第4章
夢小説設定
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夜が明けきらないうちから、動いていた。
昨日の混乱が嘘みたいに、空気は冷えて澄んでいる。
だが街はまだ、戦場のままだ。
──昨日の事を、思い出す。
作戦終了の合図が出て、壁へ戻ったあと。
最初に探したのは、ユニだった。
班の面々と合流し、人数を数え、欠けていない事を確認する。
ユニも、そこにいた。
大きな怪我はない。動きも、声も、いつも通りだ。
それだけで、胸の奥の張りが少しだけ緩んだ。
……それで終わりだ。
それ以上の確認は、必要ない。
俺は兵士長で、昨日は作戦行動中だった。
それだけだ。
◇
翌日。
調査兵団は、トロスト区に留まった。
理由は単純だ。
街の中に、まだ巨人がいる。
門は塞がったが、すでに侵入した個体が消えたわけじゃない。
駐屯兵だけで掃討するには、数が多く、状況も複雑すぎる。
市街地。狭い路地。崩れた建物。逃げ遅れた市民の痕跡。
──壁外より、厄介だ。
だから、俺たちが動く。
調査兵団が前に出て、残存する巨人を優先的に排除する。
生存率。技術。経験。
どれを取っても、ここは俺たちの仕事だ。
◇
掃討は、淡々と進んだ。
巨人を引き離し、路地から開けた場所へ誘導し、確実に仕留める。
リヴァイ班は、分断されないことを最優先に動く。
無理な追撃はしない。深追いもしない。
──昨日までが、異常だった。
今日は、後始末だ。
その過程で、2体を残す判断が下された。捕獲。
ハンジの発案だ。
正直、気分のいい作業じゃない。だが必要だ。
今回の事態は、明らかに「いつも」と違う。
壁を破る動き。異常な挙動。人間に由来する可能性。
分からない事が、多すぎる。
なら、調べるしかない。
◇
捕獲地点は、市街地外縁、壁沿い。
すでに市民は避難している区域だ。
崩れた建材。壁面。ワイヤー。
あるものを使って、即席の拘束を組む。完璧じゃない。だが、今はそれで十分だ。
調査兵団は、この場所を一時的な管理区域として使う。
トロスト区支部は、連絡と最低限の休息用。兵は交代で仮眠を取り、現場に戻る。
「滞在」というより、展開中だ。街が落ち着くまで、俺たちは、ここを離れない。
巨人を縛り付け、警戒線を張り、駐屯兵に引き継ぎ事項を伝える。
ハンジは、もう次のことを考えている。
──相変わらずだ。
俺は、現場全体を一度だけ見回す。
壊れた街。残る血の匂い。疲労の滲む兵士達。
そして少し離れた位置で、指示を出しているユニの姿。
声は落ち着いている。視線も、ぶれていない。
昨日俺が任せた場所で、今日も、ちゃんと立っている。
……それでいい。
それ以上を、俺が考える必要はない。
今は、兵士長としての仕事がある。
トロスト区は、まだ終わっていない。
だから──考えるのは、後だ。
────────────────
区画内は、静かだった。
捕獲された巨人は既に固定され、倒すべき敵はいない。
後輩たちが、それぞれの持ち場で動いている。声をかければ、すぐに応じる距離。指示を出せば、迷いなく従う背中。
──後輩が、増えた。
調査兵団に来てから、5年。いつの間にか私は、「教わる側」よりも「任される側」に立っている。
ふと、思い出す。
憲兵だった頃も、5年。
あの頃は、ここまで長く同じ場所に立ち続ける未来なんて、想像もしていなかった。
同じだけの時間が、もう一度流れた。
(……5年。)
ここで過ごした5年は、私にとって穏やかで、静かで、確かに大切な時間だった。
血の匂いが薄れ、日常が続き、「次の危機」は遠くにあるような顔をしていた。
でもそれは、仮初の幸せだった。
ウォール・マリアも、シガンシナ区も、あの"穴"は、開いたままだ。
何も、塞がれていない。何も、終わっていない。
ただ──見ないふりをしていただけだ。
(私はこの場所で、それを"静かだ"と思っていた。)
胸の奥に、言葉にならない重さが沈む。
そのとき──
「ユニ〜!」
場違いなくらい明るい声。
振り向くと、やっぱりハンジさんだった。
「ねぇねぇ!昨日捕獲してくれた巨人!あれ、絶対すごいよ!今しかできない研究だし、一緒にどう!?」
興奮した様子で、身振り手振りが大きい。
……この人は、本当に変わらない。
私は、少しだけ息を整えてから答えた。
「……すみません。」
視線を、区画内に向けたまま。
「今は、リヴァイ兵士長に、この区画と班を任されていますので。状況が落ち着くまでは、こちらを優先します。」
一瞬の沈黙。
それから、ハンジさんは楽しそうに笑った。
「そっか。任されてる顔だね。」
からかうような、でもどこか満足そうな声。
「じゃあ、終わったら呼んで。私は逃げないから。」
そう言って軽く手を振り、去っていった。
私はその背中を見送ってから、もう一度、前を向く。
静まり返った区画。倒すべき敵はいない。
けれど守るべき秩序は、まだここにある。
「……巡回、続けます。」
そう言って、私はまた、指示を出す側として歩き出した。
任された場所で、最後まで責任を果たすために。
───────────────
「──第四区画の確認は完了したな。」
壁沿いに立ちながら、私は周囲の動きを視線で追う。
瓦礫の撤去。立ち入り禁止線の再確認。哨戒の配置。
どれも、"いつも通り"の作業だ。
だが、いつも通りではない。
「次は南側。無理に進む必要はない、異常があれば即戻れ。」
指示を出しながら、思考の一部が別の場所へ向かっている。
──巨人になれる、少年。
エレン・イェーガー。
昨日、あの場にいた誰もが見た。
人間が、巨人へと変わる瞬間を。
……可能性は、ひとつではない。
私は、瓦礫の向こうを見る。
壊された門。外から内側へ、明確な意思を持って破壊された痕跡。
偶然ではない。自然現象でもない。
……もし、人間が巨人になれるのなら。
1体だけとは、限らない。
壁を壊したのも──エレンと同じような存在だった可能性。
考えれば考えるほど、線は一本に収束していく。
人類がこれまで「外敵」だと信じてきたもの。
その中に、"人間"が含まれているとしたら。
「団長。」
声をかけられ、私は意識を現場へ戻す。
「こちらは問題ありません。」
「あぁ。そのまま続けてくれ。」
短く答え、私は再び前を向く。
指揮官として、今は混乱を生むわけにはいかない。
だが。聞かなければならない。エレン本人から。
何を見て、何を感じ、どこまで分かっているのか。
彼は、"兵士"なのか。
それとも──"鍵"なのか。
私は、小さく息を吐く。
……避けては通れないな。
今はまだ、問題は"起きていない"。
だが問題が見えた以上、放置する選択肢はない。
「……後で、会いに行こう。」
誰に聞かせるでもなく、私はそう、心の中で決めていた。
次に動くために。人類が、次の一手を選ぶために。