第3章
夢小説設定
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立体機動装置の音が、空を切る。
規則的な噴射音。ワイヤーが張り、解除され、再び射出される。
──問題ない。
速度。高度。間合い。
全員、よく動いている。
視線を走らせながら、無意識に人数を数える。
エルド。グンタ。オルオ。ペトラ。
そして──ユニ。
……今の班だ。
最初に班を作った頃とは、顔ぶれが違う。
相性の問題で配置換えになった者もいる。壁外調査で、戻らなかった者もいる。数は、少なくない。
それでもここに立っている人員は、全員「残った」兵士だ。
偶然じゃない。運だけでもない。
判断。技量。覚悟。
その全部がなければ、この場所には立てない。
ユニはその中でも、特に安定している。
派手さはない。無理もしない。だが、落ちない。崩れない。
判断が、早い。撤退の見極めが、正確だ。壁外でも、そうだった。
前に出すぎない。だが、引きすぎもしない。
結果として、生きて戻る。
……何度も。
「──休憩だ。」
合図を出す。
隊列が緩む。装置の確認に入る班員達。
その動きを眺めながら、ふと、思考がずれる。
ユニ以外は、入れ替わっている。
それは事実だ。
だが──ユニだけが「残っている」のは、本当に、ただの結果か。
俺が選んだからか。俺の判断が、正しかったからか。
……それとも。
ユニ自身が、そういう兵士だったからか。
いや。違う。どちらか一方じゃない。
俺が選び、ユニが応え、その結果として、ここにいる。
そういう話だ。……のはずだ。
だが、壁外調査から戻るたび、負傷者の名簿を見るたび、空いた席を見るたび。
同じ考えが、浮かぶ。
俺の判断は、間違っていなかった。
……本当に?
視線の先で、ユニがワイヤーを回収し、静かに着地する。
無駄のない動き。乱れのない呼吸。
何度見ても、兵士としては文句のつけようがない。
それでも胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
──生き残り続けている。
それは、誇るべき事だ。
だが同時に、俺が「賭け続けている」証でもある。
選び続けている。前線に立たせ続けている。
……それを正しいと断言できるのか。
俺は、視線を外す。
「訓練を再開する。」
声は、いつも通りだ。感情は、表に出さない。疑問も、飲み込む。判断は、現場で下す。
それが兵士長の役目だ。
──そう、分かっている。分かっている、はずなのに。
ユニが再び空へ上がるのを見送りながら、心の奥で、答えの出ない問いが残り続けていた。
───────────────
立体機動訓練の合間。
装備の調整を終えて一息ついていたところで、声をかけられた。
「……ユニさん。」
振り向くと、ペトラだった。少しだけ、言いづらそうな顔。
「さっきの動きなんですけど……あの位置からだと、次、どう繋げればいいのかなって……。」
一瞬、リヴァイ兵士長の方を見る。
少し離れた場所で、他の班員の動きを見ている背中。
……聞きづらい、よね。
「それは……、」
口を開きかけて、ふと思い直す。
「そういうのは、リヴァイ兵士長に聞いた方がいいと思います。」
そう言うと、ペトラは小さく肩をすくめた。
「……やっぱり、そうですよね。でも、直接聞くのって、ちょっと……。」
言葉を濁して、困ったように笑う。
その様子を見て、胸の奥が、静かに揺れた。
(……あぁ。)
私も、最初はそうだった。
視線を合わせるのも緊張して。声をかけるタイミングも分からなくて。ただ、後ろについていくだけで精一杯だった。
あの背中は、今でも簡単に近づけるものじゃない。
でも今は、少なくとも私は、「聞いていい」と知っている。
少しだけ、笑って言う。
「最初は、みんなそうだと思う。でも……ちゃんと聞けば、ちゃんと答えてくれるよ。」
ペトラは一瞬きょとんとしてから、小さく頷いた。
「……ユニさんがそう言うなら……聞いてみます。」
その背中を見送ってから、私はもう一度、リヴァイ兵士長の方を見る。
相変わらず、厳しい横顔。でも──
(近寄り難い、だけなんだよね。)
怖いわけじゃない。拒まれるわけでもない。
ただ、"距離を測るのが難しい人"なだけ。
ふと、自分の立ち位置を思う。
いつの間にか、私はその距離を測る側に立っていた。
リヴァイ兵士長の隣で背中を見てきた時間が、知らないうちに私をここまで連れてきたのだと。
訓練再開の合図がかかる。私は装備を整えながら、小さく息を吐いた。
(……そうか。)
みんなにとってのリヴァイ兵士長と、私にとってのリヴァイ兵士長は、同じようで、少し違う。
それに気づいた事が、今日のいちばんの収穫だった。