第3章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
リヴァイ兵士長が不在の時間帯だった。
外出先は把握している。戻るのは、早くて夕方。
その頃、執務室の外が少し騒がしくなった。
「……ユニ。」
呼ばれて顔を上げると、見慣れない兵士が1人。表情に、焦りが滲んでいる。
「リヴァイ兵長は、いつ戻る?」
「夕方です。」
そう答えると、兵士は一瞬だけ言葉に詰まった。
「それまで待つには……少し、困る状況で。」
内容は聞かなくても分かる。判断が止まっている時の顔だ。
私は、少しだけ間を置いてから言った。
「とりあえず、状況を教えてください。」
兵士は驚いたように瞬きをしたが、すぐに説明を始めた。
配置の食い違い。報告経路の混線。現場判断の遅れ。
……聞きながら、頭の中で整理する。
(これは……分かる。)
いつも横で見てきた。
リヴァイ兵士長がどう切り分けて、どこから手を入れるのか。
「まず、ここを切り離してください。それから、判断は現場に戻します。報告は、一本化を。」
言葉にすると、兵士の表情が変わっていく。
「……それで、いけます。」
最終確認だけ残して、ほとんどは片付いた。
しばらくして。
「……お前がやったのか。」
背後から、低い声。
振り返ると、戻ってきたリヴァイ兵士長が立っていた。
「はい。」
否定する理由はない。
「リヴァイ兵士長の横で、いつも見ていたので。」
そう答えると、ほんの一瞬、目を細める。
「……で?」
「……とはいえ間違いがないか、確認をお願いします。」
資料を差し出す。
リヴァイ兵士長はそれを受け取り、目を走らせた。
短い沈黙。
「……問題ない。」
それだけ。
胸の奥が、静かに落ち着いた。
任されたわけじゃない。代わりになったわけでもない。ただ、学んだことを使っただけ。
リヴァイ兵士長はそれ以上何も言わず、執務室へ向かった。
その背中を見送りながら、思う。
(私は……ちゃんと、ついてきてる。)
そう思えた。
───────────────
夜。
執務室に戻ったあとも、俺の中は妙に静かだった。
昼間の報告書を、もう一度だけ確認する。
紙の端、書き込みの癖、判断の順序。
……間違いはない。
判断は早い。省略していい所と、残すべき所を分けている。現場を見ていない人間の処理じゃねぇ。
「……。」
椅子の背にもたれ、息を吐く。
あいつがやった。俺がいない間に。俺の管轄で、俺の代わりに。
──腹が立つ、という感情はない。驚きも、もう薄い。
ただ胸の奥に、言葉にしづらい感覚が残っている。
誇らしい、でもない。不安でも、ない。
……置いていかれた、とも違う。
「横で見ていたので。」
昼間そう言った、ユニの声が浮かぶ。
事実だ。俺は、教えた。指示も、判断の基準も、危険の線引きも。
それを吸収した結果が、今日だ。
それなのに、なぜこんなにも──静かなんだ。
達成感もない。安心とも違う。
ただ、"想定よりも早く来た"という感覚。
机に肘をつき、額に指を当てる。
……俺はあいつを、いつまで「俺の横」に置くつもりなんだ。
代わりができる。任せられる。実際、今日それは証明された。
それなのに、胸の奥が少しだけ重い。
「……クソ。」
小さく、吐き捨てる。
守るために近くに置いたはずだ。危険から遠ざけるために。判断を誤らせないために。
なのに結果として、"いなくても回る"ところまで来ている。
それは、上官としては正しい。正しいはずだ。
──だがこの静けさは、正しさだけで片づけられるものじゃない。
俺は灯りを落とした執務室で、しばらく動けずにいた。
考えをまとめる気にもならず。ただひとつだけ、はっきりしている。
このまま同じ距離でいれば、いつか──何かが、決壊する。
それが何かは、まだ分からない。
だが今日の静けさはその前触れみたいに、妙に澄んでいた。