第2章
夢小説設定
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医療班が、門の内側で動き始める。
担架が並べられ、包帯が配られ、水と消毒液の匂いが、空気に混じる。
私は壁から下り、その流れに沿って歩き出した。
足取りは、もう軽くない。地面の感触が、少し遅れて伝わる。喉が、焼けるみたいに乾いていた。
差し出された水筒を受け取り、礼も言わずに口を付ける。冷たい水が、喉を落ちていく。
……生き返る、とは言えない。
けれど、倒れずに済む程度には。
ピクシス司令が、私の歩調に合わせて並ぶ。
その視線が、ちらりとこちらを見る。
「……無理はするな。」
低い声。
私は、小さく首を振った。
「このような状態での報告になり、申し訳ありません。」
先に、そう言った。
言い訳でも、予防線でもない。事実として。
「ですが──今、話します。」
水筒を下ろし、一度、息を整える。
視線を前に向けたまま、言葉を繋ぐ。
「壁外調査中──巨人の挙動に、明確な違和感がありました。」
歩きながら。医療班の動線を避けながら。
「個体ごとの反応速度に、ばらつきがありすぎる。通常ならこちらを優先して追う距離でも、反応しない個体が多数いました。」
一歩。また一歩。
「進路も、直線的ではありません。無秩序というより──散らされている印象です。」
頭が、少し重くなる。視界の端が、白く滲む。それでも、止めない。
「数を減らす事より、時間を稼ぐ動きに近い。……意図的に。」
一拍。
「確証はありません。ですが、偶然とは言い切れない違和感です。」
水を、もう一口。手が、少し震えた。
「壁内で起きている変化が外に影響している可能性を、団長は疑っています。」
エルヴィン団長の言葉を、正確に。
「門を塞いでも、根本的な解決にはならない、と。」
言い切った瞬間──頭の奥で何かが、すとんと落ちた。
思考が、遅れる。足は動いているのに、感覚が少しだけ遠い。
……まずい。
私は無意識に、水筒を握り直した。
ピクシス司令が、歩みを緩める。
「……もう十分じゃ。」
静かな声。
私は、反射的に首を振る。
「いいえ……必要な事は、全て──」
そこで、言葉が途切れた。
頭が、重い。まぶたの裏に、暗闇が滲む。
身体が、休めと命令してくる。
「……報告は、以上です。」
やっと、それだけ言う。
声は自分でも分かるくらい、低く、掠れていた。
ピクシス司令は私を見下ろし──
そして、ゆっくりと頷いた。
「確かに、受け取った。」
短く。だが、重い。
「医療班の安全は、こちらで確保する。お主は──」
一瞬、言葉を切る。
「もう、休め。」
私は反論しようとして──できなかった。
頭が、がくりと揺れる。
視界が、また遠くなる。
……限界だ。
それでも、最後に一つだけ。
「……ありがとうございます。」
かろうじて、そう言った。
それが聞こえたかどうかは、分からない。
ただ。
次に瞬きをしたとき、世界が少しだけ──柔らかくなっていた。