第2章
夢小説設定
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数日後。
久しぶりに、立体機動装置を使う訓練が組まれた。
場所は屋外。だが、ただ飛ぶだけじゃない。
木組みと鉄骨で組まれた、異様に狭い構造物。壁と壁の間隔は、明らかに"人間1人分"より狭いところが混じっている。
──巨人との間合いを想定した訓練。
近すぎる距離。逃げ場のない懐。
身体をどう使うかが、そのまま生死に直結する。
……懐かしい。
トロスト区支部で、初めてこれをやった時。
私は、ずっと考えていた。
どう入る?どう抜ける?どうすれば、ぶつからない?
考えすぎて、一瞬判断が遅れて──肩を、ぶつけた。
あの時の痛みは、今も覚えている。一週間、腕が上がらなかった。
「次。」
名前を呼ばれる。
私は、静かに一歩前へ出る。
周囲の視線。以前より、刺々しさは薄れている。
……完全に消えたわけじゃない。でも、あの重さとは違う。
息を整える。
合図。
──跳ぶ。
ワイヤーを撃ち、加速。
視界が一気に近づく。
狭い。近い。普通なら、ぶつかる。
けれど……身体が、先に動いた。
肩をすぼめる。背骨をしならせる。関節を、折りたたむ。"通れない"はずの隙間に、身体を滑り込ませる。
服が、空気を切る音。
──抜けた。
減速せず、次の支点へ。
思考は、ほとんどない。
どうするか、じゃない。"もう、知っている"。
次も、その次も──
狭間。懐。死角。その全部を、身体が、勝手に処理していく。
最後の着地。
私は、静かに足をついた。
息は、乱れていない。
「……。」
一瞬の、沈黙。
それから、ざわりと空気が動く。
「今の……どうやって……。」
以前と、同じ反応。でも──前は、ここで私は俯いていた。
今日は、違う。
私は装置を確認しながら、何も考えずに次の準備をする。
できた。ただそれだけ。
怖さも、焦りも、自分を責める声もない。
──体が、覚えている。
それがこんなにも静かで、こんなにも楽だなんて。
視線の端で、リヴァイ兵士長がこちらを見ているのが分かる。
じっと、ではない。訓練全体を見る、その延長。
……それで、いい。
私はもう一度、トリガーに手をかける。
折れた心は、まだ完全には戻っていない。
それでも──動ける。飛べる。通れる。この間合いなら。
私はまだ──ここにいられる。
───────────────
資料室の前は、いつもより静かだった。
埃の匂い。紙が擦れる、微かな音。訓練の時間帯だからか、人は少ない。
私は腕に抱えた書類を読みながら、廊下を歩いていた。
──その、横合いから。
「ハンジ分隊長。」
呼ばれて、顔を上げる。
立っていたのは2人。
どちらも名前と顔が一致する程度には、よく見知った一般兵士だ。
「何かな?」
いつも通りの調子で返す。声の高さも、表情も変えない。
でも……この手の呼び止め方は、だいたい分かる。
「ちょっと、お聞きしたいことがありまして。」
丁寧だ。敬語だ。だからこそ、警戒心がないふりをしているのが分かる。
「うん?」
「……あの、憲兵から来たユニ・クラインですが。」
来たな、と思う。
「彼女、正規のルートで入ったんですか?」
──正論。
続けて、もう1人。
「誰の部下、という扱いになるんでしょうか。」
これも正論。筋は通っている。聞く権利も、なくはない。
私は足を止め、書類を腕に抱え直した。
「正規だよ。中央を通して、正式な手続きでね。」
一拍。
「エルヴィンが判断して、受け入れた。」
2人の目が、ほんの僅かに揺れる。
「……兵長付き、みたいに見えるんですが。」
あぁ、そこか。
「リヴァイが現場で見てるだけ。必要だから、そうしてる。」
淡々と、事実だけ。でも──
「それって、特別扱いじゃないんですか?」
来た。
声は低い。責める調子でもない。
だから余計に、厄介だ。
私は、小さく息を吐いた。
「特別扱い、ね。」
言葉を、口の中で転がす。
「じゃあ聞くけどさ。」
2人を見る。
「実力差を無視して同じ訓練をさせるのと、適性を見て配置を調整するの、どっちが公平だと思う?」
2人は、すぐには答えない。その沈黙が、答えだ。
「調査兵団はね。"平等"より、"生き残る確率"を優先する。」
少しだけ、声を低くする。
「それを決めてるのは、私じゃない。エルヴィンで、リヴァイだ。」
一拍置いて、付け加える。
「不満があるなら、ユニのように正規の手順で上げて。陰で測ったり、噂したりするのは──」
言葉を切る。
──一番、嫌われるやつ。
2人は、視線を逸らした。
「……分かりました。」
1人が、そう言って軽く頭を下げる。
でも、それで終わらない。
ほんの一瞬、2人の間で視線が交わされた。
決めた、という目。
「……では、」
少しだけ間を置いて。
「団長に、確認してきます。」
その言葉は、挑発でも宣言でもない。ただの──"行動の報告"。
私は、眉一つ動かさない。
「そうするといい。」
即答だった。
止めもしない。理由も聞かない。忠告もしない。
ただ、それだけ。
2人は一瞬拍子抜けしたような顔をして、それから、揃って敬礼をする。
「失礼します。」
足音が、廊下の奥へ遠ざかっていく。
静けさが戻る。
私はその背中を見送ってから、小さく息を吐いた。
……やっぱり、行くよね。
正義感が強くて、自分たちは間違っていないと思っていて、だからこそ"上に確認すればいい"と信じてる。
一番扱いづらいタイプ。
でも、それでいい。
隠れて燻るより、正面から火を出した方が、まだマシだ。
エルヴィンは、全部分かってる。リヴァイも分かってる。
──そして。
その2人が何も考えずにユニを前に出してるわけがないって事も。
私は抱えていた書類を持ち直し、再び歩き出す。
廊下の先では、まだ訓練の音がしているはずだ。
当事者は、何も知らない。知らなくていい。
今、火の向きが変わった。
それだけ。
あとは──上が受け止める番だ。