第2章
夢小説設定
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……速い。
思わず、声が零れた。
視界の端でリヴァイ兵士長の姿が──一気に前へ出る。
合図もない。減速も、躊躇も。馬上から、そのまま。ワイヤーが走り、身体が宙に浮く。次の瞬間にはもう、位置が違う。
奇行種の動きに、一切付き合っていない。
読んでいる、というより、"決め打ち"だ。
巨体が振り向くより先に、刃が閃く。
──近い。
そう思った時には、もう終わっていた。
首。一太刀。
音もなく、巨人が崩れる。土煙が上がる。地面が、揺れる。
それでも、リヴァイ兵士長は止まらない。
振り返りもしない。確認もしない。
倒した事実に一切の重みを置かず、そのまま陣形へ戻る。
──速い。
二度目は、今度こそ胸の内で。
速さだけじゃない。判断も、迷いも。
全部が"前提"になっている。こうなると分かっていたように。
いや──こうなっても、問題ないように。
私は無意識に、手綱を握り直していた。
さっきまで感じていた張り詰めた空気が、ほんの少しだけ変わる。
安心じゃない。信頼、だ。
前にいる人が、前で片付けてくれる。
だから後ろは、迷わず進める。
……なるほど。
これが、リヴァイ兵士長の背中。
私は視線を前に戻し、馬の速度を一定に保つ。
考えすぎるな。感じすぎるな。
今は、陣形の一部でいればいい。
蹄の音が、揃う。風が、頬を打つ。
壁の外は、まだ続いている。
──生きて、ついていく。
それだけを静かに、意識した。
やがて馬を止める合図が出て、陣形が、ゆっくりと解かれる。
完全な停止じゃない。"休憩"というより、呼吸を整えるための、短い間。
私は、リヴァイ兵士長の少し後ろで馬を降りた。
地面に足をつけた瞬間、張り詰めていた感覚が一段階だけ緩む。
手綱をまとめ、刃の位置を確認する。
異常なし。
周囲では、兵士達が最低限の動きだけを繰り返している。
水筒を口に運ぶ者。馬の首を撫でる者。視線だけは、決して遠くから離さない。
──静かだ。静かすぎる。
そのとき少し離れた場所で、低い声が交わるのが聞こえた。
「……さっきの奇行種……動き、妙じゃなかったか。」
上官の声。抑えた調子。
私は、無意識に耳を澄ませる。
「進路を変えたのを追ってきた。偶然にしちゃ、執着が強い。」
「他にも、通常種の動きが鈍い。散らばり方が、いつもと違う気がする。」
気のせいだ、と言い切らない。だが、断定もしない。
──"違和感"。
それだけが、共有されている。
私は水筒の口に指をかけたまま、動きを止めた。
いつもと違う。
その言葉が、胸の奥に引っかかる。
壁外調査では、巨人の動きが違うこと自体は珍しくない。
天候。地形。時間帯。
理由はいくらでも考えられる。
それでも、さっきの奇行種の動きが、脳裏をよぎる。
進路変更。距離。速度。
──確かに、"見ていた"。
私は、そっと視線を前へ向ける。
リヴァイ兵士長は、休憩中でも姿勢を崩していない。
刃に触れているわけでもなく、周囲を睨んでいるわけでもない。
ただすべてが視界に入っている、立ち方。
あの背中は、さっきと同じだ。変わらない。
だからこそ、余計な事は考えない。
私は水を一口飲み、呼吸を整える。
今は、休憩だ。
判断は、上官達がする。
兵士の役目は、次の合図に即座に応える事。
そう自分に言い聞かせて、視線を前に戻した。
「……行くぞ。」
低く、短い声。それだけで十分だった。
兵士達が、一斉に立ち上がる。馬に手をかけ、再び鞍へ戻る。
休憩は終わりだ。
私は立ち上がりながら、もう一度だけ周囲を見る。
空は、変わらない。地平も、変わらない。
けれど、何かが少しずつ、噛み合わなくなっている。
その感覚を飲み込み、私は手綱を握り直した。馬に跨り、手綱を整える。
休憩が終わった空気が、隊列を満たしていく。
誰も口にはしないが、再出発前特有の、張り詰めた静けさ。
私は鞍の感触を確かめながら、さっき耳に入った会話を無意識に反芻していた。
──巨人の動きが、いつもと違う。
断定じゃない。ただの感覚。けれど上官達の声には、微かな引っかかりがあった。
そのとき──前方で、リヴァイ兵士長が馬上から視線を走らせた。
隊列。距離。位置。
ひとつずつ、測るように。
「……配置を変える。」
低い声。だが、周囲の空気が即座に反応する。
「第三列、右を半歩下げろ。第二列、左は詰めすぎるな。」
指示は細かい。だが、理由は言わない。それでも誰一人、疑問を挟まない。
私の方にも、視線が飛んでくる。
「ユニ。」
名を呼ばれ、背筋が自然と伸びる。
「そのまま、少し前。間合いは俺が見る。」
──前。
一瞬、周囲の視線を感じた。
だがそれ以上に──納得してしまった自分に、気づく。
「……はい。」
短く返し、馬を進める。
配置が、微かに変わる。大きくは動かない。だが、確実に。
まるで"何か"が来る位置を、避けるように。
あるいは──迎えに行くように。
リヴァイ兵士長はそれ以上何も言わず、再び前を向いた。
「再出発する。」
それだけ。号令はない。だが、十分だった。
馬が動き出す。蹄の音が、再び揃う。
私は手綱を握り直し、前方の背中を見る。
理由は、分からない。でもこの人が位置を変えるときはいつも──
"後から答えが追いついてくる"。
風が、少し強くなった。
再出発。
違和感は、まだ形にならないまま。
けれど確かに、この列のどこかに──"警戒"だけが先に置かれていた。