第3章
夢小説設定
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廊下は、静まり返っていた。
消灯まで、まだ少しある。
だが人の気配はほとんどなく、遠くで誰かが扉を閉める音が、かすかに響くだけだ。
俺は自室へ向かう途中で──足を止めていた。
理由は、分かっている。
……ユニだ。
ここ数日、あいつは以前ほど近寄ってこない。
寒い日でも、肩が触れる距離まで詰めてこない。
必要な報告は、必要な距離で。声は変わらず、態度も変わらず。むしろ、いつも通りだ。
──だからこそ。おかしい。
以前なら寒さに耐えきれず、無意識に半歩、こちらへ寄ってきた。
それを俺は視界に入れながら、何も言わずに受け入れていた。
風除けになる位置に立ち、歩幅を揃え、ただ並んで歩く。それが当たり前だった。
……今は違う。
寄ってこない3日間が、これほど堪えるとは思わなかった。
……寒いだろ。
言いかけて、飲み込む。
言えば、寄ってくる。それは分かっている。だがそれを言うのは、兵士長の判断か?
寄ってこない。寄らせてもいない。
俺が、距離を保とうとした結果だ。
兵士長として。上官として。これ以上、踏み越えないために。
正しい判断のはずだった。
──なのに。
胸の奥が、重い。
寒さじゃない。疲労でもない。
ぽっかりと、何かが抜け落ちたような感覚。
俺は、廊下の中央で立ち尽くす。
進めない。戻れもしない。
……何をしている。
自分で、距離を作った。自分で、線を引いた。
それで、あいつがそれを受け入れただけだ。
当然だ。兵士として、正しい。
それなのに──寂しいと感じている自分がいる。
その事実が、一番許せなかった。
……俺はユニが寄ってこない事に、安堵すべき立場だ。
踏み越えずに済んでいる。判断を誤らずにいる。そうだろう。
なのに、胸の奥では「違う」と、何度も反論している。
このまま抑え続けて、このまま距離を保ち続けて、俺は、兵士長でいられるのか。
いや──俺は、"俺"でいられるのか。
廊下の窓から、冬の夜気が流れ込む。
冷たい。だがそれでも、頭は冷えなかった。
……このままじゃ、ダメだ。
理由は、まだ言葉にならない。
兵士長としてなのか。1人の人間としてなのか。
どちらかすら、はっきりしない。
だがひとつだけ、確かな事がある。
俺は今「動かない」事で、何かを壊しかけている。
それを、ようやく自覚していた。
……クソ。
小さく息を吐き、俺はようやく一歩、歩き出した。
答えは、まだ出ない。
だが立ち止まり続けるのだけは──もう、違う。