第2章
夢小説設定
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翌朝。
野営地を発ってから、どれくらい経っただろうか。
空は高く、雲は薄い。視界は、悪くない。
長距離索敵陣形は、昨日と同じ配置で維持されている。
私は、前方寄りの位置。リヴァイ兵士長の、少し後ろ。
馬の揺れに身を合わせながら、頭の中で、前回の壁外調査をなぞる。
前回は──もっと数がいた。
遠くの地平線に点が見えて、信煙弾が上がって、それが当たり前だと思っていた。
けれど、今日は違う。
いない。正確には、少なすぎる。
視線を走らせる。
右。左。前方。
──静かだ。不自然なほど。
私は無意識に、手綱を握り直した。
巨人がいない事自体は、異常じゃない。索敵陣形が機能している証でもある。
……それでも。
胸の奥に、薄い膜のような違和感が張り付いている。
そのとき。
前方の兵士が、わずかに身を乗り出した。
次の瞬間、空に信煙弾が上がる。
赤。
遠い。かなり、遠い。
私は、そちらを見る。
通常種。数は──少ない。
……やっぱり。
そう思った、直後。
別の方向で、ほぼ同時に、赤。
さらに──また、赤。
どれも散発的。密度がない。巨人がばらけている。
それだけじゃない。
位置が──おかしい。
私は、気づいてしまった。
向きが、揃っている。
北。
──壁のある方角。
喉が、ひくりと鳴る。
気のせいじゃない。一体や二体じゃない。
複数の影が、同じ方向へ、揃って動いている。
……前回は、こんな動きじゃなかった。
胸の奥が、じわりと冷える。
奇行種……?
そう思いかけて、否定する。
数が多すぎる。動きも、揃いすぎている。
奇行種はもっと──ばらばらで厄介で、読めない。
これは、違う。
なのに巨人達は迷いなく、北を目指している。壁のある方角。
理由があるみたいに。引き寄せられているみたいに。
私は、唇を噛む。
分からない。でも──分からないままなのが、一番、嫌な感じだ。
私は、視線を前へ戻す。
リヴァイ兵士長の背中。
変わらない速度。変わらない姿勢。
けれど──きっと、もう見えている。
私に見えたなら、あの人に見えないはずがない。
一瞬、ためらう。
新兵だ。しかも、二回目。
前回の壁外調査で見た光景が、基準になっているだけかもしれない。
……でも。
私は手綱を寄せ、馬を半歩、前に出した。
「リヴァイ兵士長。」
声が、思ったより低く出る。
風に紛れない距離。
「前方と左右で、赤が上がっています。ですが──」
言葉を選ぶ。事実だけを、切り取る。
「巨人の数が、少なすぎます。散発的で、密度がありません。」
リヴァイ兵士長は、すぐには振り向かない。
前を見たまま、ほんの僅かに首を傾けただけだ。
「……続けろ。」
短い。促しだけ。
私は、息を吸う。
「向きが、揃っています。全体が──北を、向いている。」
一拍。
「奇行種の可能性も考えましたが……数が多すぎて、動きが揃いすぎています。」
自分の声が、少しだけ硬いのが分かる。
それでも、止めない。
「前回は、こんな動きじゃありませんでした。」
リヴァイ兵士長の馬が、僅かに速度を落とす。
それに合わせて、周囲の間隔も、自然に調整される。
さすがだ、と場違いな感想が浮かぶ。
やがてリヴァイ兵士長は、ようやくこちらを見た。
視線は、鋭い。だが、切り捨てるようなものじゃない。
むしろ──もう、同じ事を考えていた目だ。
「……気づいたか。」
低く、短く。
「俺もだ。」
それだけで、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「通常種にしちゃ、妙だ。奇行種って数でもねぇ。」
視線が、前方へ戻る。
「だが──」
一瞬の間。
「"理由が分からない"動きほど、厄介なもんはねぇ。」
言い切り。
私は、黙って頷く。
リヴァイ兵士長は前を向いたまま、ほんの一瞬だけ思考を切り替えたように見えた。
速度。距離。配置。
視線は陣形の中央、そのさらに奥──エルヴィン団長の位置を正確に捉えている。
「……よし。」
低く、短い声。
次の瞬間、こちらを見ずに言った。
「今話した事、そのままエルヴィンに伝えろ。──行け。」
即断。迷いはない。それだけで、十分だった。
「了解。」
私は手綱を強く引き、馬の向きを僅かに変える。
中央。二列目。
──距離はある。だが、走れる。
馬腹を軽く蹴る。
速度を上げすぎない。目立たない。それでも、確実に。陣形の"中"を抜ける。
周囲の兵士が、一瞬だけ視線を寄こす。だが、誰も声を出さない。
命令の匂いを、察している。
風が強くなる。背後で、リヴァイ兵士長の声が飛ぶ。
「間隔、維持。余計な動きはするな。」
陣形は、崩れない。私は、前だけを見る。
──伝えるべき事は、単純だ。
巨人の数が、少ない事。密度がない事。向きが揃っている事。北を目指している事。
推測はいらない。判断もいらない。事実だけ。
それを、あの人に渡す。
やがて、金色の髪が視界に入る。
エルヴィン・スミス団長。
馬上の姿勢は変わらない。
だが──こちらを見た、その瞬間。
もう、分かっている目だった。
私は馬を寄せ、距離を詰める。
息を整える暇はない。
「エルヴィン団長。」
声は、はっきりと。
「前方・左右で赤が上がっていますが、巨人の数が少なすぎます。散発的で、密度がありません。」
エルヴィン団長は、頷かない。否定もしない。ただ、聞く。
「全体の向きが、北に揃っています。」
一拍。
「奇行種の可能性も考えましたが……数が多く、動きが揃いすぎています。」
私は、言い切った。
「前回の壁外調査とは、明らかに違います。」
沈黙。
だが、それは"考えていない"間じゃない。
エルヴィンの視線が陣形の先──さらに、その向こうを見る。
「……分かった。」
静かな声。
「よく気づいた。」
それだけ。
次の瞬間、彼の手が、信煙弾の筒にかかる。
私は、息を詰める。
──判断は、もう下される。
伝える役目は果たした。
あとはこの異常が──何を意味するのか。
それを知るのは、もう少し先だ。