第3章
夢小説設定
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最初は、本当に些細な違和感だった。
歩幅。並んで歩く時の、ほんの半歩分の距離。
──こんなもんだったか?
一瞬そう思って、すぐに意識から外す。
気のせいだ。あいつは元々必要以上に近づく事も、必要以上に離れる事もない。
だから──今日のこれは、偶然だ。そう結論づけた。
◇
次は、数日後。
書類を受け取る時。
いつもなら、自然に手が触れる距離。
だが今日は、僅かにずれている。
触れない。触れさせない、というほど露骨でもない。
ただ──選ばれている距離だ。
……偶然だ。
仕事だ。忙しさのせいだろう。
そう思って、俺は何も言わなかった。
◇
3日目で、さすがに引っかかる。
秋の朝は、思ったより冷える。陽は出ているが、風はもう夏のものじゃない。
整列中。無意識にいつもの距離を取ろうとして──そこで、違和感が引っかかった。
……近くねぇ。
正確には、近づいてこない。
ほんの半歩。たったそれだけの差だ。
だが、分かる。
昨日も、一昨日も、同じだった。
俺が動けば、ユニも合わせて動く。位置は保つ。視界にも入る。
──だが、寄らない。
前なら、この気温なら無意識に体を寄せてきたはずだ。
寒いから、じゃない。癖でもない。意識して、距離を取っている。
……気のせいか?
一度、そう思おうとした。
昨日も、そう流した。
だが……3日続けば、それはもう偶然じゃねぇ。
俺は視線を落としたまま、足元を確認するふりをする。
風向き。地面。周囲の動き。
──全部、いつも通りだ。
変わっているのは、ユニだけ。
いや、ユニの距離感だけだ。
仕事は早い。指示も正確。判断も、鈍っていない。
体調でもない。機嫌でもない。
じゃあ……何だ。
理由は、ひとつしか思い当たらねぇ。
──俺だ。
俺が、踏みとどまった。俺が、来なかった。俺が、距離を守った。
……それを、あいつは見ていた。
無言で。否定もせず。責めもせず。
ただ、合わせてきた。
胸の奥に、嫌な感覚が残る。
これは、正しい距離だ。
俺が選んだ距離。俺が守ろうとした線。
それなのに──その線を、あいつが先に守り始めた。
……クソ。
気づくのが、遅すぎた。
俺は視界の端でユニを捉えたまま、何も言わない。言えるわけがない。
離れろとも、近づけとも。
どちらも──今の俺には、言えなかった。
ただひとつ、確信したことがある。
これは、気のせいじゃねぇ。
そしてこの違和感は、放っておいたらいずれ致命的になる。
そう直感している自分を、俺はまだ、認めたくなかった。