第4章
夢小説設定
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夜。
外は、驚くほど静かだった。
昼間の喧騒が嘘みたいに、風の音だけが、壁に沿って流れている。
私は簡易的にあてがわれた寝台に腰掛けたまま、しばらく動けずにいた。
……眠れない。
熱は、もう下がっている。頭も、はっきりしている。
それなのに、体の奥だけが、重い。
昼間、リヴァイ兵士長とエルヴィン団長が内地に向かう準備をしているのを見た。
その輪の中に、私の名前はなかった。
代わりに告げられたのは、「ここを頼む」という言葉。
……なるほど。
半日、休んで。体を横にして、目を閉じて。言われた通りに、熱が下がるのを待った。
そして戻ってきたら──世界は、もう少し先へ進んでいた。
誰も、私を置いていったわけじゃない。呼ばれなかっただけだ。
それも、理由があってのことだと、分かる。
だから、孤立しているわけじゃない。
声をかければ、返事は返ってくる。頼めば、助けもある。居場所が消えたわけでもない。
ただ周囲は、もう次に向かって動いている。
壊れた壁の先を見て、これから何を決め、何を切り捨てるか──
その準備を、当たり前のように始めている。
人が行き交う。書類が運ばれる。声が飛び、指示が重なる。
その流れの中で、立ち止まっているのは──私だけだった。
呼ばれていない。止められてもいない。ただ次の輪に、最初から含まれていない。
……あぁ。
今回は、私が「前に出る場面じゃない」という判断なんだ。
誰かにそう言われたわけじゃない。でも周囲の動きが、静かにそれを示している。
つまりは──そういう事、なんだろう。
明日。兵法会議。名前だけは、何度も聞いたことがある。
けれど、そこに自分が関わる未来を、考えた事はなかった。
関わらない。関われない。
それは、分かっている。
私は、ノートを取り出した。
机に置いて、開く。
……けれど今日は、ペンを持たなかった。
書こうと思えば、いくらでも書ける。
今日の配置。捕獲された巨人。エレンという少年。リヴァイ兵士長の判断。
でも今夜は、書かなくても分かっている。
整理は、もう終わっている。
私は自分が「外された」事に、気づいている。
責める気はない。それが正しい判断だという事も、理解できる。
でも──理解できる事と平気でいられる事は違う。
寝台の端に座ったまま、ゆっくり息を吐く。
ここ数日、私は意識して一歩引いていた。
寄りすぎない。頼りすぎない。判断を、委ねすぎない。
それは、自分で選んだ事だ。
だから今こうして距離が生まれているのも、当然の結果だ。
……それでも。
胸の奥が、静かに痛む。
「……大丈夫。」
小さく、誰に聞かせるでもなく呟く。
私は、ちゃんと立っている。
判断できる。指示を出せる。責任も、背負えている。
それを、この数日で証明した。
だからこの距離は、必要なものだ。
そう、自分に言い聞かせる。
でももし明日の会議で、何かが決まったら。
兵士長がまたひとつ、大きな判断を下したら。
その時、私はどこに立つのだろう。
支える側か。守られる側か。それとも──ただ、従う側か。
答えは、まだ出ない。出さなくていい。
今は、それでいい。
私はノートを閉じ、灯りを落とす。
暗闇の中で、目を閉じながら思う。
明日、何かが変わる。それは、怖い。
でも、目を逸らしたくは、ない。
そう思えた自分にほんの少しだけ、安心しながら──
私は、静かに夜をやり過ごした。
───────────────
朝。
まだ陽は高くない。
窓の外は薄曇りで、夜の冷えが石畳にそのまま残っている。
俺は支度を終え上着に腕を通したところで、ふと動きを止めた。
……静かだ。
騒ぎは起きていない。報告もない。異常を告げる足音も、聞こえない。
それが、今の状況をよく表している。
会議は、今日だ。
兵法会議。名前だけなら、何度も聞いてきた。
だが、今回は違う。
議題が「壁」でも「陣形」でも「犠牲の数」でもない。
──人間だ。
人間が、巨人になれるという事実。
それがこの世界の均衡を、根本から揺らしている。
俺は無意識に、息を整えていた。
深く吸って、ゆっくり吐く。
身体は、いつも通り動く。思考も、澄んでいる。
それなのに胸の奥だけが、妙に静かだった。
焦りもない。苛立ちもない。
……迷いも、ない。
俺はもう決めている。
この会議で何が決まろうと。どんな判断が下されようと。
俺は兵士長として、引く気はない。
守るべきものは、はっきりしている。
調査兵団。前線に立つ兵士。
そして──「人間のまま戦おうとした少年」。
それだけだ。
ユニの顔が、脳裏をよぎる。
今朝は、まだ会っていない。会わなくていい。今は。
あいつは、自分の位置を理解している。
それでいい。
俺がするべきなのは、その「理解」の上に、判断を積み重ねることだ。
情を挟めば、楽になる。
だが──楽な選択をするために、俺はここにいるわけじゃない。
扉に手をかける。
……静かだ。
だがこの静けさは、嵐の前だ。
分かっている。だからこそ。
俺は今、迷っていない。
それだけで、十分だった。
扉を開け、廊下へ出る。
会議へ向かう足取りは、驚くほど落ち着いていた。