第2章
夢小説設定
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翌日。
廊下を歩いていると、前方から兵士が2人、並んで来るのが見えた。
昨日までなら──私に気づいた瞬間、声を潜めるか、視線を逸らすか。あるいは何も見えていないふりをして、すれ違っていた。
けれど、今日は違った。
一瞬、視線が合う。
そして──兵士の一人が、ほんの僅かに歩幅を変えた。
避けるというほど露骨じゃない。でもぶつからないように、距離を取る動き。
私は、何も言わずにその間を通り抜ける。
通り過ぎたあと、背中に刺さる視線は、確かにある。
けれどそれは昨日までのものとは、少し質が違った。
探るような視線。様子を見るような視線。訓練場でも、同じだった。
整列したとき、隣に立つ兵士との距離が、微妙に一定に保たれている。
寄らない。離れすぎもしない。
誰かが小声で何かを言いかけて、途中でやめる気配もあった。
……話題にしてはいけない。
そんな線が、見えないところに引かれている。
私は気づかないふりをして、前を見る。
何も解決していない。好意も、理解も、得ていない。
ただ「雑に扱っていい存在」では、なくなった。
それだけ。
理由は、分かっている。
昨日の、あの一瞬。迷いなく伸びた腕。短い一言。
あれを、皆が見た。
リヴァイ兵士長が、私を「兵士」として扱った場面を。
胸の奥に残る感覚を、静かに押さえ込む。
守られたわけじゃない。特別扱いされたと言うほどのものでもない。
それでもこの場所で生きるための、最低限の線は引かれた。
そう感じながら、私は今日も、前を向いて立つ。
──まだ、ここに居る。
立体機動訓練の準備は、いつもより少し早めに始まっていた。
私はいつも通り誰よりも先に訓練場に来て、自分の立体機動装置が置かれているはずの棚へ向かう。
……向かった、のだけれど。
「あ……。」
足が、止まる。
棚の一番上。いつもより、一段高い位置。
そこに──私の装置があった。
一瞬、状況を理解するのが遅れた。
視線を上げて、つま先立ちになって、手を伸ばしてみる。
……届かない。
私は腕を下ろし、棚と自分の身長を、無言で見比べる。
誰かが、悪意をもってやったのか。それとも、ただの配置換えか。
分からない。分からないけれど。
胸の奥に、ひやりとしたものが落ちる。
……どうしよう。
踏み台。倉庫に行けば、あるはず。と考えたところで──
気配。
足音は静か。けれど、聞き慣れた重さ。
私は、振り向くより先に気づいていた。
リヴァイ兵士長が、棚の前に立つ。
何も言わず視線だけで状況を把握すると、そのまま手を伸ばした。軽々と、装置を取る。
そして──無言のまま、私の前に差し出される。
「……あ、ありがとうございます。」
受け取ろうとした、そのとき。
「配置、変わったな。」
淡々とした声。責めるでも、探るでもない。ただの事実確認。
私は、少しだけ頷く。
「……はい。」
リヴァイ兵士長は、それ以上深追いしない。
一拍。
「届かねぇなら、言え。」
短く、それだけ。
命令でも、叱責でもない。当たり前の事を、当たり前に告げる口調。
私は装置を抱え直し、小さく答える。
「……はい。」
それで、会話は終わり。
リヴァイ兵士長は、もうこちらを見ない。
訓練場全体へと視線を戻し、次の確認へ向かっていった。
残された私は胸の奥に残る静かな波紋を抱えたまま、装置の金属を、そっと撫でる。
──また、見られていた。
助けられた。それを周囲も、きっと見ていた。
少しだけ、重さが変わっただけだ。
今日の空気も。私の立ち位置も。
ほんの少しだけ──確実に。