第3章
夢小説設定
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夏の日差しが、容赦なく降り注いでいた。
今日は暑い。だから、上着は脱いでいる。動きやすいし、熱もこもらない。
井戸のそばを通った、その時だった。
「あっ──!」
視界の端で、誰かの手元が狂う。
次の瞬間──冷たい水が頭から……ではなく、肩口から一気に降ってきた。
「……っ!」
思わず息を詰める。
小柄なせいだろう。肩から背中、腕にかけて、思った以上に広範囲が濡れてしまった。
「す、すみません!」
慌てた声。悪ふざけでも、乱暴でもない。ただの不注意だ。
「い、いえ……大丈夫です。」
そう答えた、その直後。
「──ユニ!」
聞き慣れた声。
振り向くより早く、視界に影が落ちる。
リヴァイ兵士長だった。
……走ってきた?
そんな事を考える間もなく、手にしていたジャケットが私の肩に掛けられる。ばさり、と。
濡れた部分を覆うように、迷いのない動き。
「……大丈夫か。」
低い声。けれど、やけに早い。
「はい……水を被っただけで……、」
「気をつけろ。」
それは、水を掛けてしまった兵士に向けた言葉。
それだけ。
叱責も、追及もない。
次の瞬間には、私の方へ向き直っている。
「動くな。」
短く、端的。
ジャケットの前を整えながら、濡れ具合を確認する視線。
……近い。
「……すみません。」
反射的に、そう言うと、「謝る必要はねぇ」と、即答だった。
「夏でも、冷える。」
それだけ言って、ジャケットをきちんと着せ終える。
濡れた肩は、もう見えなくなっていた。
「……ありがとうございます。」
そう言うと、一瞬だけ視線が合う。
「当たり前だ。」
それだけ。
それから、何事もなかったように立ち上がる。
周囲の空気が、ようやく動き出す。
私は肩に残る重みと、ほんのり温かい布越しの感触に気づいて、小さく息を吐いた。
……びしょ濡れだったはずなのに、不思議と寒さは感じなかった。
────────────────
執務室の窓は、開け放っていた。
夏だ。書類を積み上げていれば、空気が淀む。
ハンジは椅子に腰掛けたまま片手で資料をめくりつつ、もう片方の手で頬杖をついていた。
「んー……この数値、やっぱり変だな……。」
独り言を呟きながら、ふと視線を外に流す。
中庭。井戸の近く。そこで──
「……あ。」
ハンジの目が、きらりと光った。
誰かが水を汲もうとして、手元が狂って──ばしゃっ、と。
見事に、ユニが肩口から下を濡らされている。
一瞬、静止。次の瞬間──
「あっはは!!」
声を殺すどころか、思い切り吹き出した。
「ちょ、ちょっと見てよモブリット!!あのタイミング、完璧すぎない!?」
窓際に身を乗り出す。
濡れた制服。小柄な体に、余計に目立つ水滴。
そして——
「来た!!」
視界の端から、全力疾走の影。
リヴァイだ。
早い。判断が早い。迷いがない。
濡れたのを視認した瞬間、リヴァイは走り出していた。
駆けながら自分のジャケットの留め具を外し、肩から引き剥がすように脱ぐ。
勢いを殺さないまま現場へ滑り込み、まだ状況を把握しきれていないユニの肩に、そのまま被せる。
「ダッシュだよ!?完全にダッシュ!!」
ハンジは腹を抱えた。
「もうさぁ、分かりやすすぎない?"人類最強の過保護"って称号、そろそろ公式にしない?」
「……ハンジさん。」
背後から、困ったような声。モブリットだった。
「失礼ですよ。笑ってないで、仕事してください。」
「えー?だって今の見た?見たでしょ?あの反射神経!」
再び窓の外を見る。
リヴァイは濡れたユニに、ジャケットを掛けている。
水を被せてしまった兵士には、短く一言。
「気をつけろ。」
それだけ。
叱責も、詰問もない。完全に、優先順位が明確だ。
「……はぁ。」
ハンジは少しだけ笑いを引っ込めて、息を吐く。
「ほんとさぁ……、」
声を落とす。
「あの2人、もう自覚してないのが不思議なくらいだよ。」
「……そうですか?」
モブリットが首を傾げる。
「うん。だからこそ、面白いんだけどね。」
ハンジは窓から離れ、机に戻った。
最後にもう一度だけ、中庭を振り返る。
濡れたユニ。それを囲うように立つリヴァイ。
夏の光の中で、あまりにも分かりやすい光景。
「……いやぁ。」
小さく、愉快そうに笑って。
「ごちそうさま。」
そう呟いてから、ようやく書類に目を戻した。
——モブリットの溜息が、執務室に静かに落ちた。