第2章
夢小説設定
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執務室は、静かだった。
書類に視線を落としたまま、ペンを走らせる。紙をめくる音だけが、一定のリズムで続く。
──その途中、扉の向こうで、足音が止まった。
一拍。
「入れ。」
返事を待ってから、扉が開く。
立っていたのは2人。
どちらも、調査兵団の一般兵士だ。
姿勢は正しい。表情も、引き締まっている。
「団長。」
敬礼。
「お時間、よろしいでしょうか。」
「用件を聞こう。」
視線を上げ、椅子の背に軽く身を預ける。
2人は一瞬互いに視線を交わし、それから、1人が前に出た。
「……憲兵から来た、ユニ・クラインについてです。」
来たな、と思う。
表情は変えない。声色も、そのまま。
「続けてくれ。」
「彼女は……正規の手続きで、調査兵団に配属されたのでしょうか。」
慎重な言い方だ。だが、意図ははっきりしている。
「正規だ。中央を通し、私の判断で受け入れている。」
即答。
もう1人が、言葉を継ぐ。
「それなら……兵長──リヴァイ兵士長が、あそこまで関与する理由は?」
あぁ、そこか。
私は、ペンを机に置いた。
「彼女の能力が、現場判断を必要とする種類だからだ。」
淡々と告げる。
「小柄で、機動に癖がある。扱いを誤れば死ぬし、活かせば戦力になる。」
視線を、2人に向ける。
「リヴァイ以上に、適任はいない。」
1人が、唇を噛む。
「……ですが。──周囲との軋轢が、出ています。」
正義感だ。仲間を思っている。
だからこそ、面倒でもある。
「団長として、見過ごしていい問題ではないかと。」
私は、少しだけ口角を上げた。
「見過ごしてはいない。」
その一言で、2人の背筋が僅かに強張る。
「むしろ想定内だ。」
静かに、続ける。
「新しい要素が入れば、必ず歪みは出る。それをどう扱うかを見るのも、訓練の一部だ。」
「……彼女が原因だと?」
「違う。」
即座に否定する。
「"彼女に反応した側"が、試されている。」
沈黙。
重い空気が落ちる。
「調査兵団は、正しさだけで生き残れる組織じゃない。感情でも、平等でもない。」
私は、2人をまっすぐに見る。
「必要なのは、"判断力"だ。誰を信じ、誰に任せ、どこで力を使うか。」
一拍。
「それを現場で担っているのが、リヴァイだ。」
2人は、何も言わない。だが、納得しきれていない顔だ。
私は、それを責めない。
「不安があるなら、こうして来たのは正しい。ただし。──」
声を、僅かに低くする。
「これ以上、彼女を個人として量るな。量るなら、"兵士"として量れ。」
そして、結論を告げる。
「今後も、配置も判断も、変えるつもりはない。死人が出なければ──問題ない。」
2人は深く息を吸い、揃って敬礼した。
「……了解しました。」
扉が閉まる。
再び、静寂。
私はペンを取り、書類に視線を戻す。
──さて。
彼らが、これで理解するか。それとも、別の形で動くか。どちらにせよ──もう、流れは止まらない。
私は机の端に重ねてあった書類の束から、一枚だけ、指先で引き抜いた。
他と比べて、紙が少し硬い。封蝋はすでに切られている。
──中央からの回答。
視線を落とす。
内容は、短い。
・憲兵ユニ・クラインの処遇について
・調査兵団への正式編入については
・現時点では、判断を保留する
理由は、いつもの言い回しだ。
前例がない。影響を測りたい。慎重を期す必要がある。
私はその文面をもう一度なぞり、それから、静かに紙を伏せた。
……やはり、動かないか。
想定通りだ。
中央は、危険を嫌う。特に、"制御できない可能性"を。
ユニ・クラインは彼らにとって、まだ数字にできない。
だから、待つ。様子を見る。こちらが音を立てるのを。
私は、指先で机を軽く叩く。
待つ、か。
──いや。
待っているだけでは、中央は永遠に動かない。
必要なのは、「判断せざるを得ない状況」だ。
私は、別の書類に手を伸ばす。
壁外調査計画。次回分。
日付。部隊編成。想定される危険度。
その中に、"小柄な兵士向けの特殊機動想定"という一文を、書き加える。
大きくは変えない。だが、確実に。
中央が嫌うのは、責任の所在が曖昧な結果だ。
ならば、結果を突きつける。
私はペンを置き、椅子の背に深く身を預けた。
内部の火は、ひとまず鎮まった。
次は──外だ。
私は頬杖をつき、伏せた書類から視線を外さないまま、ほんの僅かに口角を上げた。
「……さて。」
息のように、零す。
「この状況で、まだ動かずにいられるかな。」
中央が、無視できなくなる場所へ。
静かに、盤面をひっくり返す準備を始めよう。
───────────────
中央の執務室は、いつも通り静かだった。
壁一面の書類棚。整然と並ぶ記録。壁外調査計画書の束。
その中の一枚が、机の上に置かれている。
壁外調査計画。次回分。
日付。部隊編成。想定される危険度。
担当官は、淡々と視線を滑らせていた。
特別な変更はない。
編成も、極端ではない。
——その、途中で。
指が、止まる。
「……?」
紙の中央付近。
手書きで追記された一文。
"小柄な兵士向けの特殊機動想定"
一瞬、意味を測る。
小柄。特殊機動。想定。
具体名はない。だが、曖昧でもない。
これは——事故ではない。
「誰の判断だ。」
問いは、独り言のように落ちる。
署名欄に、視線を落とす。
エルヴィン・スミス。
……また、彼か。
紙を持つ指に、僅かな力が入る。
前例がない。だが、規則違反でもない。拒否する理由を、言語化できない。
「……判断を、迫ってきているな。」
計画書は、そっと机に戻される。
保留。差し戻し。再検討。
どれも、今は選べない。
中央は、沈黙を選ぶ。
だが——その沈黙がいつまで許されるかは、分からなかった。