第3章
夢小説設定
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秋の空気は、乾いている。
視界は澄んでいるが、油断すると一瞬で距離感を誤る。立体機動には、嫌な季節だ。
合図と同時に、全員が散る。速度は十分。動きも、悪くない。
──問題は、そこじゃねぇ。
空中での軌道が交差する。
一瞬、ユニの進路に別の兵士の影が入った。
考えるより先に、体が反応した。
飛び出す。間に入る──つもりだった。
だがユニは、身を捻った。柔らかく、無駄のない動き。勢いを殺さず、すれ違うように回避する。
……間に合っている。
俺の出番は、なかった。
地上に降りる。息を整えながら、視線を向ける。
無傷。動揺もない。
……分かってはいる。
実力はある。判断も早い。あの程度なら、対処できる。
それでも胸の奥に残るのは、役目を果たせなかったような、妙な疲労だ。
俺は、小さく息を吐く。
「……今の、危なかったな。」
声は、低く。感情は、乗せない。
「気をつけろ。」
それだけ。
ユニはこちらを見て、短く頷いた。
「はい。」
それで終わりだ。本来は。
だが視線を外したあとも、胸の奥がすっきりしない。
──飛び出す必要は、なかった。
分かっている。理屈では。それでも、反射は止まらない。
俺は、再び合図を出す。
訓練は続く。
……続けられるだけ、まだましだと思うことにした。
◇
訓練場には、乾いた音が満ちていた。
足運び。息遣い。床を擦る音。
一対一の対人格闘。それぞれが距離を取り、散開して実技に入っている。
俺は、端から全体を見ていた。
──視線が、自然と一箇所に留まる。
ユニだ。
構えは安定している。
体重の置き方も、間合いの測り方も、問題ない。
……問題は、ない。
だが、その背後。
別の兵士が、僅かに軌道を誤った。集中が切れたか、判断が遅れたか。
距離が──近い。
一瞬で、理解する。このまま行けば、ぶつかる。反射で、足が動きかけた。
──行くな。
頭の奥で、声がした。
この前の立体機動訓練。飛び出した自分。そして──踏みとどまれなかった自覚。
今回は違う。
訓練だ。制御できる。あいつなら──
俺は、動かなかった。結果。
ぶつかった。だが、ほんの一瞬。
ユニは身体を捻り、受け流し、相手の勢いを利用して──
次の瞬間には、兵士が床に転がっていた。
鮮やかでも、派手でもない。だが、無駄のない処理。
ユニが、すぐに声を上げる。
「わっ……!す、すみません、咄嗟に……!」
転がされた兵士は、目を瞬かせてから首を振った。
「いや、大丈夫だ。こっちが近づきすぎた。悪い。」
ユニは、相手の兵士に躊躇いなく手を差し出す。
そして差し出された方も、流れるようにその手を取った。
……チッ。
胸の奥に、短い苛立ちが走る。
理屈じゃない。評価でもない。
ただ──完結している。当人同士で。俺の出る幕は、最初からなかった。
それが、気に入らない。だが口を出す理由も、ない。
俺は、舌打ちをひとつだけ落とす。
「……気をつけろ。」
それ以上は言わない。
ユニがこちらを見る。一瞬だけ、視線が合う。
だが、すぐに戻る。
次の相手へ。次の動きへ。
……あぁ。分かっている。
これは、正しい。
俺が踏みとどまった判断も。あいつが処理した結果も。全部、間違っていない。
──それでも。
何も言わずに見守るだけ、というのは。
思っていた以上に、神経をすり減らすものらしい。
俺は息をひとつ吐いて、視線を全体に戻した。
……次は、どうなる。
それを考える自分がいる事自体がもう──厄介だった。