…………、 (目の前で息絶えた老人。元々衰えた身で先は長くなかっただろう、それでも人の命が消える様を見るのは心が苦しい、と彼は思う)

(その場で黙祷を捧げ、カードキーを回収した)

(か弱いものを蹂躙するのは心が苦しい、と最初は思った。しかしどれほど痛めつけようとも起き上がるそれに苛立ちを感じ始め、しまいには怒りでいっぱいになっていた)

──!! ────!!!! (今すぐ罵声を浴びせてやりたい、という気持ちを堪えるので精一杯なようだ)

（流石の私も怒る時は怒りますよ!!?? 全くどこまでもどこまでも執拗に追いかけてきて息付く暇も無いとは信じられません!!! 率直に言って今すぐ死んで欲しいです）

──！ (ひやりとした感覚が背筋を伝う。彼はゆっくり振り返ると、身振り手振りの応答で自分が『健康な人間』であることを示した)

(非礼を詫びる女軍人に対して) ……、……。 (この世界では人を疑うのは仕方の無い事、との意味を込めて深く頷いた)

……。 (賭け事は別に嫌いでは無いが、それはあくまで娯楽として。この極限状態において何故そのようなリスクを追わなければならないのか、彼はそう思ったが──向けられている銃口が、彼の選択肢を奪い取っていた)

…………。 (やれやれ、と首を振る。結果は負けだった)

……あつ、い………… (思わず口から漏れ出た言葉は、自分でも驚くくらい消え入りそうな声だった。こんな時くらい《言霊》を行使して状況を変えるべきじゃないか、彼はそう考えた)

……“熱は下がる、私は直ぐに健康になる”……

(──変化はない。どうやらこの空間では《魔法》は使えないらしい。普段であれば安堵すべき事象のはずが、この時ばかりは絶望した)

私、黙ってる意味、なかったんですね……
（次回から喋ります）

……、醜い (戦闘を避ける為にあえて潜ったはずの下水道で、ぶよぶよと膨れ上がった腐乱死体に囲まれた彼はひどく顔を歪ませながら吐き捨てた)

人の在り方をこうも歪めてしまうもの、醜悪極まりない── (すらり、と刀を抜く。真っ向から受けて立つつもりらしい……)

──ぃくしっ！ はぁ……さぶ…… (走る悪寒に身を震わせる。何日か前の高熱に比べればまだましな方だが、)

病を患った時に頼れる相手も、安心できる寝床もないというのは……かなり、くるものがありますね…… (その場しのぎの物陰で、ずび、と鼻をすすった)