1章 死神の目を持つ女
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(デフォルト名:みょうじ なまえ)長編、短編固定です。
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その新人は、死神の目を持っていた。
21歳のみょうじなまえは、海馬コーポレーションに蔓延る「膿」をデータとして吸い上げるためだけに、人事部の片隅に潜伏する。
剛三郎の執念も役員の腐敗も、彼女の中では、ただの「排除すべきゴミ」に過ぎない。
彼女は徹底して「無能ではないが、目立ちもしない新人」という仮面を被り、完璧な事務処理と丁重な礼儀で作法を貫く。
だが、その瞳だけは、組織のあらゆる神経系統——すなわち人間の弱点と不正の記録を、冷徹なまでに収集し続けていた。
いずれ到来する若き王が、一寸の迷いもなく剣を振るえるよう、完璧な盤面を整えるための布石だった。
若き瀬人は剛三郎から会社の覇権を奪うべく、暗闇で爪を研いでいた。
そんな彼の元へ、差出人不明の匿名メールが届く。
記されていたのは、剛三郎派の役員たちが隠し持つ不正蓄財の証拠、愛人関係、そして血族さえも裏切りかねない致命的な背信行為の数々。
敵陣営を瓦解させるための「最悪の毒」であった。
発信元は徹底して偽装され、氏名すら記されていない。
一切のログは残されてはおらず、システムを通過した痕跡さえ、白昼夢のように完璧に消し去られていた。
ある深夜、瀬人はついにその「毒」の供給源を突き止めた。
照明を落とした人事部のオフィス。
一台の端末の前に座っていたのは、昼間、瀬人の傍らを深々と頭を下げて通り過ぎていった、あの新人の女であった。
「正体を隠し通せたと思ったか、小娘」
背後から響いた冷徹な声。
なまえの手が止まる。
彼女は静かに立ち上がり、振り返ると、そこには月光を背負った海馬瀬人が立っていた。
「……お見事でございます、瀬人様。まさかこれほど早く、私のような末端に辿り着かれるとは」
なまえは乱れた髪一つ整えることなく、完璧な最敬礼で彼を迎えた。昼間の仮面は剥がれていない。
だが、その声には、冷徹な理性が宿っていた。
「何が目的だ。俺を売るつもりか、あるいは俺の反逆心をあぶり出し、剛三郎への忠誠を示すための餌か」
瀬人の瞳が、獲物を射抜くように鋭く光る。なまえは静かに頭を上げ、その若き王の瞳を、陶酔と確信の入り混じった眼差しで見つめた。
「滅相もございません。私は……貴方様に未来を見出したに過ぎません」
「未来だと?」
「はい。この腐敗した城には、貴方様の類稀なる才能と知性、そしてその気高さを収める器がございません。……私は、まだ芽吹いたばかりの貴方様の威厳に、一人の王としての完成を見ました。海馬瀬人様、私は貴方に、全生命と未来を賭けたいのです」
なまえは淡々と、だが一言一句に命を込めるように告げた。
「貴方様がこの城を焼き払い、真の王として君臨する姿を拝見できるのであれば、私は影となり、毒となり、貴方様の礎となる所存です。……私の賭けをお受け取りいただけますでしょうか」
沈黙が支配する深夜のオフィス。瀬人はなまえを射抜くように凝視していたが、やがてその肩が微かに揺れた。
「……フハハハハ! 面白い……! 実に面白いぞ、貴様!」
夜の静寂を切り裂く、不遜で傲慢な高笑い。
瀬人は一歩踏み込み、なまえの顎を強引に引き寄せた。
至近距離で見下ろす瞳には、狂気にも似た愉悦が宿っている。
「名もなき新人が俺の覇道に全幅の信頼を寄せ、命を投げ出すと言い切るか。その歪んだ忠誠心……この俺が、預かっておいてやる! 貴様のその賭け、せいぜい高くつくことを覚悟しておくがいい!」
瀬人が不敵に笑い、強引に掴んでいたなまえの顎を離すと、深夜のオフィスに刺すような静寂が戻った。
「……剛三郎の側近7名。彼らを沈黙させるための材料はすべて揃えました。これを使えば、貴方の采配一つで盤面はどのようにも動かせるはずです」
なまえは視線を逸らさず、淡々と、けれど確信に満ちた声で言葉を紡ぐ。
感情を排した、純粋な資源提供としての言葉だった。
瀬人は足を止め、背中でその声を受け止めた。
「フン、俺に策を講じろというのか。不遜な女だ」
「いいえ。私はただ、貴方の行先を整えるだけです。……組織の歪みを正し、貴方の論理が通る道を作る。そのための実務の手綱は、私が握っておきます」
「王」としての決断と采配は彼に委ね、自分はその覇道を支えるためのシステムを完璧に管理・整備する。
なまえはそう言い放った。
瀬人は一度だけ鼻を鳴らし、コートの裾を翻して闇へと消えた。
静寂のオフィスに、エンターキーの鋭い打鍵音が響く。
それが、二人が初めて交わした、血の流れない共犯の合図だった。
数日後。
海馬コーポレーションに激震が走った。
瀬人が剛三郎を失脚させ、全権を掌握したのだ。
匿名で送られ続けた「人事の毒」は、剛三郎派の役員たちを一人残らず沈黙させ、覇権交代の決定打となった。
全社員への通達が出る数時間前。
主の入れ替わったばかりの社長室。
瀬人は玉座のような椅子に深く背を預け、目の前に立つなまえを見つめていた。
「……みょうじなまえ」
「はい、社長」
瀬人は無造作に、デスクの上へ一冊の辞令を放り投げた。
