第2章
夢小説設定
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ユニの背が、陣形の中に溶けていく。
速度を上げすぎない。目立たない。それでいて、確実に前へ。
──判断としては、最短だ。
俺は前を向いたまま、視界の端で、陣形の流れを追う。
崩れていない。間隔も、速度も、維持されている。
いい。
余計な動きは、ない。
だが──空を見る。
赤。散発的。
さっきから、変わらない。いや、正確には──変わらなさすぎる。
巨人は、まだいる。だが、圧がない。
"来ない"んじゃない。"向いていない"。
その違和感が、じわじわと形を持ち始めている。
俺は、視線を中央の奥へ走らせる。
エルヴィン。二列目。
馬上の姿勢は、いつも通りだ。
だが、首の角度。視線の置きどころ。
──考えている。
ユニが辿り着くまで、ほんの数拍。
その間にも、空に上がる赤は増えない。黒も、来ない。
……静かすぎる。
そのときだ。
エルヴィンの腕が、動いた。迷いはない。
空へ──緑。
一本、真っ直ぐに伸びる煙。
進路指示。
全体を僅かに──だが、確実にずらす合図。
「……来たか。」
俺は、低く呟く。
遅くない。むしろ、早い。
ユニが辿り着く前に、もう材料は揃っていたんだろう。
緑を合図に、陣形が静かに応じる。
誰も声を上げない。誰も、疑問を口にしない。
それでいい。
この状況で必要なのは、説明じゃねぇ。
"動き"だ。
俺は手綱を締め直し、前方へ声を飛ばす。
「進路、団長指示に合わせろ。速度は、維持!」
馬の向きが、揃う。地面の感触が、また変わる。
──やっぱりだ。
巨人は、南から来る。それが前提だ。なのに今、
連中は北を向いている。
そして俺達は、それを横から見る形になった。
エルヴィンの緑は、"避け"じゃない。
"見る"ための変更だ。
観測する位置を取りにいった。
……性格が悪い。
だが、エルヴィンらしい。
俺は空から視線を戻し、前を見据える。
まだ、何も起きていない。
だが──何も起きていない時間ほど、信用ならないものはない。
ユニが、何を伝えたか。エルヴィンが、何を確信したか。
それはまだ分からない。
だが緑が上がった以上、もう偶然じゃねぇ。
この動き。この静けさ。
全部、"見られている"側の気配だ。
「……面倒な調査になりそうだ。」
誰に向けるでもなくそう呟いて、俺は、さらに前へ出た。
判断は出た。
あとは──いつ、牙が剥かれるか。
それだけだ。
ユニが、戻ってきた。
陣形の内側を抜け、速度を殺さず、俺の位置へ。
無駄がない。報告役を終えた兵士の動きだ。
「伝えました。」
短く。それで十分だ。
「……あぁ。」
それ以上、言う必要はない。
俺は前を向いたまま、空を見る。
──その瞬間だ。
黒。
一本。鋭く。
さっきより、さらに近い。
位置は──進路変更後の、やや前方。
「……来やがったか。」
奇行種。
だが、一体じゃない。
同じ方向。同じ間合い。
まるでこちらの"動き"をなぞるみたいに。
偶然じゃねぇ。
俺はユニの位置を、視界の端で確認する。
いる。問題ない距離。
小柄だが、間合いは保っている。
──使える。
判断は、即だ。
「黒、確認。進路、このまま。」
声は張らない。だが、通る。
「前列、間合いを広げろ。ユニ、俺の右。」
名指し。
理由は言わない。言う必要もない。
ユニは一瞬だけ目を上げ、すぐに位置を修正した。
……いい反応だ。
黒は、増えない。だが、消えもしない。
追っている。明らかに。
巨人は本来、最も近い人間を追う。
なのに今は、"一番近い壁"を目指している。
そして、俺達の動きに引っ張られている。
──確信に、近い。
俺は、空を睨む。
次に上がる色を待つ必要はない。
もう、十分だ。
これは、ただの索敵じゃねぇ。
調査兵団が"見る側"でいられる時間は──
もう、そう長くない。
俺は刃の柄に指をかけ、前を見据えた。
次に動くのは向こうか。それとも──俺達か。
────────────────
ユニが元の位置へ戻っていくのを、視界の端で確認する。
速すぎない。乱れもない。命令通りだ。
彼女が伝えた内容は、すでに私の中で像を結び始めている。
巨人の数が、少ない。密度がない。向きが、揃っている。
北。壁のある方角。
──違和感としては、十分すぎる。
だが、決め手にはならない。
馬上から、視線を走らせる。
赤の位置。散発的。距離は、遠いまま。
黒は、上がらない。
奇行種が混じっていれば、もっと陣形に圧がかかる。
追われている感覚が、ない。
つまり巨人は、我々を"獲物"として見ていない。
それでも──完全に無視しているわけでもない。
進路を変えれば、僅かにそちらへ流れる。
速度を上げれば、距離が詰まる。
人間を追ってはいない。
だが人間の動きに、反応はしている。
……歪だ。
本来、巨人は単純だ。最も近い人間を追う。
それが原則。
なのに今、彼らは"近さ"を基準にしていない。
代わりに一定の方向──北へ、向かっている。
壁。
私は無意識に、唇を引き結ぶ。
壁の向こうに、"何か"がある。そう考えた方が、すべて辻褄が合う。
壁外で起きている異常ではない。これは──壁内の変化が、外に影響している。
調査兵団は偶然、その途中にいるだけだ。
だから、数が少ない。だから、密度がない。だから、こちらを主目標にしない。
……そして。
このまま南下を続ければ、私達は意味を失う。情報を得る前に、状況が変わってしまう。
静かに息を吐く。
ここだ。
これ以上進んでも、得られるものは少ない。
それどころか"帰るべき理由"を見逃す。
判断は、もう揃っている。
経験。視覚情報。兵士の報告。
特に──ユニの言葉。
彼女は、推測を言わなかった。事実だけを切り取ってきた。
それが今の状況に、正確に重なっている。
信煙弾の筒に手をかける。
躊躇はない。
この調査の目的は、"壁の外を知る"事だ。
だが今"壁の内で起きている事"の方が、遥かに重い。
空へ──紫。
緊急事態。
帰還を、急ぐ合図。
煙が、真っ直ぐに立ち上る。
陣形が、即座に反応するのが分かる。
いい。迷いはない。
前を見据えたまま、静かに結論を胸の中でなぞる。
──壁内で、何かが起きている。
それを確かめに戻る。
それが今の調査兵団にできる、最善だ。