第2章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は地面に置いていた手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
まだ足の奥に、重さが残っている。
けれど、さっきみたいに揺れる感じはない。
──動ける。
装備を確かめ視線を上げると、少し先で、エルヴィン団長がこちらを待っていた。
「歩けるか。」
問いかけは短い。だが、確認する目だ。
「はい。」
即答する。少し声が掠れたが、問題ない。
「なら、歩きながら聞いてくれ。」
そう言って、エルヴィン団長は歩き出す。私は半歩後ろに位置を取り、並ぶ。
壁の上。忙しなく動く兵士達。
叫び声、指示、立体機動の音。
それらを背に受けながら、エルヴィン団長は淡々と状況を整理していく。
「負傷者は、優先して後送した。自力移動が可能な者と馬も含めて──すでに、カラネス区外郭へ向かわせている。」
……やっぱり。
胸の奥で、静かに納得する。
「ここで消耗する理由はない。戦力と情報は、残す。」
合理的。けれど、冷たくは聞こえない。
「シガンシナ区内の状況は、リヴァイが引き続き抑えている。完全な制圧は不可能だが、
"広がらせない"事はできる。」
歩調は、一定。迷いのない足取り。
「君の伝達で、選択肢は繋がった。」
視線だけが、こちらを向く。
「駐屯兵団との連携は、この局面では不可欠だ。よく判断した。」
労い。だがそれ以上に──評価だ。
私は前を向いたまま、頷く。
「次の指示だが──」
エルヴィン団長は、視線を再び前へ戻す。
「君はこの後──外郭へ向かう部隊と合流しろ。直接の戦闘任務は、当面外す。」
一瞬、意識が引っかかる。だが、理由は分かる。
「情報の橋渡し役として、君の立場が一番、都合がいい。」
一歩、間を置いて。
それと──壁外調査中に、君が見た異常。違和感でも、推測でも構わない。すべて、そのままピクシス司令に伝えてくれ。」
視線は前を向いたまま。
「今回の事象は、壁内だけで完結しているとは思えない。外で起きた変化が、内に影響している可能性がある。」
淡々とした声。だが含んでいるのは──警戒だ。
「君の視点は、貴重だ。加工せず、判断も加えず、"見たまま"を渡してほしい。」
それは、命令。
同時に、信頼の置き方でもあった。
「無理をする必要はない。今日の役目は、十分すぎるほど果たした。」
その一言は命令というより──配慮だった。
私は少しだけ息を整え、はっきり答える。
「……了解しました。」
エルヴィン団長は、満足そうに頷く。
「今は、持ち場を守る。戦いは、まだ続く。」
歩きながら、壁内の喧騒がさらに近づいてくる。
疲労は、確かにある。けれど──
立ち止まっている暇はない。
私は前を見据え、次の役目へ向けて、足を運んだ。
この混乱の中で自分にできることを──ひとつずつ、確実に。
◇
外へ出ると、空気が変わった。
広い。遮るものがない。
その分音も、振動も、全部が直接、身体に伝わってくる。
先行していた兵達の背が見える。
私は馬を近づけながら声を張った。
「調査兵団より、合流します。ユニ・クラインです。」
数人が振り返り、状況を一瞬で理解したように頷く。
「了解。」
「このまま、カラネス区外郭へ向かう。」
余計なやり取りはない。
私は馬の横腹を軽く蹴り、隊列の後方に収まった。
──ここからは、移動だけだ。
そう思った、次の瞬間。
身体の力が、フッと抜けた。
馬の揺れが、規則正しく続く。
上下。前後。一定のリズム。
……まずい。
そう思った時には、もう意識が沈み始めていた。
視界が、狭まる。音が、遠くなる。手綱を握る指に、余計な力が入る。
落ちるな。今、落ちたら──
分かっているのに、まぶたが重い。
そのとき。
視界の端に、輪郭が差し込んだ。
城壁。
そして──区の建物。
カラネス区外郭。
「……っ。」
息を吸った瞬間、意識が一気に浮上する。
私は、はっとして顔を上げた。
心臓が、強く打つ。
……今のは。
寝た?いや、落ちかけた?
背中に、冷たいものが走る。
私は無意識に姿勢を正し、手綱を握り直した。
「大丈夫か。」
前を走っていた兵が、ちらりとこちらを見る。
「……はい。問題ありません。」
即答。
声は、思ったよりもはっきり出た。
だが──ほんの少し前屈みになれば、落ちていたかもしれない。
そう思うと、自分でも苦笑いが浮かびそうになる。
──本当に、限界なんだな。
それでも、城壁は確実に近づいている。
もう少し。本当に、もう少しだけ。
私は歯を食いしばり、視線を前に固定した。
落ちるわけにはいかない。
まだ──役目は、終わっていない。