第3章
夢小説設定
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最初に気づいたのは、違和感だった。
いつもの距離。いつもの動線。視界に入る、いつもの背中。
……なのに。
鼻先に、微かに引っかかる。
「……。」
無意識に、息を吸った。
──匂いだ。
鉄と油と紙の匂いに混じって、やけに柔らかいものがある。
「……どこか、行ってきたのか?」
自分でも、理由が分からないまま口にしていた。
ユニが振り返る。
「?……いいえ。どこにも。」
やはり。そもそもどこかに行ってくるなんて、聞いていない。
なら──これは、何だ。
「いや……。」
言い直す。
「なんの匂いだ、これは。」
一瞬考えるようにしてから、ユニは納得したように小さく頷いた。
「あぁ……たぶん、ハンドクリームの香りだと思います。」
そう言って、少しだけ間を置く。
「……匂い、強かったですか?」
否定する。
「いや。悪くない。」
本音だ。むしろ──落ち着く、はずの匂いだ。
「最近、乾燥しているので……。」
そう言いながら、ユニはポケットから小さな瓶を取り出した。
慣れた手つきで、指先に取る。
……取りすぎだ。
そう思った瞬間、その動きが止まった。
視線が、俺の手に落ちる。一瞬の迷い。それから。
「リヴァイ兵士長。」
呼ばれて、反射的に視線を上げる。
「良かったら、もらってください。取りすぎちゃったので。」
「は?」
拒否する暇もなかった。
ユニは俺の返答も待たず、手を取った。怒られるなんて微塵も考えていないように、自然に。細い指が、躊躇いなく触れてくる。ぬるり、と。
指先から、掌にかけて塗り込まれる感触。
……近い。近すぎる。
「リヴァイ兵士長の手も、乾燥してますね。」
淡々とした声。評価でも、指摘でもない。ただの事実として言っている。
「……。」
言葉が出ない。
「塗った感じ、どうですか?」
「……よく、分からねぇ。」
正直な答えだった。
感触よりも、匂いの方が頭を支配している。
「なら、良かったらこれ、使ってみてください。」
瓶を、そのまま押し付けられる。
「私は、部屋にもうひとつあるので。」
それだけ言って、ユニは何事もなかったように仕事に戻った。
──終わった。
会話も。接触も。
手を下ろしても、匂いが消えない。俺の手から、ユニと同じ匂いがする。
集中しろ。
そう自分に言い聞かせるが、視線が書類を追わない。落ち着かない。
──クソが。
結局、その瓶は受け取った。だが、使う事はない。
引き出しを開け、奥に押し込み、閉める。
それで終わりだ。……の、はずなのに。
ふとした瞬間、指先に残る香りをまだ感じている気がして──
俺は、無言で深く息を吐いた。
季節は、冬に向かっている。