第3章
夢小説設定
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朝。
目が覚めて、いつもの流れで身支度を始める。
洗面を済ませ、制服を取ろうとクローゼットを開けた。
そこで一瞬、手が止まる。
奥に、畳まれたままの布が見えた。
深い緑。見慣れた色。リヴァイ兵士長のマント。
借りたまま返すタイミングを失って、そのままになっているもの。
昨日も。一昨日も。毎日、そこにあった。
なのに今日は、なぜか目に留まった。
(……まだ、返してない。)
責める気持ちではない。忘れていたわけでもない。
ただ「そこにある」という事実が、急に輪郭を持っただけ。
指先で、布の端を少しだけ持ち上げる。
重さ。張り。指に馴染む感触。
……前はこんなふうに、立ち止まって考えたりしなかった。
借りた理由。返せていない理由。
それを、深く掘り下げようともしなかった。
前の私なら、ここで「返さなきゃな」と思って、それで終わっていたはずだ。
でも今は、返す・返さないよりも先に、別の問いが浮かぶ。
──どうして、気になったんだろう。
マントを元の位置に戻す。代わりに、自分の制服に手を伸ばす。
布を引き寄せながら、胸の奥で静かに息を整えた。
エルヴィン団長の言葉が、昨夜のノートと一緒に頭の中に残っている。
「リヴァイがどう思っているか、ではなく、君が"どう感じているか"を、もう一度整理してみるといい」
……そうだ。
今日からは──見ないふりをしない。急いで答えを出さない。
ただ、引っかかった理由をちゃんと見る。
制服に袖を通し、クローゼットを閉める。マントは、そのまま残した。
返すためでも、隠すためでもない。"考える余地"として。
静かに扉が閉まる音が、朝の部屋に短く響いた。
今日が、その一歩目になる気がしていた。
◇
廊下に出ると、少し先に見慣れた背中があった。
茶色のジャケット。歩幅。無駄のない動き。
「リヴァイ兵士長。」
呼びかけると、足が止まり、振り返る。
その瞬間──眉間に、僅かに皺。
「……?」
思わず、首を傾げる。
何か、変だっただろうか。寝癖?歩き方?それとも──
「……エルヴィンに、何か──」
そこで、言葉が止まる。視線が、私の顔を探るように動いた。
前の私なら、きっとここで考えていた。
どうして、そんな顔をしたんだろう。何を察したんだろう。私のどんな変化を、見ているんだろう。
でも、今日は少しだけ違った。
(……あ。)
胸の奥で、小さく何かが繋がる。
この人は私の「変化」を探っている。
良いか悪いかじゃなく。正解かどうかでもなく。ただ──気づいたから、気にしている。
そう思ったら、フッと、力が抜けた。
理由を探すより先に、表情が緩む。ちゃんとした──自分でも分かるくらいの、笑顔。
「……いいえ。」
そう答えてから、少しだけ間を置いて付け足す。
「何も、言われてません。」
嘘ではない。全部を、話したわけじゃないだけ。
リヴァイ兵士長は一瞬だけ目を細め、何か言いかけて、結局、口を閉じる。
「……そうか。」
短く、それだけ。
でもさっきより、眉間の皺は消えていた。
私の胸の奥に、小さな確信が残る。
前なら、ここで終わっていた。けれど、今日は──
(ちゃんと、自分の気持ちも見よう。)
そう思える。それが少しだけ、嬉しかった。
私はもう一度小さく頷いて、歩き出した。
いつもの廊下。いつもの距離。でも見ているものは、少しだけ変わった。
そんな朝だった。