第1章
夢小説設定
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訓練場の端。
装置を外し、地面に腰を落としてから、私はしばらく動けずにいた。呼吸が、まだ速い。心臓の音が、耳の奥で残っている。グリップを握ったまま指先に力が入っているのに気づいて、ゆっくりと手を開いた。
──飛べた。
完璧じゃない。でも、昨日よりは。
そう思ったところで、足音が近づく。顔を上げる前に、分かった。
「今日は、」
低い声。
「昨日より高かったな。」
短く、それだけ。
一瞬、意味を測りかねる。
高かった。昨日より。
──あ。
比較されている。昨日の私と、今日の私を。
胸の奥が、わずかに詰まる。
褒められた、とは違う。評価でもない。ただ、事実。
でもそれは、ちゃんと見ていなければ言えない言葉だった。
反射的に何か言おうとして、結局言葉を見つけられずに、口を閉じた。
視線を落とす。
自分の装置。自分の手。
「……。」
何も返せない私を気にする様子もなく、リヴァイ兵士長はもう、訓練場全体に視線を移している。
続ける気もないらしい。
それなのに──
昨日より。
その一言だけが、胸の内側に確かに残った。
それは"まだ足りない"と同時に、"前に進んでいる"という意味でもあった。
私はもう一度、グリップを握り直す。
今度は、力を入れすぎないように。
──次は、もう一段。
そう思えたのはたぶん、その一言が、ちゃんと届いたからだ。
私は何も言わないまま、立体機動装置に手を伸ばした。
外したままのベルト。地面に置かれたグリップ。
さっきまであれほど強く握っていたのに、今は、少しだけ感触が違う。息を整えながら、装置を引き寄せる。
ガス圧。接続部。ワイヤーの巻き。
順番は、もう決まっている。考えなくても、手が動く。布で金属を拭きながら、昨日のことを思い出す。
『……丁寧すぎる割に、減ってねぇな。』
皮肉だったはずなのに、今になって、別の意味が滲んでくる。
──使ってこなかった。使えなかった。それだけの時間が、そこにあった。
私は拭く手を止めずに、ワイヤーを一本ずつ引き出す。
傷はない。摩耗も、ほとんどない。それが、少しだけ悔しい。
昨日より高く飛べた。今日、そう言われた。だったら──
この装置も、昨日より先に進ませたい。
私は、グリップを持ち上げ、親指で、金属の縁をなぞる。
──命に、関わる。
昨日口にした言葉が、今度ははっきりと胸に落ちる。
守るためじゃない。しまっておくためでもない。使うために、整える。
布を折り直し、最後に留め具を確かめる。
「……よし。」
小さく、息を吐く。
顔を上げると、訓練場では別の兵が宙を舞っていた。
その軌道を、目で追いながら、装置を抱え直す。
──次は、もっと高く。
誰に言われたわけでもないのにそう思えたことが、今の私には、何よりの変化だった。