第2章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
野営地点に指定された森へ到達した頃には、日が傾き始めていた。
陣形を解き、各班が定められた位置で停止する。
馬から降りる音。装備を外す気配。水筒の蓋が開く、乾いた音。
どれも、いつも通りだ。
──だが。
俺は馬の首を撫でながら、周囲を一度、見回した。
静かすぎる。
巨人が出ない事自体は、異常じゃない。だが、「出ない理由」が見えない。
だからこそ、気に食わねぇ。
「リヴァイ。」
声をかけてきたのは、ナナバだ。近くには、ミケ、ゲルガー、他にも分隊長以上が集まってきている。
エルヴィンは少し離れた場所で、地図を広げていた。
「巨人の出現数、少なすぎないか。」
「……あぁ。」
短く返す。
「索敵範囲は予定通り。なのに黒も赤も、少なすぎる。」
ミケが、鼻を鳴らした。
「風向きは悪くない。匂いも、流れているはずだ。」
ナナバが、腕を組む。
「進路変更後も、追撃はなかった。奇行種も、あの一体だけ。」
……揃いすぎだ。偶然にしては。
俺は、視線をエルヴィンへ向ける。
「どう見る。」
エルヴィンは、すぐには答えなかった。
地図の上に指を置き、進路をなぞる。
それから、顔を上げた。
「違和感は、私も感じている。だが──現時点では、決定的な異常はない。」
誰も、口を挟まない。
「引き返す理由もない。進路を変える理由も、まだない。」
……"まだ"、か。
「今夜は、このまま野営。警戒を強め、明朝、再開する。」
様子見。作戦続行。
エルヴィンらしい判断だ。
俺は、それ以上言わなかった。ここで強く出る理由は、確かにない。
「警戒は二重にする。配置は、俺が決める。」
「頼む。」
短いやり取りで、会話は終わった。
幹部達が散っていく中、俺は、森の奥へ一度だけ視線を投げる。
木々の影。風の揺れ。何も、いない。
──何も、いないのに。
胸の奥で小さく、嫌な感覚が引っかかる。
説明できるほどの材料はない。
だが戦場で一番信用できるのは、こういう感覚だ。
俺は刃の位置を確認し、ユニのいる方向を、無意識に確かめる。
位置は、問題ない。……今は。
「……面倒な夜になりそうだな。」
誰にも聞かせずそう呟いて、野営の準備に戻った。
森は、静かだ。静かすぎるほどに。
その沈黙が、何かを溜め込んでいるように思えてならなかった。
焚き火の前に、ユニがいた。
火を見る姿勢が、妙に静かだ。警戒を解いているわけでもなく、かといって張り詰めてもいない。ただ、炎の揺れを目で追っている。
俺は、横から覗き込む。
「……起きてます。」
気配で分かったらしい。
振り向かずに、そう言った。
「そうか。」
短く返し、隣に立つ。
火の向こうでは、交代の準備をする兵士達が動いている。
野営は滞りなく進んでいる。問題は、今のところない。
「明日の配置だが、」
焚き火から目を離さずに告げる。
「お前は、今日と同じ位置だ。少しだけ、左右の間隔を詰める。」
ユニは頷く。理由を聞く顔じゃない。
……いや。
「今回の壁外調査……異常、なんですか?」
静かな声だった。探るでも、責めるでもない。ただの確認だ。
俺は、少しだけ間を置く。
「異常という程じゃないが……確かに、いつもより巨人の数は少ないな。」
事実だけを、並べる。
「だが、それだけだ。作戦は続行すると、エルヴィンが判断した。」
焚き火が、ぱちりと音を立てる。
ユニはそれ以上、何も言わなかった。納得したわけじゃないだろう。だが、判断は受け取った。
──それでいい。
「休める時に、休め。夜明け前に動く。」
そう言って、立ち上がる。
背後で、ユニが小さく息を吐く気配がした。
不安か、緊張か。どちらでもいい。
戦場じゃ、全部まとめて背負う。
俺は視線を夜の向こうへ向ける。
焚き火の輪の外。暗闇は、静かだ。静かすぎる。
だが──まだだ。
今は、何も起きていない。
だから、進む。