第2章
夢小説設定
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兵舎の裏手、資材置き場の近くで呼び止められた。
振り向くと、若い兵士が1人。
顔に出さないつもりらしいけど、困惑がそのまま立っている。
「……ハンジ分隊長。」
あぁ、こういう時の声だな、と思う。
「ん? なに?」
できるだけ軽く返すと、少しだけ間を置いてから、その兵士は言った。
「正直……聞いていいですか。」
「いいよ。」
止めなかったのは、この手の疑問は放っておくと厄介になるからだ。
「……あの人、何なんですか。」
言葉を選んでいる。でも、視線は正直だ。
「憲兵の制服で……しかも、リヴァイ兵長のすぐそばにいて……。」
あぁ、そこか。
私は小さく息を吐く。
「ユニ・クラインのこと?」
名前を出すと、兵士は小さく頷いた。
「壁外調査にも同行してましたよね。正直……普通じゃないな、って。」
責める調子じゃない。ただ、理解できないだけ。
だから、私は肩をすくめる。
「うん。普通じゃないね。」
即答すると、兵士が一瞬だけ目を瞬かせた。
「……え。」
「調査兵団ってさ、」
私は少しだけ声を落とす。
「"普通じゃない人間"が集まる場所でしょ。」
兵士は黙る。
「エルヴィンが動いて、リヴァイが黙って受け入れてる。それだけで、理由は十分だと思うけど。」
「でも……。」
まだ、引っかかっている。
私は、ユニの小さな背中を思い出す。
掃除された部屋。視線を逸らさず、立ち位置を測る癖。そして──無駄に喋らないところ。
「彼女ね、」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「自分が"どこに立っていいか"を、ちゃんと分かってるよ。」
兵士は、何も言わない。
「それに、」
私は、少しだけ笑った。
「リヴァイのそばにいられる人間って、そうそういないんだよ?」
それは、事実だ。
黙って立っていられる事。邪魔をしない事。必要な時だけ、そこにいる事。
それがどれだけ難しいか──調査兵団にいれば、嫌でも分かる。
「……問題になる、と思いますか。」
ぽつりと聞かれる。
私は、一拍置いてから答えた。
「なるかもね。」
正直に。
「でも、」
すぐに続ける。
「問題が起きたら、処理する人たちがいる。」
エルヴィン。リヴァイ。それに──私達。
兵士は少し考えてから、深く頭を下げた。
「……ありがとうございました。」
去っていく背中を見送りながら、私は空を仰ぐ。
兵団内の空気は、確かにざわついている。でも、それは悪意ばかりじゃない。分からないものに対する、戸惑いだ。
「……さて。」
小さく呟く。
内側は、時間が解決する部分もある。問題は──外だ。
私は、自然と団長室の方向を見る。
エルヴィンは、もう動いている。リヴァイも気にしないふりをして、ちゃんと見ている。そしてユニは──多分、何も知らない顔で、今日もそこに立つ。
「やれやれ。」
口ではそう言いながら、私は少しだけ、楽しくなっていた。
この兵団に、また一つ"面白い歪み"が生まれた。
それが簡単には折れないものだと、なぜか確信していたから。
それから、数日後の事。
廊下の角を曲がったところで、声がした。
ひそひそ。
でも、完全には抑えきれていない。
あぁ、これは──"集まってる"やつだな。
足を止めずに近づきながら、耳だけ向ける。
「……なぁ、あの憲兵の子だろ?」
「うん。ほら、あの小さい……。」
……やっぱりね。
「最初は出向って聞いてたけどさ。」
「それにしても、だよな。」
1人が、声を少し落とす。
「リヴァイ兵長が、部屋まで案内してたって。」
「しかもさ……掃除、させてたらしいぞ。」
短い沈黙。それから、誰かが小さく笑う。
「……特別扱い、じゃね?」
「だよなぁ。」
あーあ。
私はため息を噛み殺しながら、わざと足音を立てた。
「なーにが、特別扱い?」
数人が、びくっと肩を跳ねさせて振り向く。
「あ、ハンジ分隊長……!」
「うん。今の話、続けて?」
逃げ場はない。分かりやすく視線が泳ぐ。
「い、いえ、その……、」
「憲兵の、あの子の話で……。」
「ユニ・クライン?」
名前を出すと、何人かが顔を見合わせた。
「うん、普通じゃないね。」
あっさり言うと、逆に戸惑った顔をされる。
「普通じゃないよ。憲兵で、壁外調査に出て、リヴァイの横に立って、部屋を用意されてる。」
私は肩をすくめる。
「でもさ、それだけ見て"ズルい"とか"特別だ"って言うなら、ちょっと……順番が逆かな。」
一人が、恐る恐る聞いてくる。
「……どういう意味ですか。」
「簡単だよ。」
私は廊下の先──リヴァイとユニが消えていった方向を、ちらっと見る。
「"そう扱われる理由"があるかどうかを、まだ誰も知らないだけ。」
沈黙。誰も、反論しない。
「それにね、」
私は、少しだけ声を落として続けた。
「リヴァイが動いてる時点で、上はもう、全部分かっててやってる。」
それは、忠告でもある。
「気になるなら噂話じゃなくて、仕事で見なよ。」
軽く手を振る。
「じゃ、私は行くね。」
歩き出しながら、内心で思う。
──これはまだ"火花"だ。
でも放っておけば、ちゃんと火になるやつだ。
その時、リヴァイが前に出るか、ユニが踏み出すか。
あるいは──エルヴィンが先に潰すか。
「……ま、どっちにしても、」
私は、独り言みたいに呟く。
「面白くは、なりそうだよね。」