第4章
夢小説設定
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ウォールローゼに辿り着いた時、張り詰めていた空気がほんの僅かに緩むのを感じた。
調査兵団。それも──リヴァイ兵士長の班。
その姿を認識した瞬間、駐屯兵たちの動きがほんの一拍、軽くなる。
安心。期待。そして、切り替え。
言葉にしなくても、空気で分かる。
けれど──こちらに伝えられた現状は、あまりにも現実感を欠いていた。
「……巨人に、なれる……少年……?」
思わず、聞き返してしまう。
トロスト区の壁が破られて、それほど時間は経っていない。
その直後に出現した他の巨人とは、明らかに異質な存在。
人を食わず、巨人に立ち向かう巨人。
それを、複数の兵士が目撃している。
──その正体が、訓練兵の、少年。
一瞬、思考が止まりかけた。
あり得ない。理解できない。
けれど今は、考えている場合じゃない。
息を吸って、吐く。
無理やり、頭を切り替える。
進行中の作戦は明確だ。
その"少年の巨人"に、開いたばかりのトロスト区外門を大岩で塞がせる。
先程外門へ向かっていた少数の兵士達は、その少年と、護衛のためだったらしい。
その時──遠くで、信煙弾が上がった。
中止。
色を見て、一瞬で理解する。
同時に、壁の上を駆け出す影がひとつ。
訓練兵だ。
迷いのない動き。目的地は、外門。
胸の奥が、嫌な形でざわつく。
私は思わず立ち上がり、リヴァイ兵士長を見る。
「……リヴァイ兵士長、どうしますか。」
状況は異常だ。前例はない。それでも、判断は必要になる。
リヴァイ兵士長は、もう次の一手を考えているはずだ。
──あの少年のもとへ行くか。それとも、こちらに残るか。
答えを待ちながら、私は再び息を整えた。
今は、思考を止めるな。
どんな異常が起きていても、私は、兵士だ。
やるべき事を、見失わない。
───────────────
壁の上は、混乱の只中にあった。
駐屯兵と訓練兵が入り混じり、怒号と指示が飛び交う。巨人の動きに合わせて、人も流れている。
──状況は、良くない。
だが、いくつかの事実だけは見えている。
門の方角。信煙弾──作戦中止。そして、それを判断した"誰か"がいるという事。
理由は分からない。だが、現場が止めたという事実は重い。
……ならば、考えるまでもない。
今、必要なのは、状況を確認できる人間と、即座に対応できる戦力だ。
視線を巡らせ、壁沿いで動きを統制しているユニを捉える。
周囲を見渡し、兵の流れを把握し、声を張り上げずとも通る指示。
──十分だ。ここは、任せられる。
「ユニ。」
名前を呼ぶと、一瞬でこちらを見る。
息を詰めたのが、分かった。
「班の指揮は、お前に任せる。俺は向こうの加勢に行く。」
一拍。
「!……は、はい!」
即答だった。迷いはない。それが、何よりの答えだ。
一歩近づき、意識的に余計な力を抜く。
──これは、上司としてだ。
そう言い聞かせるように、ユニの肩に、短く手を置く。
「……いつも通りだ。」
それだけ言って、視線を合わせる。
余計な言葉は、要らない。
踵を返す。
背中を向けた瞬間、胸の奥が僅かに軋んだ。
だが、振り返らない。
俺が今やるべき事は、感情で動く事でも、状況を憶測で埋める事でもない。
──確認し、切り開くことだ。
兵士長として。この場に立つ者として。
そうでなければ、ここにいる意味がない。
自分に言い聞かせるように、速度を上げる。
……考えるまでもない。
これは今できる、最善の判断だ。
そうでなければ──俺は、前に進めない。
───────────────
一度、深く息を吸う。吐く。もう一度。
……足りない。
胸の奥に溜まった緊張は、呼吸だけではなかなか抜けてくれない。
それでもリヴァイ兵士長は、私を見て、判断して、ここを任せた。
それは、事実だ。
期待に応えよう、と考える余裕はない。上手くやろう、なんて思っている場合でもない。
でも……失望は、させたくない。
だから──考える前に、動け。
……いや、考えながらでもいい。止まるな。
視線を上げ、駐屯兵の指揮を執っている兵士に向き直る。
「……我々リヴァイ班が、巨人の誘導を請け負います。……それで、宜しいでしょうか?」
一瞬の間。
相手は私の階級を見て、次に、背後の班員達を見る。
「……あぁ、助かる。」
短い返答。だが、迷いはなかった。
胸の奥が、きゅっと締まる。
──通った。
それだけで少しだけ、足元が現実に戻る。
すぐに、トロスト区内へ視線を走らせる。
壁沿い。路地。市民の流れ。巨人の位置。
情報は多い。だが、全部は拾えない。
拾うべきものだけを、拾う。
「……リヴァイ班は、巨人をこの壁まで誘導。」
声を張りすぎない。だが、通す。
「討伐は、基本的に奇行種のみ。余裕があれば、数人で連携し1体ずつ討伐にあたってください。」
頭の中で、何度も訓練で繰り返した流れをなぞる。
「それ以外は──」
一拍置いて、続ける。
「現場判断で、私から指示を出します。」
班員達の視線が集まる。
一瞬の沈黙。
「……はい!」
返事が、揃った。
その音に、背中に乗った"重さ"を、はっきりと感じる。
逃げられない。でも、逃げない。
リヴァイ兵士長がいない今、ここで判断するのは、私だ。
もう一度、息を吸う。
──大丈夫。
怖い。緊張もしている。
それでも、足は止まっていない。
「……行きます。」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて──私は、前に出た。