第3章
夢小説設定
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倉庫の一角。
整備が終わった立体機動装置のケースが、壁際に並べられている。
その中でひとつだけ、位置が違っていた。
……高い。
視線の先で、ユニが立ち止まっている。自分の装置の前だ。
見上げて、少しだけ首を傾ける。
すぐに動かない。手を伸ばさない。
数秒。考えている。
……踏み台を探す気か。
察した瞬間、俺の足が半歩前に出かけた。
その時──
「どうした?」
別の兵士の声。
ユニが、そちらを振り向く。
「いつもより、一段高いところにあって……踏み台を探しに行こうかと。」
淡々とした声。困っている様子も、焦りもない。
兵士はすぐに状況を理解したらしい。
「あぁ、昨日全部下ろして掃除したって聞いた。戻す時に適当だったんだな。」
そう言いながら、何でもないことのようにケースを取って差し出す。
「はい。」
「あ……ありがとうございます。」
ユニは受け取って、軽く頭を下げた。
それで、終わりだ。
誰も何も気にしない。何も起きていない。
……俺以外は。
立ち止まったままの自分に、遅れて気づく。
出かけた足を、元に戻す。
今のは──出る必要のない場面だった。
助けを求められてもいない。危険もない。ただの配置の問題だ。
分かっている。それでも。
ユニが見上げていた、あの数秒。
自分で判断して、動こうとしていたあの間。
そこに、無意識に割り込もうとした自分がいた。
……余計だ。
そう切り捨てようとして、切り捨てきれない。
あいつは、もう「届かないから何もできない」立場じゃない。
自分で考えて、選んで、動ける。
それを──ちゃんと分かっているはずなのに。
視線を逸らし、別の確認作業に意識を戻す。
だが、胸の奥に残る感覚は消えなかった。
──一歩、踏み出しかけた。
それを、止めた。止められた事に少しだけ安堵して……同時に、理由の分からない苛立ちを覚える。
……クソ。
こんな引っ掛かりが増えている事自体が、すでに異常だというのに。
俺は何も言わず、いつもより長く、ユニの位置を視界に留めていた。
◇
書類に目を落としながら、俺は無意識に窓の外へ意識を向けていた。
中庭。兵士の動き。装備の位置。ユニの背丈。
……届かねぇな。
そう思った瞬間、自分で自分に、僅かに苛立つ。
今のは"事実確認"じゃない。予測だ。
あいつが、次にどう動くか。何に困るか。誰が先に手を出すか。
俺は、ペン先を止めた。
止めるのが、当たり前になっている。
──いや。
止めようとする、のが。
昔なら、見てから判断していた。
危険かどうか。介入が必要かどうか。
今は違う。
起きる前に、体が反応する。
それが兵士長としての習慣だと言えば、言い訳は立つ。
だが──
もし、俺が一瞬遅れたら?
もし、声をかける前に誰かが触れたら?
もし、俺がそこにいなかったら?
考えるな。分かっている。
だが思考は、勝手に先へ進む。
──止められなかったら?
喉の奥が、僅かに詰まる。
あの時の、雪。氷。滑る足。掴んだ腕。
あの距離。あの一瞬。
……クソ。
俺は、深く息を吐いた。
止めるのが当たり前になっている自分と、止められなかったらどうする、と考える自分。
どちらも、俺だ。
どちらも、間違っているとは言えない。
だが──このまま慣れていったら?この感覚に、何も思わなくなったら?
それが一番、危ない。
俺はペンを握り直し、書類に視線を戻す。
……今は、まだ。
自覚できている。
それだけで、踏み越えてはいない。
そう、自分に言い聞かせながら。
外の気配をまたひとつ、視界に入れた。
──止めない。だが、外さない。
その境界線の上に、俺は今日も立っている。