第1章
夢小説設定
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落ちた。
判断は間違ってねぇ。踏み込みも、角度も、速度も。身体が、追いつかなかっただけだ。
考える前に、動いていた。
伸ばした腕に、衝撃が乗る。受け止める。引き寄せる。勢いを殺す。
それだけの動作。なのに。
……軽い。
想定よりも、はっきりと。腕にかかる重さが、拍子抜けするほど、少ない。
「……。」
肩に触れた瞬間、指先に伝わった感触で、分かった。
細い。
装備の上からでも分かる。骨の位置が、近い。
支えた肩は、力を入れれば折れそうなほど、薄かった。
──こんなだったか。
視界で見ている時は、ただ小柄だと思っていた。だが触れた瞬間に来る情報は、容赦がない。
軽さ。細さ。それから──生身だ、という感触。
一瞬だけ、力の入れ方を変えた。強すぎれば壊れる。弱ければ落とす。
その間。ほんの一拍。
胸の奥に、嫌なものが引っかかる。
──調査兵団だぞ、ここは。
ここに立つって事は、同じ死線に立つって事だ。
分かってる。分かってるが。……小さい。
考えるな。
即座に地面へ降ろし、手を離す。そして、距離を戻す。
「身体が追いついてねぇだけだ。」
声は、いつも通りのはずだ。
「分かってて踏み込んだなら、止める理由はねぇ。」
余計な感情は、削ぐ。評価だけを落とす。
ユニは一瞬だけ俺を見て、それから、強く頷いた。
──それでいい。
背を向ける。
だが──腕に残った感触が、しつこく消えない。
あの軽さ。あの肩。視覚じゃねぇ。数字でもねぇ。触れたから分かった事実。
……あぁ。
だから俺は、判断を止めなかった。止めさせなかった。守るために止めるなら、それはもう──兵士じゃねぇ。
生きるために踏み込んだなら、その判断だけは、否定しねぇ。それが正しいと、伝える役目がある。それだけだ。
……それだけだ。
廊下は静かだった。
夜の時間帯。
訓練も終わり、兵舎全体が一段、呼吸を落としている。
扉の前で足を止める。
中にいるのは分かっている。灯りの気配と、紙の擦れる音。ノックはしない。
「入るぞ。」
返事を待たずに開ける。室内で振り返った男は書類を持ったまま、こちらを見た。
──エルヴィン・スミス。
「まだ起きていたか。」
淡々とした声。夜だからといって、緩みすぎない。
扉を閉め、壁際に立ったまま、言った。
「今日の訓練で、少し接触があった。」
エルヴィンの視線が、わずかに鋭くなる。
だが、何も聞かない。続きを待つ顔だ。俺は、言葉を選ばなかった。
「……女ってのは、あんなに軽いもんなのか?」
一瞬。
本当に、ほんの一瞬だけ、エルヴィンの動きが止まった。
それから、書類を机に置く。
「一般論か?それとも──彼女の話か。」
「後者だ。」
即答だった。
エルヴィンは椅子に腰を下ろし、指を組む。
「数字で言えば、彼女は平均より軽い。体格も小さい。」
「……そういう話じゃねぇ。」
自分でも、少し苛立っているのが分かる。
「装備込みだ。受け止めた時の話だ。」
空中で。勢いの中で。それでも。
「……拍子抜けするほどだった。」
エルヴィンは、少し考える。
「それが、問題だと思ったか?」
「……。」
それに対する答えは、出ている。
「問題にするつもりはねぇ。」
それは、本心だ。
「だが──頭じゃ分かってても、身体が一瞬、判断を変えかけた。」
守るか、落とすか。
ほんの一拍。
「だから、聞きに来た。」
エルヴィンは、静かに息を吐いた。
「彼女は、兵士だ。同時に、身体は生身だ。」
当たり前の事を言う声。
「軽さは弱点にもなるが、同時に、強みにもなる。」
「……分かってる。」
俺は、視線を逸らす。
「間合いを抜ける動きだ。巨人の懐に入るには、向いてる。」
それを言った瞬間、自分の中で、何かが整理された。
エルヴィンは、僅かに頷く。
「君が迷わなかったのなら、それでいい。」
「迷いはした。」
正直に言う。
「だが、止めなかった。」
「それが答えだ。」
淡々と。だが、断定だった。
俺は、それ以上何も言わない。
聞きたかったのは、正解じゃない。
現実だったかどうかだ。
「……分かった。」
それだけ言って、踵を返す。
扉に手をかけたところで、背後から声が来た。
「リヴァイ。」
振り返らない。
「"軽い"と感じた事自体は、忘れるな。」
一拍。
「だが、それで扱いを変えたら、彼女の立つ場所が変わる。」
……分かってる。
俺は扉を開ける。
「変えねぇ。」
低く、短く。
廊下に出る。扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
──軽い。
その事実は、消えない。
だからこそ、同じ線に立たせる。
それが、兵士長の仕事だ。
廊下に出たところで、足を止めた。向こうから来る足音がひとつ。視線を上げると、ユニだった。
包帯が見える。雑に巻いたわけじゃない。だが、白さがやけに目につく。
……さっきの、か。
距離が詰まる前に、口を開く。
「ユニ。」
呼んだのは、それだけだ。それでも、彼女の足が止まる。
「怪我の具合はどうだ。」
事実確認。余計なものは、要らねぇ。
ユニは一瞬だけ目を見開いて、すぐに姿勢を正した。
「打撲です。動作には、支障ありません。」
用意していた答え。迷いのない声。だが──視線が、僅かに逸れる。
俺は、それを見ている。
「……無理はするな。」
短く。それから、必要なことだけ続ける。
「次は、踏み込む前に体を入れろ。勢いだけで行くと、受け身が遅れる。」
叱ってはいない。評価でもない。仕事の話だ。
ユニは、はっきり頷く。
「はい。」
それで十分だ。それ以上何も言わず、歩き出す。
すれ違いざま、もう一度だけ、包帯に視線が落ちる。
……軽い。
その感触が、まだ、頭のどこかに残っている。
迷いはした。
だが──前に進ませる判断は、間違ってねぇ。
そう結論づけて、足を進めた。