第1章
夢小説設定
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廊下に出たところで、背後から足音が跳ねる。
「ねぇ、リヴァイ。」
振り返る前から分かる声だ。ハンジ・ゾエ。その名に思い至った瞬間、脳裏に映る。
──さっき覗いた部屋。
床一面に散った紙束。積まれるはずだった箱は崩れ、机の上は用途不明の物で埋め尽くされていた。俺が見た時点で"途中"だ。つまり、その前は──
想像がついたところで、眉間に深く皺が刻まれる。
「……。」
無意識に、息が鼻から抜けた。
「さっきさ、部屋の片付け手伝ってもらっちゃって。」
ハンジは、いつも通りの軽さで言う。その軽さが、逆に腹に来る。
「……自分でやれ。」
低く、短く。
ハンジは一瞬きょとんとしてから、吹き出した。
「うわ、出た。やっぱり言うと思った。」
「他人を巻き込むな。」
眉間の皺は、まだ消えない。
「あいつが手を出す前から、あの有様だったのは分かってる。」
視線を逸らし、吐き捨てる。
「今の立場で、余計な仕事を背負わせるな。」
ハンジは肩をすくめる。
「でもさ、断らなかったよ。」
足が、止まる。
「断れる空気じゃなかった、とも言う。」
「違う違う。」
ハンジは指を振る。
「"断らなかった"。ちゃんと、自分で選んでた。」
……面倒な見方をする。
「真面目すぎるだけだ。」
「それも含めて、だよ。」
声の調子が、少しだけ落ち着く。
「自分の立ち位置を測りながら、それでも動くタイプ。」
床に屈んでいた、小さな背中が浮かぶ。
「だからこそ、言った。」
「ん?」
「断っていい、と。」
「ふーん。」
ハンジは、少し考えるように顎に指を当てる。
「……言われ慣れてない顔、してたでしょ。」
断定じゃない。見てきた人間だからこその、推測。
「だろうな。」
短く返す。
「あの子、頼まれたら断らないタイプだもの。」
「だから言った。」
歩みを止めずに続ける。
「今の立場で、余計なもんまで抱え込む必要はねぇ。」
ハンジは、ふっと目を細めた。
「でもさ、」
声が、少しだけ柔らぐ。
「驚いた後、ちゃんと考えてたと思うよ。」
「……。」
「"自分で選んでいい"って言われたの、たぶん初めてだ。」
俺は答えない。だが眉間の皺は──さっきより、わずかに浅くなっていた。
ハンジは、こちらを横目で窺う。ほんの一瞬、確かめるような間。
「……で?」
口角が、僅かに上がった。
「それを本人に言う代わりに私に言うあたり──だいぶ甘くなったね、リヴァイ。」
からかいは一度きり。深追いしないのが、こいつの癖だ。
「……そういう話じゃねぇ。」
低く返すと、ハンジは満足そうに笑った。
「はいはい。」
すぐに視線を前に戻し、話題を切り替える。
「それよりさ、準備、予定より押してる。」
空気が、切り替わる。
「東側の資材、確認した?人、足りてないよ。」
「あぁ。」
即答する。
「回す。」
「ありがとう。助かるよ。」
それだけ言って、ハンジは足を速めた。背中が、人の流れに紛れていく。残った廊下で、俺は一度だけ息を吐く。
──甘くなった。
否定する気はない。肯定する気もない。ただ──余計なもんを抱え込むな、と言っただけだ。それ以上でも、それ以下でもねぇ。
そう言い聞かせるように、俺は前を向いた。