……覚えがある。前にも見たな、それは (鼻を鳴らし嘲笑する、片目の地蔵を見てふと自身の片目に手を伸ばした。彼自身は見る事ができないが、もしそれを見る事ができる者がいたならば、その瞳が毒々しい色に輝いているのが分かるだろう──)

(一部しか聞き取れなかった言葉、しかし彼はその女が何を言わんとしているか初めから理解していた) 殺意が駄々漏れだな、分かるよ、お前みたいな奴を“知って”いる (その“彼”もこの町を彷徨っているのだろうか、と思案して)

(──直後、うねる蛇に喉元を喰われる) ぅぐッ……は、 (せめてもの抵抗、と自身の『牙』も女性の喉元に突き立てるが、思うように力が入らず) 毒か……!! ふ、クソッ、せめてもう少し……俺に力を──

──っ、て…… (背中を擦りながら身を起こす、ふと頭部に違和感を覚えて手をやると、頭髪に似つかわしくないぬらりとした感触が触れた) っ、これ、蛇か……？ (蛇の頭と思しき部位を撫でると、しゅるる、と囁くような鳴き声が聞こえた)

っは、テメ、何し……!! (縄の軋む音。気付けば彼の足は宙に浮き、首を吊られている)

──ッ、──!!! (その苦しさに抵抗しようとするが、どれほど力を振り絞っても腕を持ち上げるのがやっとな程度、踠く事すらできず口から息を漏らせば──全身から力が抜け、彼は)

(──空を見上げる、上体を起こして手を伸ばした時ふと気付く、自身の背中に弱々しい虫のような薄い羽が生えていることに)うわ、気持ち悪……虫、苦手なんだよな……

はぁ、オジサン、何言って── (呆れて物を言おうとした瞬間、身体の動きがピタリと止まる。怪しげな瞳に見つめられた彼の身は金縛りに遭ったように動かない) っあ、クソ……!!

(──直後、彼の首は胴から切り離され宙を舞い地面へ叩き付けられた)

……なんで学校なんかに (忌々しそうに顔を顰め、汚れた黒板に指を這わせた) くそ、クソッ―― (拳を握り感情のままに叩き付け)

やけにデカい校門だな、登って超えるのは些か危険か―― (目の前の壁を眺めていると、突如、大きな力によって吹き飛ばされ) ――い˝ッ!!?

く、そ、幾つか折れたか……!! (激痛の走る身体を無理やり起こし振り向くと) な、んだあれは。ドラゴンか？ はは、〈魔法〉さえ使えればあんなもの敵ではない筈なのにな、 (渇いた笑いが漏れ、最早抵抗する術はないと目を閉じた――)

(──それは以前にも見た景色だ、と気付くと直後に桶を投げ捨てて) っふざけるな!!! 死人に構う時間など無いと言ってるだろう!!! (息を荒らげて叫ぶ、彼はその墓に振り向く事なくその場を立ち去った)

は？ おい、これ……アー、また会ったな?? (にこり、とぎこちない笑みを浮かべるが自警団らの様子は以前と違い、険しい顔で彼を見つめている) なあ、一度は見逃してくれたろう、今度もまた──

(しかし今回は彼の言葉が聞き入れられる事はなく、自警団らはそれを滞りなく執行した。眩い程の火花が散り、彼の意識は焼き切れた)

──ッ!? (鏡の中に居る顔を見て思わず後退る、光の無い黒色の双眸の“女”が無機質な笑みを浮かべている。それは彼と全く異なる姿のはずだが)

バカな、そんなはずは (固く目を閉じ首を振る、再びゆっくりと目を開くとそこには毒々しい色の瞳をした“男”の姿が──今の彼の姿が映っていた)

……ただの幻覚か、そうだろうな…… (そうであって欲しい、それにしてはタチが悪い、様々な感情を渦巻かせながらその場をゆっくりと立ち去った)

これは酷いガラクタの山だ。しかしこういう所にこそ意外な発見があったりして── (冗談半分ぼやきながらゴミ置き場を覗き込むと、きらりと光るものを見つけ) いや、本当に見つかるとは思ってなかったがな??

これは……犬笛、か (小瓶に封じられていた小さな笛を取り出して眺める、存外それは真新しい輝きを放っていて) 俺、犬は苦手なんだが……まあ、とりあえず持っておくか

(眼前を塞ぐ巨大な怪物を見て、しかし彼は臆すること無く。バチバチと音を立てながら全身にネオンピンクの雷を纏わせて) ──やるつもりなら、容赦はしないが？

(怪物が雄叫びを上げた瞬間、一閃──強大な雷が巨躯を貫き、焼け焦げた怪物は地に沈んだ)

やれやれ……ようやく力が満ちたか。これで連日の失態も少しは埋め合わせられるといいんだが (埃を叩き落とすような動作をした後、何事も無かったかのようにその場を立ち去った)

かっ、カニ!!! (思わぬ再会で反射的に大声を上げてしまう、以前は聞こえなかった祭囃子も今は確かに聞こえている) お、おぉ……

以前は聞こえなかったものが聞こえる、それつまり人間性の喪失の証左とも受け取れる、喜んでいいのかどうか分からないが……しかしこの楽しげな雰囲気、抗いがたいものがある…… (ぶつぶつと呟きながらも歩みは確かに縁日に向かっていて──)

(気が付けば、手の内に古めかしい硬貨が握られており) うん?? これが……ここの通貨か？ へえ、随分と親切なのだな、“お小遣い”をくれるなんて (にやりと皮肉げな笑みを浮かべ、いざ雑踏の中へ──)

確率は決して高くはない、が、この限られた“小遣い”が増えるならとても助かる、さあ、どう出る…… (そう言う彼は期待と興奮であからさまにソワソワしている)

……くっ、そんなことだろうと思ったさ!! これだから博打は嫌いなのだ!!! (ヤケになって声を荒らげる彼を見て、しかし屋台の男はにやにやと笑っている、「お兄さんみたいな奴ほど賭博にはまりやすい」と) うるさい!!!!!

……なあ、これをもう一回……え？ やめといた方がいい？ そ、そうか……