鉄と血の時代へ引き戻すだろう」
男の指が、引き金を絞り込む。
「……死ね。鉄の女」
死の重圧が、銃口を通して冷たく伝わる。
(終わりだわ……瀬人くん……)
なまえはぎゅっと両の目を閉じた。
刹那、鼓膜を震わせる爆音。高度200メートルから降り注ぐ猛烈な旋風。
闇を無慈悲に引き裂いたのは、月光すらも無効化する三条の光芒だった。
逃げ場のない超高出力のスポットライトが、男たちの視神経を焼き、その傲慢な影をアスファルトに縫い付ける。
吹き荒れる夜風にコートを翻して、その男、海馬瀬人はヘリから飛び降りた。
その背後、三機の機体から放たれた数十本のロープを伝い、漆黒のタクティカルスーツに身を包んだKC防衛軍が音もなく降り注ぐ。
着地と同時に流れるような動作で展開し、一瞬にしてサイラスの集団を逆包囲した。
KC防衛軍が、一斉にアサルトライフルの銃口をサイラスの集団へと向ける。
それに応じるように、闇に潜んでいた敵の武装集団もまた、瀬人と防衛軍を標的に据えた。
ドミノ・ブリッジの上に、無数の赤いレーザーサイトが交錯する。
「……フン。地獄の底を這いずり回るハイエナ共が。己の『分』をわかっていないようだな」
アスファルトを叩く硬質な足音。
着地と同時に放たれる、凍りつくような絶対零度の覇気。
男の瞳には、自分の盤面を汚した塵芥への、底知れない蔑みが宿っていた。
瀬人は、自分に向けられた数多の銃口など存在しないかのように、硬質な靴音を響かせて一歩、前へ踏み出した。
スポットライトが、彼の純白のコートを鋭利な刃物のように際立たせる。
瀬人は、銃口を突きつけられているなまえの姿を、その鋭い青い瞳で射抜くように見つめた。
(瀬人くん………)
サイラスはスポットライトの白光を遮るように腕をかざし、喉の奥で歪んだ笑いを漏らした。
「……おもちゃの国の王様のお出ましか。光栄だな、海馬瀬人。この俺を記憶の隅に留めていたとは」
「サイラス。剛三郎という亡霊が消え去った後も、未だに過去の腐肉を貪り、醜態を晒し続けているとは無様だな」
瀬人の瞳には、憐れみすら浮かばない。
ただ、自分の描く完璧な未来の盤面に、消し忘れたゴミが紛れ込んでいることへの不快感だけがそこにあった。
「クク……笑わせるな。お前が平和ごっこを始めたおかげで、我々がどれほどの損失を被ったか想像もつくまい。築き上げた権益も、鉄と血の対価も、すべてだ。……すべてはお前の独断のおかげだよ、海馬瀬人。感謝してもしきれん」
サイラスの言葉には、失った富への執着と、自分たちを旧時代の遺物として切り捨てた若き王への、どす黒い皮肉が混じっていた。
だが、瀬人はその怨嗟に一瞥も与えず、ただ静かに問う。
「狙いは何だ。目的は何だ。……俺を差し置いて、その女を狙うわけを聞かせてもらおうか」
その問いに、サイラスはなまえの髪をさらに強く掴み上げ、銃口をその側頭部に深く押し当てた。
「かつて剛三郎と築き上げた至上の利権、それを奪い返しに来た。海馬……お前らという不確定要素さえ消えれば、再び世界を我々の掌握する戦場に書き換えるのは容易いことだ。この女の命は、そのための最も効率的な鍵に過ぎん」
「……ならばどうする」
瀬人の問いは、冷酷なまでに短かった。
その声には焦燥も恐怖もなく、ただ相手の次の一手を見極めるための、非情な観察眼だけが宿っている。
「決まっている」
サイラスが憎しみに支配された笑みを浮かべ、
なまえの側頭部に銃身を強く食い込ませた。
セーフティが解除される、冷たく硬質な金属音。
その刹那。
翻るタイトスカート。太腿のレッグホルスターから、小型拳銃が抜き放たれた。
意識を極限まで研ぎ澄ませ、指先だけで弾く。
乾いた二連爆音。
放たれた二発の弾丸は、寸分の狂いもなくサイラスの右腕を、ライフルのグリップを握り締めていたその手を鮮血と共に抉り飛ばした。
「グ……ア、アァァァッ!!」
鮮血が舞い、サイラスが絶叫する。
だが、地獄を這いずり回ってきたハイエナの執念は、常人のそれを遥かに凌駕していた。
砕かれた手首を、自らの憎悪で繋ぎ止めるかのように、彼はライフルを離さない。
「……この、雌犬が……ッ!!」
痛みで白濁した視界のまま、サイラスは銃口を無理やりなまえへと向け直し、執念の一発を放った。
至近距離から放たれたライフルの衝撃が、なまえの胸を無慈悲に穿つ。
衝撃、色を失う視界。
なまえの体はドミノ・ブリッジのアスファルトへと崩れ落ちた。
「……ッ!!」
瀬人の喉が、鋭く微かな音を立てて凍りつく。
見開かれた瞳に焼き付いたのは、夜の闇に飛び散る鮮烈な赤。
だがそのコンマ数秒後、彼の瞳は激情さえも置き去りにするほどの冷徹な色へと塗り替えられていた。
「――撃て!!」
裂帛の号令。
響き渡る銃火の嵐。
KC防衛軍の精密な集中銃火が、サイラスと武装集団を一斉に、かつ容赦なくアスファルトへ縫い付けていく。
「ガ、ア……ッ、あ……」
自らの血の海に沈むサイラス。
再起不能の体で、男は震える唇から最後の呪詛を絞り出した。
「……海馬、瀬人……。貴様も、いずれ……地獄、へ……」
瀬人は血塗れの敗北者の真上に立ち、底知れない軽蔑を宿した瞳で見下した。
「……死に損ないが。消えろ」
アスファルトに広がる赤の中には、王に命を賭した一人の女が横たわっている。
瀬人は迷いなく、その鮮血の海に膝をついた。
「……なまえ」
低く、押し殺したような声。
彼は震える指先を伸ばし、急速に体温を失っていく彼女の体を、壊れ物を扱うかのような手つきで抱き上げた。
「……瀬人、くん……」
なまえの唇から、微かな吐息と共に途切れ途切れの言葉がこぼれる。
「……ごめん…なさい、射撃の、訓練……足りなかった…か…も……」
瀬人の純白のコートに、なまえの胸元から溢れ出した赤が容赦なく染み付いていく。
だが、彼はその汚れを厭うことさえしない。
ただ、ただ、彼女の呼吸が途絶えないことだけを祈るように、その細い体を強く引き寄せた。
「……フン。そのようだな。知性だけの女が、分不相応な真似をするからだ。……余計なことを」
突き放すような皮肉。
だが、その声は微かに震え、抱きとめる腕の力は、彼女をこの世に繋ぎ止めようとする執念に満ちていた。
「メディカルチーム!!何をしている、さっさとこの女を運べッ!!」
暗転していくなまえの視界の中で、最後に響いたのは、理性など微塵も感じられない、彼の喉を潰すような怒号だった。