第1章
夢小説設定
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廊下を曲がったところで、一瞬、視界が暗くなった。それに気がついた次の瞬間、硬い何かが正面から迫ってくる。
避ける暇も、考える暇もなかった。
鈍い衝撃。
同時に、足が、床から離れる。
──浮いた。
一瞬。本当に、一瞬だけ。
重心が抜けて、身体が宙に放り出される感覚。声も出ない。
だが、完全に倒れる前に、背中側から強い力がかかる。肩に、回された腕。引き寄せられるというより、抱え込まれるに近い。
何も理解できぬまま、地面に落ちる前に、身体が戻された。
「……チッ。」
低い舌打ちが、すぐ耳元で聞こえる。私は、反射的に息を吸った。しかし、目の前には──見上げるほど、大きな影。
──大きい。
今さっきぶつかった相手が、そこに立っていた。
巨人みたいな体格の男はこちらを一瞥すると、すぐに視線を逸らす。
その代わり──
すん。
すん、すん。
……近い。距離感がおかしい。鼻先が、私の頭上あたりで動いている。
「……?」
思わず、言葉を失ったまま見上げる。男は眉をひそめるでもなく、ただ、短く鼻を鳴らした。
「……危ねぇな。」
「…悪い、見えなかった。」
それだけ言って、何事もなかったように歩き去っていく。
……何だったんだ、今の。
「あっははははっ!」
少し離れた廊下の向こうから、やけに楽しそうな笑い声が響いた。
「いやぁ、今の身長差は反則でしょ!」
誰の声か、考えるまでもない。
呆然としていると、肩に回されていた腕が、静かに離れた。支えがなくなってようやく、自分の足で立っている事を自覚する。
振り返った先にいたのは──視線をすでに別の方向へ向けた、リヴァイ兵士長だった。
こちらを見てもいない。
まるで、たまたま居合わせただけ、という顔。
何か言われるかと思ったが、彼は何も言わず、そのまま歩き出す。
残された廊下に、訓練場から聞こえてくる音だけが遠く響いていた。
私は、そっと息を吐く。
……今日は、やっぱり、大人しくしておこう。
部屋に戻ると、静けさが戻ってきた。
私は扉を閉め、壁際の机に置かれた書類の束に目を落とした。
──これなら、できる。
立体機動も、走る事もない。座ったまま、指と目を動かすだけの仕事。
許可を取りに行ったわけじゃない。ただ、必要なものを自分で見つけただけだ。
椅子に腰を下ろし、書類を一枚ずつ確認していく。
数字、報告、署名の抜け。頭は自然と、そちらへ向かっていった。さっきまで胸の奥に残っていたざわつきが、少しずつ、整っていく。
……さっき──廊下で起きた出来事が、ふと浮かぶ。
あんなに大きな人もいるんだな、と。人間なのに、まるで別の生き物みたいだった。
その時、不意に耳に音が入ってきた。
掛け声。立体機動装置の金属音。地面を蹴る衝撃。
──訓練だ。
私は、視線を上げる。思わず、手が止まる。視線が、自然と窓の方へ向かっていた。
……気になる。
けれど、今日は休むと、自分で決めた。そう思って立ち上がり、窓を閉めると、外の音がふっと遮断される。一拍置いて、踵を返した──その時だった。
閉めたばかりの窓の向こう、視界の端に、ふと人影が入る。
一瞬だけ。
こちらを見ていたような──そんな気がした。
けれど目を凝らす前に、その視線はすでに外れていた。そこにいたのは、訓練場の方を向いたままの、リヴァイ兵士長。
こちらに注意を向けている様子はない。ただ、たまたま、同じ方向に視線があっただけ。そう思える距離だった。
私は、何も言わずに視線を戻す。
机に向かい、紙を手に取る。
──今日は、休む。
その決断を、もう一度なぞるように。
────────────────
訓練場に立っていると、ふと視界の端で、建物の窓が動いた。反射的に、そちらを見上げる。
開いていた窓辺に、人影。一瞬身を乗り出すように現れて──すぐに、窓が閉められる。
……ユニか。
表情までは見えない。だが、動きで分かる。
外を見るためじゃない。音を遮るために、閉めた。
一拍、視線を留める。
……休んでるな。
それ以上、確かめる必要はなかった。
止めたのは俺だが、休むと決めたのは──あいつだ。
それだけ確認して、視線を訓練場へ戻す。部下の動きに意識を戻し、次の指示を飛ばす。
それでいい。
今日は、そういう日だ。