第3章
夢小説設定
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翌日。
昼前の廊下。
書類の束を片手に歩いていると、横合いからやけに軽い足取りが並んできた。
「ねぇ、リヴァイ。」
呼び捨て。振り向かなくても、誰だか分かる。
「用がねぇなら、どけ。」
「いやいや、用はあるよ。昨日のアレ。」
足を止めずに言う。
「……何の話だ。」
「訓練後のユニ。いや、君か。分かりやすかったね〜。」
……チッ。
視線を向けると、ハンジはいかにも面白いものを見つけた顔で笑っている。
「くだらねぇこと言ってんな。」
「くだらなくないでしょ。あんなに露骨に割って入るとは思わなかったなぁ。」
「用があっただけだ。」
即答。一切、間を置かない。
ハンジはそれを聞いても、引き下がらない。
「へぇ。"用"ねぇ。」
一歩、距離を詰めてくる。
「でもさ。ユニ、最近ちょっと──人気だよ?」
……分かっている。
言われるまでもない。
「真面目で、小さくて、気遣いできて。頼られたら断らない。しかも、あの『?』。」
わざとらしく、首を傾げる仕草をする。
「破壊力、あるよね。」
「……言いたい事があるなら、まとめて言え。」
「じゃあ、ストレートに聞くね。」
そう言ってから、ハンジはさらっと──
本当に、さらっと言った。
「ユニって、かわいいよね。」
「……は?」
口から出た声が、思ったより低くて、思ったより素だった。
ハンジが一瞬だけ目を瞬かせてから──
次の瞬間、腹を抱えた。
「っ、はは……!今の、今の顔!!」
「……何がおかしい。」
「いやぁ……自覚ゼロだと思ってたけど。」
笑いを噛み殺しながら、ハンジは言う。
「今の返事。"否定"じゃなかったよ。」
……。
「普通ならさ、『任務に関係ねぇ』とか、『そういう話をするな』とか、そう言うでしょ?」
足が止まりそうになるのを、堪える。
「でも君──」
ハンジは楽しそうに、確信を込めて言った。
「『は?』って言った。」
「……。」
「それ、"意外だった"時の反応だよ。」
……くそ。
「リヴァイ。」
名前を呼ばれて、視線を向ける。
「自覚ないでしょ。」
「何のだ。」
「自分が、どんな顔してるか。」
……。
返事をしない俺を見て、ハンジは満足そうに笑った。
俺はそれ以上返さずに、歩き出す。
背後で、ハンジの声が追ってくる。
「自爆、見事だったよ〜、リヴァイ。」
「……うるせぇ。」
……自爆?
そんなつもりは、欠片もねぇ。ただ──
あいつを"かわいい"という言葉で片付けられるのが、気に入らなかっただけだ。
それだけだ。
……多分。
◇
訓練場の端。
俺は次の部隊編成の確認をしながら、何度目か分からない視線移動をしていた。
……またか。
数人の兵士に囲まれている、ユニ。
前と同じ。いや、前より自然だ。
誰かが話しかけ、ユニが足を止め、少しだけ首を傾げる。
「……それは、こうですか?」
控えめな声。相手の顔を、真っ直ぐ見る視線。距離が近い。
──チッ。
理由は分かってる。分かってるから、余計に腹が立つ。
あいつは、誰に対しても同じだ。
丁寧で真面目で、必要以上に壁を作らない。だから──向こうが勝手に勘違いする。
「ユニ、今ちょっといいか?」
……声色が違う。
さりげないふりをした、"特別扱い"の声だ。
それを聞いた瞬間、俺の中で何かが引っかかった。
胸の奥に、小さく、鈍い違和感。
……なんだ、今のは。
視線を逸らそうとして、できなかった。
「?」
ユニが、こちらを見た。首を傾げて、俺を探すみたいに。
──見つかった。
次の瞬間。
「リヴァイ兵士長?」
そう言って、囲まれていた輪から自然に抜ける。こっちへ──駆けてくる。
……おい。
俺は、自分が一歩、前に出ている事に気づいた。無意識だ。
「どうしました?」
少し息を弾ませて見上げてくる。
近い。
さっきまでの苛立ちが、嘘みたいに霧散する。
……悪くねぇ。むしろ──
「……別に、用はねぇ。」
口から出たのは、いつも通りの言葉。
ユニは一瞬だけ目を瞬かせてから、「そうですか」と、素直に頷いた。
それだけで、妙に胸の奥が落ち着く。
さっきまで、あれほど気に障っていたはずなのに。
……おかしい。確実に、おかしい。
ユニは俺の様子を気にしたのか、少しだけ眉を寄せる。
「……何か、ありましたか?」
まただ。その顔。
心配しているくせに、距離を詰めすぎない。
──守りたくなる。
……違う。
俺は、自分の思考を切り捨てる。
「訓練後だ。さっさと休め。」
「はい。」
それだけで、納得して下がる。
俺の後ろを、ちょこちょことついてくる足音。
……昨日と、同じ構図。
なのにさっきまでの苛立ちが、影も形もない。
代わりに残っているのは──厄介な自覚だ。
あいつが、誰かに囲まれているのは気に食わねぇ。
だがあいつが俺を見つけて、迷いなくこっちへ来るのは──
……悪くない。
むしろ、それを"悪くない"と思った時点で──
「……チッ。」
俺は、誰にも聞こえない声で、舌打ちした。
まずい。これは、かなり──まずい段階だ。
完全に、踏み込んでる。
自覚した瞬間逃げ場がなくなる事くらい、嫌ってほど知っているのに。
それでも、背後でユニの足音が、一定の距離を保って続いている。
……やっぱり。悪くねぇ。
最悪だ。