──『誰か』を探していた。
片手に持ったカンテラは確かに『誰か』を照らす為のものだったはず。
なのに“それ”が思い出せない。
誰を探していたのか、思い出せない。

「……その“誰か”は、本当に実在していたのかな？」

からん、と音を立てて灯火が揺れる。

……多分、これじゃない (古ぼけた写真を握り締める、くしゃりと音を立てて潰れたそれをカンテラの灯に焼べた)

……おなか、すいた…… (足取りが振らつく度に、からんからんと音を立てて影が揺れる) でも俺は『まだ人間』……ヒトを食べるには早すぎる……そうだよな？ (思わず灯火に語りかける、黄昏色の灯はゆらゆらと燃え続けていた)

いや！ 待って!! 俺は人間！ 俺は『人間』!!! (目に涙を浮かべながら必死に訴える、自警団の者達は顔を見合わせながら彼の身体を調べたが、確かに彼の身体は『人間』に違いない)

大丈夫?? 俺、死ななくていい?? そうだよな、うん、そうだよな……はぁー、良かったぁ……

……は、へ？ (思わず情けない声が口から出た。逃げなければ、と理解した瞬間走り出そうとする――が、足が滑って盛大に転けてしまう)

やばいヤバイヤバイﾔﾊﾞｲ――!! (慌てて四つん這いになり這って進むが振り切れる筈もなく。彼の身体は無残に切り裂かれた)

(見れば、手の中には小さな花束。それを握る鋭い『爪』を──傍らに置いたカンテラの灯火がゆらゆらと照らしている) ……あぁ、そっか、俺…… (形が変わっても器用なその手で茎を編み、小さな花冠を作る。少し考えたのち、それをカンテラの灯に投げ込んだ)

──やっぱ、やだな。『人間』じゃなくなっていくのは。

でっ……でかくて、ぶよぶよしてる!!! (蒟蒻のような何かの周りをウロウロと歩き回る、カンテラの灯で照らされるたびそれはもぞもぞと身じろいだ) 生きてる!! 喋る!! なんだこれ──

(──と、不用心に伸ばした手が、口らしき穴に吸い込まれた) あ、ヤベッ…… (彼が事態を理解した瞬間、それの口が大きく開き全身を飲み込まれた)

……なんだこれ。俺は宅配便か?? (よいしょ、と箱の中から出る。ふと頭に違和感を覚えて手で触れると、硬い『角』が左右対称の位置に生えているのに気付いた) あー、また……こういう……

あれは……月？ ってことは、あっちは夜なの?? (恐る恐る覗き込もうとするが、瞬間けたたましい叫び声が聞こえてビクリと身を震わせ後ずさる)

いやいやいやいや、どう考えても俺には無理でしょ!! ゴメン、見なかったことにする!! (逃げるようにその場を走り去った)

ひえっ!? な、なんだアレ!!? (見るからにヤバイ、と察知してすぐさま走り出す。入り組んだ路地に駆け込んで相手を撒こうとするが、それはありとあらゆる障害物を薙ぎ倒して迫ってくる) うそ、嘘だろ……!! 待って、待、

(直後、彼の目の前に瓦礫が降った。狭い道を塞がれ、逃げる先がなくなる) あぁ……やっぱ、こうなるんだ…… (諦めて目を閉じる。広がる暗闇に、ぐしゃり、と何かの潰れる音だけが残った)

(黒板にでかでかと書かれた文字をカンテラの灯で照らし) ……俺は、嘘なんてついてない。間違いない、だって俺は…… (スピーカーから響く音にノイズが混ざる。チャイムの音が歪み、そして──ブツリ、と途絶えた)

……?? (その場所だけ雰囲気の違う扉、先に何があるのかと確かめる為に扉に手をかけるが、押しても引いてもビクともしない)

うわぁ……こりゃ相当のパワーがないと破れないんじゃないか？ 少なくとも俺には無理だな (潔く諦めてその場を立ち去った)