第2章
夢小説設定
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次の壁外調査の編成案を、俺は無言で眺めていた。
紙の上に並ぶ名前。配置。距離。
前回より、半歩——いや、確実に前だ。
俺は、無言で視線を上げる。
向かいに座っているのは、エルヴィンだ。
いつも通りの顔。いつも通りの姿勢。
「次の壁外調査の事だが。」
淡々と、切り出してくる。
「前回より、少し配置を変える。君とユニを——前へ出す。」
確認だ。相談じゃない。
俺は、鼻で息を吐いた。
「能力的には、問題ない。むしろ、後ろに置く方が無駄だ。」
即答。
視線を戻し、書類に指を置く。
「この位置だと、“偶然”とは言えない位置になる。」
エルヴィンは否定しない。むしろ、そのまま頷いた。
「今回の配置……中央は、嫌がるだろう。」
「知るか。」
短く返す。
中央がどう思おうと、関係ねぇ。
現場で死ぬか生きるかを決めるのは、あいつらじゃない。
エルヴィンは、少しだけ間を置いてから言った。
「保留のまま、動かない判断。なら、こちらから"判断せざるを得ない材料"を出す。」
視線が、俺に向く。
「保留のままで済む配置じゃない。そう思ってな。」
俺は、口角を上げもしない。
「中央を、突いたな。」
「偶然を装う程度には。」
「……随分、性格が悪い。」
エルヴィンは、肩をすくめた。
「褒め言葉として、受け取っておこう。」
……全く。
だが、悪くない。
ユニを前に出す。俺の視界に入る位置。戦場で、"使う"位置だ。
結果が出れば、中央は黙れなくなる。
出なくても——それでも、判断を迫られる。
どちらに転んでも、現場の選択は間違っていない。
「問題が起きりゃ、俺が処理する。」
いつもの台詞を、低く吐く。
エルヴィンは、静かに頷いた。
「頼もしいな。」
……言われなくても、やる。
俺は書類から目を離し、ふと、別のことを考える。
あの小さい背中。前に出されても、何も言わないだろう。
疑問も、期待も、飲み込んで、"兵士"として立つ。
だからこそ——前に置く。
「配置は、このままでいい。」
そう言って、椅子を引いた。
中央がどう動くかは知らねぇ。
だがもう——逃げ場はない。
あとは壁の外で、答えを叩きつけるだけだ。
訓練場の隅で、ユニは装置の点検をしていた。
他の兵と変わらない動き。視線も、姿勢も、無駄がない。
——昨日までと、同じだ。
俺はその背中を一瞬だけ見てから、歩み寄る。
「ユニ。」
名を呼ぶと、即座に顔が上がる。
「はい。」
無駄のない返事。声に、揺れはない。
「次の壁外調査だが。」
本題から入る。余計な前置きはしない。
「配置が変わる。」
それだけで、周囲の空気が僅かに動いたのが分かる。
耳が、集まる。視線が、寄る。
——気にするな。
俺は、続ける。
「前回より、前に出る。俺の、少し後ろだ。」
理由は言わない。説明もしない。事実だけを落とす。
ユニは一拍置いてから、短く答えた。
「……了解しました。」
疑問はない。動揺もない。ただ受け取る。
それが出来る兵士だと分かっているから、俺はこの位置を選んだ。
「今回は、巨人の間合いに踏み込む。無理はするな。だが、遠慮もいらねぇ。」
言葉は最低限。
「俺の視界から、出るな。」
命令だ。同時に、約束でもある。
ユニは、小さく頷く。
「はい。」
それだけ。
周囲のざわめきが、遅れて広がる。だが誰も、ここでは口を挟まない。挟めない。
俺はそれを背中で感じながら、踵を返した。
この配置が、何を意味するか。誰が、何を思うか。
そんなもんは、どうでもいい。
戦場で使う。生きて帰す。それだけだ。
あとは——壁の外で、黙らせる。