第1章
夢小説設定
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扉を閉めた途端、空気が切り替わる。
報告のために呼ばれたわけじゃない。そういう時の、団長の間だ。
部屋に足を踏み入れ、机の向こうにいるエルヴィンを見た瞬間に
リヴァイは悟った。
——これは、判断を仰ぐための話じゃない。
すでに結論は出ていて、自分に求められているのはその"確認"だけだ。
——もう、決まっている。
「ユニ・クラインについてだが。」
来たか、という感想すら浮かばない。想定の範囲内だ。
「……なんだ。」
椅子に寄りかかり、短く返す。どうせ結論をひっくり返す気はないだろう。
「数日後に控える壁外調査だ。彼女は——どう思う?」
問いの形をしているが、探っているわけじゃない。エルヴィンは"確認"をしに来ている。
だから、一拍置いてから口を開いた。
「……俺に聞く必要があるか?」
視線は、机の上の書類に落ちたまま。こちらを見なくても、エルヴィンは意味を理解する。
「先日、怪我をしたばかりだろう。それも含めて、兵士長の君に聞いている。」
その言い方で、完全に分かった。決定事項だ。ただし——条件付きで。
俺は、息をひとつ吐く。
「……無理はしない。引く判断も、自分で出来る。」
自分の口から出た言葉に、僅かな重さを感じる。評価だ。事実だ。だが、切り捨てるための言葉じゃない。
「戦場で?」
「少なくとも、突っ込んで死ぬタイプじゃない。」
即答だった。迷う理由がない。
エルヴィンは、ほんの少しだけ口元を緩める。
「それは、重要だな。」
あぁ、と内心で応じる。生き残る判断ができるかどうか——それが全てだ。
「万全じゃない。が、足を引っ張るほどじゃない。」
肩の怪我を思い出す。
3日間、休むと決めたあいつの顔を。
「どこまで任せられる?」
来た。ここが本題だ。
「前線の判断まではさせない。補助、状況把握、撤退判断。……俺の視界に入る位置だ。」
自然と、言葉が具体的になる。守るためじゃない。
——制御できる範囲を、正確に切り取っただけだ。
「なら、君に任せる。」
予想通りの結論。だからこそ、俺は何も言わなかった。
「出発は3日後だ。本人には、決定事項として伝える。」
あぁ、と短く頷く。
——本人に判断を委ねる段階は、もう過ぎている。だが、拒否されるとも思っていない。
ユニ・クラインは、そういう兵士だ。
そして——自分がそこまで把握している事実に、俺はあえて、目を向けなかった。
考える必要はない。これは、兵士長としての判断だ。
……それでいい。
壁外調査は、3日後。今日は、まだその準備の途中だ。
部屋に入った瞬間、空気が少し違うと分かった。
机の向こうに、エルヴィン団長。その少し後ろ、壁際に——リヴァイ兵士長がいる。
腕は組んでいる。だが壁にもたれているわけでもなく、ただ、そこに立っている。
それだけなのに、視界の端で、やけに存在感がある。
「来てくれてありがとう、ユニ。」
エルヴィン団長の声は、いつも通り穏やかだった。私は一歩前に出て、姿勢を正す。
「はい。」
報告か、叱責か。それとも——何か別の話か。
考えるより先に、無意識にリヴァイ兵士長の方を見てしまいそうになる。
……見ない。
見てしまったら、その時点で何かを期待しているみたいで。
「数日後に、壁外調査を控えている。」
エルヴィン団長の言葉に、胸の奥が、静かに引き締まる。
やっぱり、来た。
「君の参加について、決定した事がある。」
決定事項。
その言い方だけで、もう選択肢がない事は分かる。
「今回の壁外調査に、君も同行してもらう。」
一瞬、音が、遠のいた気がした。
行く。
——行くんだ。
覚悟はしていたはずなのに。心臓が、わずかに跳ねる。
「ただし、」
その一言で、張り詰めた糸が、きゅっと締まる。
「無理をする前提ではない。役割も、制限する。況把握、補助。前線判断は任せない。」
淡々とした説明。理性的で、冷静で。
その内容を聞きながら、私はもう一度だけ——視線を逸らす事を諦めた。
リヴァイ兵士長は、相変わらずこちらを見ていない。
けれど——話の区切りごとに、ほんの僅かに、視線が動くのが分かる。
肩。立ち方。呼吸の間。
……見られている。
値踏みでも、監視でもない。もっと近い、確認の視線。
——無理はしていないか。
——引けるか。
言葉にされなかった問いが、静かに投げられている気がした。
「以上が、今回の判断だ。」
エルヴィン団長の声で、意識が正面に引き戻される。
「異論は?」
ない。あるはずがない。
「……ありません。」
そう答えた、その瞬間。
視界の端で、リヴァイ兵士長がほんの一瞬だけ——こちらを見る。
短く。鋭く。そして、すぐに外れる。
それだけ。
何も言われない。何も示されない。
……なのに。
胸の奥で小さく、何かが落ち着いた。
大丈夫だ。
少なくとも——今の答えは、間違っていない。
そう、思えてしまった事に、あとから気づく事になるとも知らずに。