「本日より、貴様を海馬コーポレーションの人事部長に任命する。……剛三郎の残党を根こそぎ掃除しろ。貴様の賭けの、これが最初の配当だ。受け取れ」
21歳の部長。前代未聞の、そして傲慢なまでの抜擢。なまえはその辞令を手に取ると、一瞬だけ、仮面の下で熱狂的な勝利の笑みを浮かべた。そして、これ以上ないほど美しく、深い礼を捧げる。
「——承知いたしました。貴方の論理が完璧に機能するよう、私がこの組織を整えます。」
「フン……。口先だけではないことを証明してみせろ」
二人の間に、言葉にならない「魂の共犯」という契約が刻まれた。
後刻、全社に発信された「21歳の人事部長就任」という粛々とした通達は、新時代の王が放った最初の、そして最も鋭い宣戦布告であった。
海馬コーポレーションの役員会議室。
かつて剛三郎の腰巾着として権勢を振るっていた老いた役員たちが、卓を囲んで怒号を上げていた。
「ふざけるな! 10代のガキが社長だと!? 剛三郎様はどうされた!」
「それだけじゃない、あの中報を見たか! 21歳の小娘を人事部長に任命するだと? 海馬のガキめ、血迷ったか!」
その時、重厚な扉が衝撃音と左右に開いた。
先頭を歩くのは、ロングコートを翻した瀬人。そしてその一歩後ろ、影のように付き従うのは、一寸の乱れもないスーツに身を包んだみょうじなまえだった。
瀬人は一言も発さず、かつて剛三郎が座っていた中央の椅子に深く腰を下ろした。なまえはその右隣、社長の懐刀であることを示す位置に、凛とした佇まいで立つ。
「瀬人! 貴様、何の説明もなしにこんな人事が——」
「黙れ、老害共」
瀬人の低い声が室内の空気を凍らせた。彼は不遜に脚を組み、狼狽える役員たちを一瞥して鼻で笑う。
「俺が決めたことに、何か文句があるのか? ……みょうじ。始めろ」
「承知しました。……皆様、海馬コーポレーション人事部長、みょうじです。以後、お見知りおきを」
感情を一切排除した冷ややかなと共に、なまえは手元のタブレットを操作しモニターにある極秘ファイルを転送した。
「……な、なんだ、これは……」
先ほどまで喚き散らしていた役員たちの顔が、一瞬で土気色に変わった。
そこに映し出されていたのは、彼らが長年ひた隠しにしてきた架空発注による資金洗浄、インサイダー取引、ライバル企業への技術漏洩の証拠。
匿名で瀬人へ送られていた「最悪の毒」の正体が、今、目の前の若い女性の形をして突きつけられている。
「海馬社長への背信行為、および会社法違反。皆様のこれまでの『ご功績』を鑑み、海馬瀬人社長の名において、即刻解任および刑事告訴の準備はできています」
なまえは仮面のような微笑みを浮かべ、震える彼らを見下ろした。
瀬人はその光景を、極上の娯楽を眺めるように目を細めて楽しんでいる。
「……貴様ら……こんなことをして、タダで済むと思っているのか……!」
「お言葉を返すようですが」
なまえは遮るように、さらに深く、けれど冷酷に言い放った。
「これより一時間以内に辞職勧告に応じ、退職金および全株式を会社へ返上するなら、告訴の取り下げは検討します。……選択肢はありません。これはお願いではなく、王命ですから」
「フハハハハ! 聞いたか、無能共!」
瀬人の不遜な高笑いが会議室に響き渡った。
彼は椅子から立ち上がり、震える役員の一人の顔を覗き込む。
「貴様らの時代は、一分一秒の例外もなく終わったのだ! 命惜しくば、この女の指示に従い、今すぐ俺の城から失せろ!」
21歳の部長。そして10代の王。
圧倒的な才能と狂気に満ちた二人の前に、数十年をこの城で過ごした大人たちは、ただの「汚れ」として排除される運命を受け入れるしかなかった。
すべてを終えた深夜。喧騒の消えた社長室に、なまえは二杯のコーヒーを持って現れた。
「失礼します、社長。本日の粛清対象者、計7名の辞職および資産返上の手続きは、すべて完了しました」
なまえはデスクにコーヒーを置き、瀬人の背中に向かって深く頭を下げた。
瀬人は窓の外、自らが支配した童実野町の夜景を見つめたまま、微動だにしない。
「……フン、貴様の仕事に手落ちはない。満足か、みょうじなまえ」
「滅相もありません。私はただ、私が賭けた未来の盤面を整えたに過ぎないからです」
瀬人がゆっくりと椅子を回転させた。
その瞳には、剛三郎を追い落とした達成感よりも、さらに遠く、高くを見据える渇望の炎が宿っている。
「……これからだ。この海馬コーポレーションを、ただの軍事企業から世界を変えるエンターテインメントの頂点へと作り変える。……旧時代の遺物共には理解できん、神の領域へな」
「はい。貴方が創造する新しい世界、その景色を一番近くで拝見すること。それが、私の全生命を賭けた報酬です」
なまえは完璧な敬語を崩さず、けれどその言葉には、狂気的なまでの忠誠心と熱情が混じり合っていた。
「……みょうじ。貴様、俺が失敗するとは思わんのか」
瀬人の挑戦的な問いかけに、なまえは初めて、仮面の下に潜めていた一人の女としての微笑を漏らした。
「失敗されるのであれば、その時、地の果てまでお供するのも私の役割だと存じています。……ですが、私が選んだ王に、敗北の二文字は存在しません」
瀬人は一度だけ、面白そうに鼻で笑うと、なまえが淹れた冷めかけのコーヒーを手に取った。
「……いいだろう。貴様の未来、俺が最大限に使い潰してやる。明日からさらに忙しくなるぞ、人事部長。俺の歩みに、一歩でも遅れることは許さん」
「——御心のままに。海馬瀬人様」