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ウタカタ
学校、か (僅かに振動する弦から響く音を聞きながら、『竜尾』をぱしんと床に叩きつけた)
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ウタカタ
あの上履き……、今なら取れそうだ (先日の死因によるものか、彼の皮膚は岩のように硬くなっている、これなら火傷するという事も無いだろう)
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ウタカタ
(焼却炉の中に恐る恐ると手を伸ばし、上履きを掴み取った。半分ほど焼け焦げているが名前の一部が読み取れる)
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ウタカタ
サクラバ……桜庭？ これが、僕の名前？ (この町で目覚めた時から失っていた過去の記憶、その一部が今、目の前にある──)
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ウタカタ
いッ──!! また、こいつ、か!! (身体の節々に痛みを感じながらも、反射的に飛び起きて『鬼腕』を振り下ろす──)
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ウタカタ
全く……、こうも襲撃が多いんじゃ、落ち着いて探索していられないな (沈黙した竜の死骸を目の前に彼は溜息を吐いて、壊れたフェンスを乗り越えていった……)
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ウタカタ
……みっつ、ありますね (前髪を軽く掻き上げながら額の『三ツ目』で辺りを見渡す、蝸牛の示す先に廃れたビルがそびえ立っている)
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ウタカタ
なんだか怪しいな……、行ってみよう (彼は両掌を固く握ると意を決して廃ビルへ足を進めて行く──)
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ウタカタ
なんか……ちょっと嫌な感じだな (周囲からざわめくような視線を感じ取り、その身を震わせた)
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ウタカタ
うわっ、ぷ!! な、なにこ──れ、 (突如視界を塞がれた彼は、そこに広がる無数の目を視認して)
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ウタカタ
くそっ、このままやられてたまるか!! (彼は力一杯もがいて泥から両腕を引き抜くと、その無数の目を次々抉り取っていく──)
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ウタカタ
(泥を振り払おうと必死に暴れていると、ふと色の違う瞳を発見し、彼は遠のく意識の中、血塗れの手でそれを奪い取った──)
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ウタカタ
……、 (彼のうなじに複数の目が開く、しかしその視界でも何も捉えられなかった)
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ウタカタ
凄いな、この目は……まるで妖怪だ (全身に増えた『百目』は彼の周囲を余す所なく映している──)
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ウタカタ
……みすみす食べられるつもりは無い、かな (彼はそう答えると蒟蒻らしきものの体の端に齧り付いた)
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ウタカタ
(そして彼の腹部に大きな口が開くと、蒟蒻らしきものを次々と飲み込んでいった──)
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ウタカタ
う、わっ!? ちょ、待っ── (引き摺られている、と理解した次の瞬間には彼の身は池の中にあり、ごぼごぼと空気が漏れては銀色の光を揺らめかせた)
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ウタカタ
──、──ッ!! (彼は足に絡みついた鎖を解こうと必死にもがくが、不意の事で既に酸素の大半を失っており、また水中では思うように怪力が発揮できず)
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ウタカタ
──……、 (薄暗い水底で、意識が闇に飲まれていく──)
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ウタカタ
……、 (手の平を見る、ぎゅっと瞑った“目”の端が赤く腫れている) ……ちょっと痛いな
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ウタカタ
美味しそうな匂い……、 (くんくん、と鼻を鳴らしながら町を歩いて行く、彼の身体にある『百目』の一つがその正体を見つけた──)
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ウタカタ
これは……クッキー？ どうしてこんな所に？ (道端にぽつりと置かれた缶の中に“焼き立て”のクッキーが詰められている、彼はそれを訝しむが、しかし湧き出るような欲求に抗えず)
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ウタカタ
(その一つを口に運ぶ、決して特別でも風変わりでもないその焼き菓子の味に、安堵すら覚えて──)
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ウタカタ
懐かしいな、昔よく焼いた味だ、……“昔”?? (ふと口から零れた言葉、失っている筈の記憶に疑問符を浮かべ)
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ウタカタ
はぁ、今日は収穫なし、か…… (一日中歩き回った彼の身は、いつになく疲弊していて) ……疲れが溜まってるのかな、どこかで休まなきゃ……
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ウタカタ
(『百目』で辺りを注視しながら歩いて行くと、人家のない古びた倉庫を見つけて) ……うん、ここなら大丈夫そうだ
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ウタカタ
(扉に鍵をかけた彼は、それまで張り詰めていた警戒を解き、久しぶりの穏やかな休息の中へ──)
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