第4章
夢小説設定
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馬の上から、私はリヴァイ兵士長の背中越しに、それを見た。
昨日の朝、確かに閉じたはずの扉。
──開いている。
……違う。開いているんじゃない。
壊れている。外から、内側へ。蹴破られたように、無残に。
胸の奥が、すっと冷えた。
やはり撤退の判断は、間違っていなかった。
手綱を握る手に、力が入る。
前の時と同じだ。すぐには、入らない。
先行する兵士達に続いて、リヴァイ班は立体機動装置を起動する。
一気に、壁の上へ。
そして──内側を、見た。
地獄だった。
崩れた建物。散乱する瓦礫。逃げ惑う市民の姿が──遠くに、近くに、無数にある。
視界の端で、兵士が走り、誰かが転び、誰かが叫んでいる。
喉が、ひくりと鳴った。
その間にもリヴァイ兵士長は、もう次を見ている。
「エルヴィン。俺の班は降りていいな。」
迷いのない声。
息を詰めていた私は、その一言で現実に引き戻される。
「あぁ、頼む。」
エルヴィン団長の声が、すぐに返る。
「ユニ、君も今回はリヴァイの指示に従ってくれ。」
「……!」
一瞬だけ、視線が揺れる。
「……はい。」
前回はストヘス区の開門要請のため、私は戦場には出なかった。
だが、今回は違う。前線だ。
視線の先には、逃げ惑う市民。
そして駐屯兵、訓練兵。
守らなければならない。
いつもの壁外調査では、巨人は「避けるもの」だった。
だが今は違う。
こちらから、立ち向かう。状況が、まるで違う。
息を吸って、吐く。
心臓の音が、やけに大きい。
「……行くぞ。」
リヴァイ兵士長の声。
私は頷き、その背を追って壁から飛び出した。
あの時から、私は成長した。
だから大丈夫。
──守る。
今度は、それが私の役目だ。
───────────────
地面に降りた瞬間、空気が変わった。
埃。血。悲鳴と、怒号。
壁外調査とは、まるで違う。
ここは──人の生活の中だ。
逃げ惑う市民。必死に叫ぶ駐屯兵。恐怖を押し殺して走る訓練兵。
それでもただ、混乱しているだけじゃない。
俺は、無意識に視線を走らせる。
壁沿いを走る、少数の兵。市街地側から、一定の方向へ動く巨人。
──誘導している。
餌にされているのは、市民じゃない。兵士だ。
命を賭けて、巨人の進路を、壁沿いへ流している。
……誰かが、考えている。
だが、その意図を言語化する前に──
「リヴァイ兵士長!」
ユニの声。
振り向くと、あいつは息を切らしながらも、視線だけは冷静に街を追っている。
「……もしかしたら今、何らかの作戦がなされているかもしれません。」
同時に、理解が繋がった。
壁沿いを走る兵。交差しない導線。巨人の向き。
市民を守るだけの動きじゃない。分担された、計算だ。
──なるほどな。
駐屯兵と訓練兵が、この状況でただ逃げ回っているわけがない。
俺は短く息を吐く。
ここで、俺達が勝手に動けば、この流れを壊す。
主導権を奪う必要はない。
「……今は、このまま進む。」
声を張る。
「巨人の数を減らしながらウォールローゼを目指す。既に作戦を開始している駐屯兵に合流する。」
判断は、固まった。そして──
「ユニ。」
名前を呼ぶ。
「お前は中央だ。前後左右、全てを警戒しろ。」
一瞬だけ、あいつの目がこちらを向く。
「他の奴らは、ユニの動きに合わせろ。訓練通りだ。」
「はい!」
迷いのない返事。
俺は、もう一度だけ周囲を見渡す。
恐怖はある。混乱もある。だが──
秩序は、まだ死んでいない。
なら、やることはひとつだ。
壊さず、補強する。
俺たちは、遊撃だ。
「……行くぞ。」
号令と同時に、リヴァイ班が動き出す。
中央にいるユニの存在を、背中越しに感じたまま。
守らない。だが、信じる。
それが今の、兵士長としての判断だった。
ウォールローゼは、もう近い。
視界の先で、巨人の腕が振り下ろされた。
──速い。
だが、ユニは迷わなかった。
踏み込み、僅かに軌道をずらし、巨人の間合いを──抜ける。
紙一重。
次の瞬間、別の兵士が飛び込み、刃がうなじを捉えた。
巨人が崩れ落ちる。
……よし。
俺は、無意識に息を吐いていた。
無茶はしていない。判断も、動きも、正確だ。
中央に置いた判断は、間違っていなかった。
視線を前に戻す。
安心するには、まだ早い。だが──
今の一瞬だけは、確かに、胸の奥が静かになっていた。