第3章
夢小説設定
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冬の空気は、判断を鈍らせない。むしろ、余計な感情を削ぎ落とす。そう信じてきた。
訓練は、複数班合同。配置も、動線も、事前に決めた通りだ。
ユニは──俺の判断で、あの位置に置いた。
守りやすい位置ではない。だが、危険でもない。
全体の流れを見れば、そこが最適だった。
私情を挟めば、もっと後方に下げられた。
だがそれをした瞬間、俺は兵士長じゃなくなる。
だから、指示は変えなかった。
──正しい判断だ。
そう思った、次の瞬間。
「……っ!」
視界の端で、動きが乱れる。
ユニだ。
想定より、早い。
地面に残った霜。僅かな足運びのズレ。
転倒──いや、転倒まではいかない。
だが、このまま行けば。
前方の兵士と、ぶつかる。
声が、喉まで出かける。
──下がれ。
──止まれ。
だがそれを出したら、判断を覆す事になる。
俺が出した配置を、俺自身が否定する事になる。
兵士長として、それはできない。
……動くな。
そう、自分に言い聞かせる。
ユニは、気づいた。一瞬で、理解した。
体を捻り、前方の兵士の動きを避ける。
だが──足が、滑った。
ほんの一瞬。時間が、引き伸ばされる。
──まずい。
次の瞬間には、ユニの体が大きく傾く。
転ぶ。いや、受け身は取れる。だが──位置が悪い。
着地した先に、硬い地面。
怪我をする。確実に。
そこでようやく、俺は体を動かしていた。
だが──間に合わない。
ユニの体が地面に叩きつけられる──その直前。
別の兵士が、反射で手を伸ばした。
肩を掴み、どうにか勢いを殺す。
ユニは膝をついたまま、止まる。
……無事だ。怪我は、ない。
息を整え、すぐに立ち上がる。
周囲は、何事もなかったように動き出す。
訓練は、続行。
俺は、声を出さない。出せなかった。
──兵士長としては。今の判断は、正しい。
私情を挟まなかった。配置を変えなかった。全体を優先した。
間違っていない。
だが胸の奥に、重たいものが沈む。
……一歩、遅ければ。
それだけが、頭から離れない。
ユニは、何も言わない。
いつも通りだ。
それが、余計にきつい。
俺は、自分に言い聞かせる。
──兵士長としては、正しい。
だがそれだけで、本当に良かったのか。
答えは、まだ出ない。
ただひとつだけ確かなのは──
今の判断を、俺は少しも誇れなかった。
それが、何よりも重かった。
────────────────
部屋に戻り、いつものように机の前に座る。
ノートは、そこにある。
表紙も、角も、何度も触ってきた感触のまま。
椅子に腰を下ろし、しばらく、開かずに眺めていた。
──今日の事。
リヴァイ兵士長の判断。自分が守られなかった事。怪我をしそうになった、あの一瞬。
胸の奥に、確かに残っている感覚。
怖さも、少しの悔しさも、そして──納得も。
ペンに、手を伸ばす。
……けれど。
そのまま、止めた。
書かなくても、分かる。あれは、兵士長としての判断だった。
私情を挟めば、もっと楽な選択もあったはずだ。それでも、そうしなかった。だから私は、怪我をしそうになった。
でも、それを「間違い」だとは、思っていない。
リヴァイ兵士長が、あの場で何を選んだのか。自分が、それをどう受け取ったのか。
もう、頭の中で整理できている。
ノートに書いて、確かめる必要はない。
私は、机の上のペンをそっと置き直す。
ノートは、開かない。
代わりに、小さく息を吐いた。
……大丈夫だ。
分かっている。
私は、守られなかった事で、壊れていない。
怖さも、感情も、全部含めて──自分の足で、立っている。
今日は、書かない。
それが、今の私の選択だった。